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7 今日は18歳の誕生日です

 「あれっ、ここはどこ?」


 未希は暗い部屋のベッドの上にいた。起き上がろうとしても体が疲れているのか、指一本動かせない。


「んっ、あれ? 何で動けないのかな……」


 何度も体を起こそうと試みるがびくともしなかった。まるで体の感覚がなくなってしまったようであった。確かに自分の体は存在しているのに頭から下には何もついていないように思えた。


「さっちーん、おーい。……いないのかな」


 目の前は相変わらず真っ暗であったが、よく見ると一点だけ光っている点を見つけることができた。その点はついさっき車の中で見つけた一番星のようだった。暗い闇の中で輝く一点の光。その光は見つめていると徐々に大きくなっていき、やがて眩しくなって未希は目を細めた。


「オウヨ、ツギノオウヨ……」


 光から何かが聞こえたような気がした。声は女の人のそれだった。


「オウ? 一体何のこと……?」


 声はそれっきりで途切れてしまった。声が途切れたと同時にその光が未希の体の中に吸い込まれていった。未希の体はその光を吸い込んだ。そしてそのまま周囲の暗闇まで吸い込み始めた。そして周囲の暗闇が全て吸収され、周囲は眩しい光に満たされた。その光に未希には眩し過ぎて目を開けていられなくなった。


 そこで目が覚めた。


「はっ」


 天井が見えた。未希はベッドに寝かされていた。ただ先程とは違い、部屋は暗くなく、むしろ明るかった。見覚えのない部屋だった。ベッドの脇には窓があり、カーテンの隙間から薄っすらと光が差していた。


「ん、朝……?」


 カーテンを開けようと起き上がったとき、部屋の外から大きな足音が響いてきた。足音は徐々に大きくなる。


「えっ、なになに?」


 やがてベッド足元の向こうに見えたドアがバーンと勢いよく開いた。


「未希! 起きたのね!」


 幸子だった。見慣れた制服姿ではなく、部屋着のようなラフな格好をしていたので一瞬誰か分からなかったが間違いなく幸子であると未希は認識した。


「さっちん。お、おはよう」


 未希はまだ状況が掴めていないため、ぎこちない挨拶をしてしまう。


「おはよう! 体は何ともない?」


 幸子がベッドに座って顔を近づけてきた。


「えっ、どしたの急に。大丈夫だよ。ちょっとだるさは残ってるけど体は健康そのもの」

「そう、よかった。よし、じゃあこっちおいで」


 幸子は未希の手をとり、部屋から連れ出した。


「ちょちょちょ、さっちん。どこに行くの? いやそれに、一体ここはどこなよー」

「ここ? ここは教頭の家だよ。そして今向かっているのはお風呂。未希昨日お風呂入ってないでしょ。いくらあんたが限界オタク喪女だったとしても最低限の身だしなみはしとかないとね」

「ちょ、今大変失礼なことをのたまったね。いくら私でもお風呂は毎日入りますよー」

「なら、とりあえず入っちゃいな」


 幸子は未希を脱衣所に連れ込んで、扉を閉めた。


「安心して、誰も来ないよう私が見張っとくから。あっ、着替えはそこに置いているやつ使ってね」


 ふと横を見ると着替え一式が綺麗にそろっていた。もう何が何だか分からないままだが、昨日からお風呂に入っていないとなると一大事だ。未希は着ていた制服と好奇心を脱衣所に置いていき、浴室に向かった。


「未希ー、上がったー?」


 しばらくお風呂でのんびりしていると、脱衣所の外から幸子の声がした。お風呂でくつろぎ過ぎて幸子を待たせてしまったのではないかと思い、未希は少し焦った。


「ごめーん、今服着てるところだから。って、えっ、何この服? どうなってるの?」

「ああその服、やっぱ分かんないよね。今静香さん呼んでくるわー。ちょっと待ってて」


 脱衣所に用意されていたのは一般的な洋服ではなく袴のような服であった。


「なんだろう? 何かの制服かな? コスプレ……じゃないみたいだけど」


 どう着たらいいか分からず、あれこれ試しているところに静香が脱衣所までやってきた。


「すみません、これ初めてだとちょっと難しいんですよね」


 そう言って静香がテキパキと未希に服を重ねていく。


「じゃーん、これでもう大丈夫ですよ」


 未希は鏡をみてびっくりした。巫女のような神主のような袈裟のような不思議な服だったからだ。完全な和風ではなく洋服をアレンジしたようなデザインであったが、間違いなく特殊な服のように思えた。


「静香さん、あのー、この服って一体……」

「詳しい話はこれからさせて頂くわ。取り敢えず髪を乾かしてリビングに行きましょう」

「えっ、あ、はい」


 静香にドライヤーまでかけてもらったあと、未希は静香に背中を押されながら脱衣所を出た。脱衣所を出ると、幸子が待っていた。幸子は未希を見て静かに笑ったあと、未希の通り道をあけるように廊下の端に立って頭を垂れた。


「えっ、さっちん。どうしたの?」


 幸子はそれには答えずうつむいたまま動かない。


「ささっ、気にせず行きますよ」


 静かに背中を押され、未希は幸子を横目に廊下を進んでリビングの前のドアまで辿り着いた。未希がドアを開けようと手を伸ばしたが、幸子が未希の手を取った。


「どうしたの? さっちん」

「ドアは私が」


 そう言って未希は手を戻し、幸子が少し前に出てドアを開ける。ドアを開けた先のリビングで最初に飛び込んできたのは、未希の母であった。




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