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14 琢磨という男

 未希は気を失っていたのか今自分がどこにいるのか把握できていなかった。琥太郎に抱えられたまま幸子たちから離れていくところまではおぼろげに覚えているが、それ以降の記憶がない。今目が覚めたばかりだったが、目に入ってきたのは見慣れない天井。和風の木目調の天井が目に入ってきた。和風と言っても格式があるといった風ではなく、いわゆる普通の一般家庭で見られるような木目の模様が規則正しく描かれた天井だった。


 「いたたたた。背中が痛い。私ずっと琥太郎くんに抱えられたままだったのかな」


 背中の痛みを気にしながら、起き上がるとそこには香住が座っていた。香住は先程の黒いローブ姿ではなく、フェミニンな薄出のニットに下はくるぶしまであるきれい目のタイトスカートという姿だった。髪はボブでボーイッシュだが、着ている服が女の子っぽいから草原に咲く一凛の花のように綺麗だった。黒のローブ姿しか知らない未希はそのギャップに一瞬誰か分からなかった。


「うわっ、びっくりした」

「目が覚めたみたいですね」

「ちょっと、いるならいるって言って下さいよ。私恥ずかしい独り言を漏らしちゃいましたよ」


 未希は、香住がいることに気が付くまで部屋で一人だと思っていたので、思ったことを口走ってしまったことを恥ずかしいと思った。


「恥ずかしがる必要なないです。寝ている間にはもっと……」


 香住が目を逸らして気まずそうにこちらを見るので、未希は余計に恥ずかしくなった。


「えっ、何ですか? 私変なこと言ってました?」

「えっと、いや、私の口からははずかし……、いえ言うのも憚れるようなことなのでちょっと……」

「ちょーっと、気になるんですけどー。言われたら余計に気になるんですけどー。聞いちゃったら余計に恥ずかしいのかも知れないけど、知らないことによる羞恥の方がそれに勝るっていうか」


 未希は顔を真っ赤にして訴えた。


「ぷっ、はーはっは。おかしい」


 香住が急に大声で笑いだした。


「ちょっと、私は笑い事ではないんですよ」

「いえ、失礼。今度の王様は何か変だなって思って」

「し、失礼な! 私もこれでも王様ですよ」


 未希は思い切って腰に手を当てて偉そうに振舞う。


「うるさいぞ、香住。急にどうした?」


 急にドアが空いて、葛葉が入ってきた。


「あっ、目が覚めたのですね」


 葛葉も黒のローブではなくネックのセクシーなトップスにダメージジーンズという姿であった。未希は、長くてストレートな髪に大人の色気を感じてしまった。


「あ、あのっ。はい……」

「お腹空いてませんか? 半日は寝込んでいたので何かお腹に入れた方がいいと思いまして」

「えっ、あ、えっと、お願いしてもいいでしょうか?」


 未希の言葉を聞いて、葛葉が部屋を出て行った。


「さあ、行きましょう、王様」


 香住が未希の手を取って一緒に部屋を出ようとする。


「えっ、付いて行けばいいんですか?」

「そう、葛葉は料理上手なんですよ。いい嫁になると思いません?」

「えっと、ああ、ではついていきます」


 未希は葛葉の後について行った。部屋を出ると、廊下だった。普通の家のように思えた。まるで自分がいた世界の友達の家に招待された気分だった。ついて行った先にまだドアがあり、促されるままにその部屋に入る。まるで教頭の家に行って自分が次の王になると告げられたときと同じシチュエーションだったため、未希は妙な既視感を感じた。


「ようこそ。新王様」


 そこは広いリビングだった。六人くらいが座れる少し大きめのダイニングテーブルが置いてあり、その一番奥の角に一人の男が座って迎えてくれた。テーブルの上には料理がいくつかのってあり、どれもとても美味しそうに見える。


「ささ、こちらにどうぞ」


 男が自分の目の前の席に未希を勧める。未希は促されるままにその席に座った。未希は目の前に座る男の顔を眺めて『どこかで見たことあるな』と思うも、誰だったかまでは思い出せず歯がゆく感じた。そして未希の横に香住、斜め向かいに葛葉が座る形となった。


「初めまして、新王様。いや、まだ宣言をしていないから正確にはまだ王様ではないですね」

「あ、あの初めまして。佐久良未希と言います。あなたは誰なのですか? それと琥太郎くんがいませんが今日はいないのですか?」


 未希が矢継早に質問をぶつける。


「佐久良さん、僕は琢磨たくまと言います。琥太郎は今この家の見張りで外にいます。なのでこの家は安全です。心配はいりませんよ」


 琢磨と名乗った男はがっしりした体に反して顔は中性的であり、言葉遣いも丁寧で、未希には不快感は感じなかった。むしろ好感すら持てた。


「いきなり連れてきてしまい、申し訳ございませんでした。それに関しては本当に申し訳ないことをしました」


 そう言って琢磨は頭を下げる。


「ほら、お前たちも一緒に謝れ」


 それを聞いた香住と葛葉も同時に頭を下げた。


「傷つけるつもりはなかったのですが、最初にお友達の幸子さんに怪我を負わせてしまったことも一緒に謝らせて下さい。彼女のことは僕もここにいる二人もよく知っています。少しの怪我くらいでは彼女は簡単に処置できてしまうことを知っていたとはいえ、やり過ぎました」


 丁寧に謝罪の意を示す琢磨には害意は感じられず、未希は一先ずほっとした。


「いえ、でもさっき香住さんが木下君と戦った時は流石に怖かったです。木下君が本気で心配になりました」

「ああ、それについては……」


 琢磨の話を遮って香住が説明を加える。


「佐久良さん、木下のことはよく知っていますしあれくらい私たちにはじゃれ合いみたいなものです。なので心配はしなくても大丈夫です」

「まっ、香住は木下のことが昔から気に食わないと思っているのは確かだけどね」

「こらっ、葛葉!」

「あれっ? もしかして気に食わないじゃなくて、好きのほうだったっけ?」

「あんたねー」


 香住が立ち上がり葛葉につっかかろうとする。

 

「まあまあ、二人とも、落ち着いて」


 琢磨が二人を制すると、香住は完全に納得がいってない顔のままだったが大人しく座った。


「失礼。この二人と幸子さん、木下君は昔からの知り合いでね。いろいろあるんですよ」

「はあ、そうですか」


 そう言われても、未希は彼らがどんな関係だったか知らないため反応に困る


「そろそろ本題に入ろうか」


 そう言って琢磨は人差し指を上に向けた。その人差し指からシュルシュルと音がし始めて、目を凝らせばようやく見えるくらいの細い糸が現れた。その糸は琢磨の人差し指の上方でくるくる回っている。


「佐久良さん、これが何だか分かりますか?」

「えっと、はい。スピットですね」


 未希もそれは知っていた。教頭の家で既に聞いていた。


「このスピットをどこかで見たことないですか?」

「あっ、えっと。さっち……いえ、幸子のスピットに似ていると思います」

「そう、幸子さんにこのスピットを教えたのは私ですから」

「えっ! そうなんですか? 幸子とは師弟関係ってことですか?」

「まあ、そうです。師弟でもありますし、血縁関係もあります」

「えっ!」


 未希にとっては衝撃の情報だった。未希は幸子の家族関係をちゃんと知らなかった。小さい頃から一緒だったが、家族ぐるみの付き合いはなかったからだ。


「それと、あなたの宰相になるはずのあの男、あなたの教頭先生ですね、彼は僕の弟です」


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