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トッペじいさんとモモモのうさぎ

作者: 菜種油☆

トッペじいさんとモモモのうさぎ


挿絵(By みてみん)

ふるい、ふるい、トネリコの木のじいさん。

名まえをトッペ といいます。


みんなは、トッペのことをトッペじいさんとよんでいます。

でも本とうは、ばあさんなのかもしれませんよ?


「わしはただのトッペだ! ちかくにつれあいがいるわけじゃなし、

じいさんでも、ばあさんでも、そんなのはどっちだっていい!」


そうですか、そうですか。

あんまりきくとえだをゆらしておこるので、これいじょうの

しつもんはやめておきましょう。


こんなふうに、きむずかしやのトッペじいさんですが、

じいさんがいるのは、小さながけのとっつきです。

がけの下には、ほそいみちがはしっています。


そのむかし、そのほそいみちをいった先には、大きくてふるい森と

そのまたおくには、小さな村がありました。


さて、トッペじいさん。

大きな森があるというのに、なぜひとりで、がけの上になんか

いるのでしょう?

きむずかしやだからでしょうか?


ちがいます。


そのむかしのむかし、おおむかし。

トッペがまだじいさんではなく、かわいい子どもの木だったころ。

このがけのとっつきにトッペをうえた木こりがいたのです。

木こりは三人いて、なかよくならんで大きな森までやってきました。


「やあ、ここはふかくていい森だなあ」


「やあ、でもすこし木のげんきがないみたいだ」


「やあ、じゃあぼくたちでいらない木をきろうじゃないか」


三人の木こりはそうだんしました。


「まい日、ここまで来るのはたいへんじゃないか?」


「まい日、いえにかえるのもたいへんじゃないか?」


「まい日、きった木をまちにはこんでゆくのもたいへんじゃないか?」


三人の木こりはまたそうだんしました。


「じゃあ、ここにいえをつくろうじゃないか」


「じゃあ、しごとをするいえもつくろうじゃないか」


「じゃあ、もうすこしなかまもよんでこようじゃないか」


三人の木こりはまたまたそうだんして、ここに木こりの村を

つくることにきめました。


「またこの大きな森にくることができますように」


「またこの大きな森にきたときに木がかれていませんように」


「またこの大きな森にきたときに、みちにまよったりしませんように」


三人の木こりはかおを見あわせました。


「そうだ! ぼくらにだけわかる、目じるしの木をうえていこう」


「そうだ! 目じるしの木を、森からもらってうえていこう」


「そうだ! 森からもらって、がけの上にその木をうえていこう」


三人の木こりは日のひかりの入らない、くらい森に入りました。

うっそうとした森の中は、みんなせたけの大きな木ばかりで、

なかなか三人の木こりのお目がねにかなう小さな木がありません。

やがて、目のまえにきれいなお花ばたけがあらわれました。


「すてきだね」


「すてきだね」


「すてきだね」


三人の木こりは目をほそめると、花のかおりをむねいっぱいに

すいこんで、ちいさないずみで水をごくごくのみました。



挿絵(By みてみん)

「さて、ゆこうか」


「さて、ゆこうか」


「さて、ゆこうか」


三人の木こりはくらい森の中をどんどんあるいてゆくうちに、

ぼうっとひかる、手ごろで小さな木を見つけました。


「やった! トネリコの木だ! 白くて、はいいろな木のいろが

よく目立つなあ!」


「やった! トネリコの木なら、きっと大きくなるぞ!」


「やった! トネリコの木を、小さながけにうえようじゃないか!」


よしきた!


三人は、ぼうっとひかるその木のねっこを土からていねいにほり出して、

えっちらおっちら、小さながけの上まではこんでゆきました。



挿絵(By みてみん)

