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6 教頭の奥さんはとても素敵な方です

 未希は白のスポーツカーから白い軽自動車に乗り換え、海沿いの国道を走っていた。運転席には謎の長い髪の女が座っている。今日はいろんなことがあり、まだ頭が整理できずに混乱している。気になることがあると思ったらまた次の疑問が降ってきて、それが分かる前にまた新たな疑問が湧いてくる。そんな連続が続いたせいか、未希は深く考えるのを止めていた。今も助手席に座っている教頭と隣に座っている木下が下を向いてブルブルと小動物のように震えていることが気になって仕方がなかった。


「あ、あの」


 未希はまずはお礼と自己紹介からだと思い、運転席の女に訊ねてみることにした。


「先ほどは助けて頂いて、その、ありがとうございました。私は佐久良未希さくらみきって言います。あの、本当にありがとうございました」

「佐久良未希さんね、知っています。私は私はこの主人から連絡があったから急いで助けに来ただけだから」

「そうなんですね……えっ、今『主人』って言いました?」


 未希がこの長い髪の女性が教頭の奥さんだと言うことが信じられなかった。その長い髪は艶があってとても滑らかだ。正面から顔を見ていないが、斜め後ろから見ても醸し出される大人の色気と美人感。そんな魅力的な女性がこの教頭の奥さんだとは、信じられ、いや信じたくなかった。


「そうです。私は静香。あの国民的アニメの正ヒロインと同じ名前なんですよ。よろしくね」

「は、はあ……で、教頭先生が何で今こんなに元気がなく怯えているのでしょうか? それにこっちも……」

「ああ、木下君も怯えているのかしら? まあ、それはあれでしょう私に内緒でくすねた家のお金で買ったあの白いスポーツカーがボロボロになっているからでしょう。今どうやって言い訳しようか必死で考えているところだと思うの。まあ、私は何言われようと許す気はないですけどね」


 静香はにっこりと笑顔になった。ビクっと、教頭と木下の身体が反応した。


「嗚呼、そうでしたか。ご愁傷様です……」


 未希は何となくこの二人が気の毒になってきた。ただ、木下と反対隣に座っている幸子だけが涼しい顔をしていることにも驚きであった。そもそも教頭の車を勝手に持ち出したのは幸子である。自分は運転しただけで関係ないと思っているのだとしたら相当面の皮が厚い。未希は親友の幸子の底知れなさを感じてしまった。


「あっ、静香さん、ところでこの車はどこに向かっているのですか?」


 未希は気持ちを切り替えるために話を変えようと思った。


「とりあえず、私の家に向かっています。心配は無用です。この車は結界に守られているからあいつらに見つかることはないですよ」

「あっ、はい。分かりました」


 未希にはまだ何が何だか分からないことだらけだったが、とりあえず今は心配しなくていい段階だと自分に言い聞かせた。


「ちょっとはほっとしたかな?」


 隣の幸子が未希の手を握ってきた。


「さっちん……うん、ありがとう。取り敢えず今は安心していいってこと、よね?」

「静香さんが来てくれたんだもの、もう大丈夫よ」


 幸子の手は温かかった。その温度に触れて未希は本当にほっと肩を撫でおろした。いろいろ分からないことはあるけど、またゆっくり聞いていけばいい。そう思って安心したせいか未希は急に眠たくなってきた。


「さっちん、なんか私眠くなってきちゃった」

「いろんなことがあったから疲れちゃったのね。ゆっくり眠りな」

「……うん、ありがとう」

「明日は未希の誕生日だろ? 明日は精一杯お祝いしてあげるよ」

「そう、だったね。ありがとう。さっちん」


 未希はすやすやと眠り始めた。幸子も一安心したのか肩の力がどっと抜けた気がした。


「幸子ちゃん、お疲れさま。大変だったね」

「いえ、静香さん。私がもっとちゃんとしていれば、こんなことには……」

「いいのよ、気にしなくて。これまでずっと幸子ちゃんに任せっきりだったんだから。うちの主人も木下君も結局ほとんど何もしてないんでしょ?」

「そうなんですよ! 特にこの木下なんて、結局未希と友達になれないだけじゃなくて、逆に気持ち悪がられる始末ですよ。結局私がずっと見守ることになって……」


 木下の身体がまたびくっと反応した。広い背中がさらにしぼんで小さくなっている。


「うちの人も立場的にあまり近くをうろうろできなかったものね。でも、どうだった? 何だかんだで楽しかったんじゃないの?」

「……はい、そうですね、いろいろありましたが、楽しかったです」

「なら、よかったわ。今日でそのお役目も終わりだと思うと少し寂しいわね」

「そう、ですね」


 幸子は寂しそうな目で眠っている未希を見る。


「でも、今生のお別れではありませんから、大丈夫です」

「そうね。これからも忙しくなるからよろしくね」

「はい」


 幸子は車の外を見る。いつの間にか日は沈んでいて空は暗くなっていた。太陽が沈んだ空をじっと見ていると、小さな星が光っているのが見えた。


「あっ、幸子ちゃん。それと家に着いてからも二人を縛っている糸はそのままでね。二人とはゆっくりと話をしたいから」


 教頭と木下の身体が再びびくっと反応する。幸子はその様子が可笑しくてたまらなかった。



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