ちいさながけの上は、土がかたくて草ぼうぼうです。

おまけにだれかが空けた、小さなあながいくつもいくつもありました。


「おや、うさぎのあなだ」


「おや、ここはうさぎのいえだったのか」


「おや、あそこにいるのは、あなのもちぬしのうさぎじゃないか?」


三人が草むらを見ると、三匹のうさぎがこちらをのぞいていました。


「おーい、うさぎさんたち」


「おーい、これはきみたちのいえかい?」


「おーい、ここになかまをふやしてもかまわないかい?」


三匹のうさぎはかおを見あわせると、ぴょんぴょんぴょんと

なかよく草むらからとび出て来ました。


右がわの耳がたれた、白うさぎ。

左がわの耳がたれた、くろうさぎ。

りょうほうの耳がたれた、ちゃいろうさぎ。


三匹のうさぎは三人の木こりのそばまでとびはねてくると

三人の木こりがえっちらおっちらかかえてきた、ちいさな木を

ながめました。


「これはトネリコの木だよ」


「これは大きな木になるよ」


「これはきみたちのいえの目じるしになるよ」


三匹のうさぎはくびをかしげています。

だって、目じるしなんかなくたって、うさぎはじぶんのいえが

わかるのですから。

三匹のうさぎは、そろってくびをよこにふりました。


三人の木こりは、あたまをかきかき、いいました。


「ごめん、これはぼくたちのためにひつようなんだよ」


「ごめん、これはぼくたちがまたここにくるためにひつようなんだよ」


「ごめん、これはぼくたちがもじゃもじゃの森をきれいにするために

ひつような目じるしなんだよ」


三匹のうさぎは、かおを見あわせました。

三人の木こりは、手をたたいていいました。


「そうだ!大きな森のおくにはすてきなお花ばたけがあるよ」


「そうだ!大きな森があかるくなれば、お花ばたけにゆけるよ」


「そうだ!お花ばたけには、きれいないずみもわいていたよ」


三匹のうさぎは、ふたたびかおを見あわせました。

そして、三人の木こりがかかえてきた、小さな木を見つめました。


「モ」


「モモ」


「モモモ」


そういうと、三匹のうさぎはぴょんぴょんぴょんと、がけの上に

むかってとびはねてゆきました。


「なんだろう?」


「なんだろう?」


「なんだろう?」


三人の木こりはかおを見あわせると、三匹のうさぎのあとをおいかけて

えっちらおっちら、小さな木をがけの上まではこんでゆきました。


三人の木こりががけの上までたどりつくと、三匹のうさぎはそろって

いっしょうけんめい、まえ足やあと足で土をほっているところでした。


とちゅうですこしうさぎのあながこわれました。

でも、モモモのうさぎはあなほりをやめません。

だいぶ、うさぎのあながこわれました。

でも、モモモのうさぎはあなほりをやめません。


とうとう、じめんに大きなあながあきました。

モモモのうさぎはあなほりをやめ、あなの上にぴょんぴょんぴょんと

とびだしてきました。


「モ」


「モモ」


「モモモ」


三匹のモモモのうさぎはそういうと、三人の木こりといっしょに

トネリコの木のねっこをそのあなに入れ、ていねいに土をかけました。


「そうだ! せっかくの目じるしだ。なにか名まえをつけなくちゃ」


「そうだ! ここはがけのとっつきだ。なにかいい名まえはないかなあ?」


「そうだ! トッペはどうだろう? とっつきトネリコ、トッペの木だ」


「そうしよう! そうしよう!」


そういうと、三人の木こりは目じるしになった子どものトネリコの木に

トッペと名づけ、モモモのうさぎに手をふって、がけの下のほそいみちを

あるいてかえってゆきました。


モモモのうさぎは、それはそれはていねいにトッペのおせわをしました。

雨の少ない日にはお水をあげ、草ぼうぼうのトッペのまわりに生えた

草は、ぜんぶじぶんたちできれいにたべました。

いえの中から、ねっこがびょうきになっていないかしらべます。

いつのまにか、トッペとモモモのうさぎたちは、かぞくのように

なかよくなっていました。


そこへ、三人の木こりがまたがけ下のほそいみちをやってきました。


「やあ! トッペ、ひさしぶり! ずいぶんりっぱな木になったねえ」


「やあ! トッペ、きみはりっぱな目じるしになってくれたよ」


「やあ! トッペ、これでぼくらもまよわずにここまでこられるよ」


木こりたちのこえに、モモモのうさぎはぴょこぴょこぴょこっと

トッペの木のかげからかおを出しました。


「モ」


「モモ」


「モモモ」


三人の木こりたちと、三匹のモモモのうさぎは、さいかいを

よろこびました。


やがて、三人の木こりは、ほかの木こりたちをよんできて

ふかい森におのを入れ、森の中をすこしだけきりひらいて、

そこに小さな村をつくりました。


村のひとたちは、みんな木こりのしごとをしています。

村をかこむ大きな森から、そだちすぎた木をきって、

町にはこんでは、お金にかえてくらしていました。

やがて、ちいさな村にはつぎつぎに子どもが生まれ、

やがて、きゅうくつな村になってきました。


村のひとたちはあつまってそうだんしました。


「これじゃ、しごとがしづらいなあ」


「ひともふえたし、子どものがっこうもつくらなきゃ」


「じゃあ、もうすこし。もうすこしだけ、森をきりひらこう」


三人の木こりも、そのあつまりにいましたが、もう三人だけでは

ものごとがきめられません。三人の木こりは森の木をきることを

モモモのうさぎがはんたいしないか、しんぱいでしたが、とうとう

森の木はすこしだけきりひらかれることがきまってしまいました。


「なあに、うさぎのあなはずいぶんとおくだ。トッペの木さえ

きりたおさなければだいじょうぶだよ。さあ、はじめよう」


トン カン トン トン カン トン トン

トンカ トンカ トトン トトン カカン カカン トトン


森の中からたくさんの音がきこえてきます。

モモモのうさぎは耳をぴんとすませて、森のほうをながめました。

やがて音はやみ、小さな村はほんのすこしだけ大きな村になりました。


それからずいぶんながいときがながれ、すこしずつ、すこしずつ

おのの音がひびくたびに、森は大きな村にたべられてゆきました。

村のひとはお金もちになり、トッペの目じるしは、いろんなひとの

やくに立っています。


モモモのうさぎはただじっと、すっかりじいさんになったトッペと

いっしょに、がけの下をとおってゆく村のひとたちと、きられて

町にはこばれてゆく、森の木をながめていました。


「なあ、さいきんちょっと木をきりすぎていないかい?」


だれかがそういいはじめ、また村のひとたちはあつまってそうだん

しました。

三人の木こりはもうすっかり年をとって、耳がとおくなり、

足もよぼよぼになってしまって、あつまりにさんかすることは

できません。


「なにしろ、村のまわりはきりかぶだらけだ。あれじゃあ

はたけもつくれない」


「どうだろう? やきはたにしてみては?」


「そうだね。木のねっこはほるのがたいへん。火をつけて、

きりかぶをもやしてしまおう」


三人の木こりがもしこれをきいていたなら、もちろんはんたい

したでしょう。

それとも、そうしようそうしよう。と、うなずいたかも

しれません。

村のひとたちはみんなそろって、森をすこしだけもやすことに

きめました。



きりかぶになってしまったふるい森の木々たちが、ほのおの中で

たくさんひめいをあげています。火はどんどんもえうつって、

やがてふるい森ぜんたいへとひろがってゆきました。


村のひとたちは、おおさわぎ。あわててきれいないずみから

水をたくさん、もえる森にかけはじめます。


めらめら、ぱちぱち、ごうごうごうごう! ばりばりばりばり!


森はどんどんもえてゆきます。いずみの水ではとてもとても

まにあいません。

村のひとたちはみんな、にもつをかかえていちもくさんに

もえる森からはしってにげてゆきました。


トッペじいさんとモモモのうさぎも、ちいさながけのうえから

もえる森を、だまって見ていることしかできません。


ふつかたち、みっかたち、森をもやしつづけたほのおは、

ようやく小さくなってきえました。


「おまえたち、いい子だからわしのねっこをかじっておくれ!」


ついに、トッペじいさんが大ごえを出しました。


トッペじいさんは、えだをぶんぶんならしておこっています。

モモモのうさぎがねっこのまわりでぴょんぴょんはねると、

トッペじいさんは、とうとう大ごえでなき出しました。


「木こりはわしをここにうえた。木こりはわしを目じるしにした。

木こりはわしを目じるしに、森の木をきってとおい町にどんどん

はこんで、とうとうふるくて大きな森をまるごとぜんぶだめにした。


わしはあのなつかしいふるくて大きな森の、さいごの生きのこりだ。

森はしんだ! わしだけがのうのうと生きているのはがまんがならん!

だからわしのねっこをかじれ!」


トッペのいかりに、モモモのうさぎはぴょんぴょんとはねまわります。

やがてモモモのうさぎは、やけてしまった森のほうに、三匹いっしょに

とびはねていってしまいました。


トッペじいさんは大ごえでなきつづけ、やがてなみだはとまりました。

じぶんのからだのねもとに、なにかきれいなものが見えます。

トッペじいさんはえだをゆらすのをやめ、じっとじめんをながめました。


「やあ、これはどうしたんだ?」


トッペじいさんのまわりには、森のきれいな花ばたけの花たちが、

たくさんたくさん、うわっていました。

トッペのそばには、いつのまにかモモモのうさぎがすわっています。


右がわの耳がたれた、白うさぎのからだは、まっくろになっていました。

左がわの耳がたれた、くろうさぎのからだは、まっ白になっていました。

りょうほうの耳がたれた、ちゃいろうさぎのからだは、まっくろとまっ白に

なっていました。


「モ」


「モモ」


「モモモ」


モモモのうさぎは、うんとうんとうんと大きくはねて、

トッペじいさんの木のえだにとびのりました。


「なあ、モモモさんや」


トッペじいさんはつぶやきました。


「わしがいちばんつらいのは、なかまがしんだことじゃない」


「わしのなかまをしなせた木こりは、木をきりたおす目じるしの

ためにわしをここにうえた。

じゃがそのおかげで、わしはあの日のひかりのとどかない森の中で、

くちはてることもなく、なかまのようにほのおの中でくるしんで

しぬこともなく、こうして今も生きておる。


そのことをおもうと、とてもつらいが、それでもわしはまだまだ

生きてゆかねばならん。わしはな、こうしていつもがけの上にいて、

おまえさんたちがいつもそばにいてくれてよかったとおもっておるよ。

森からつれて来てくれた、花もきれいで、うれしいわい」


「モ」


「モモ」


「モモモ」


モモモのうさぎも、トッペじいさんのえだの上でぴょんぴょんぴょん

とはねました。


「おお、おお。えだがおれてしまうじゃないか」


さきほどまでないていた、トネリコのトッペじいさん。

こんどは大ごえでわらいました。


ふるくて大きな森はきえて、そこにははたけができました。

はたけもいつかなくなって、そこにはいえができました。

いえもいつかなくなって、そこはのはらになりました。

のはらには木のめがのびて、またいつかふかい森になるでしょう。


だあれもおぼえていなくても、だいじょうぶ、だいじょうぶ。

トッペじいさんとモモモのうさぎは、ちいさながけのとっつきから

そのようすを、じっと、じっと、じっと、じっと、みていますから、ね。



おしまい

お読みくださりどうもありがとうございました♪(^^)

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