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2話 転生初の


━━━辺りを照らす、青白い光が消える。


視界にまだ慣れていない目が、次第に周りの景色を映し始め、同時に一際強い風が吹いた。


「・・・ここが異世界か。」


どうやら本当に俺は異世界転移を果たしてしまったようだ。

一回死んでるから転生と言ってもいいのかもしれないけど。


さて、まずは状況確認からだな。


はじめに、周りは木々で囲まれており風に靡く木の枝の音しか聞こえない。


身につけているのは、ここへ来る時と同じ衣服で居合着と袴を着ていた。もちろん腰には居合で使用する、模造刀がある。


今のところ、特殊能力がなんなのかはわからない。


そして、


「すーーー。すーー。」


何故か寝ているポーラさんがいた。


なんで寝てんだろ。てかこの人何者なんだ。天使なのか?女神なのか?はっきりしてほしいな。


ここへ来るまではこの人のことを可愛い。とか、美しい。とか表現してたけど、あの真っ白な世界に放置されてからはそんな気持ちも湧かないな。


勝手に連れてきておいてあれだけど、起こすのも悪いし、先に行くとしようかな。


そう言って立ち去ろうとしたのだが、さすがに女性をどこかもわからん森の中に放置するのは良くないと思い、結局起きるまで待っとくことにした。


ま、その間にもらった特殊能力の発動方法とかを模索しておくか。


○〇〇〇〇〇〇〇〇〇


・・・あれからどのくらい経っただろうか。ポーラさんは起きないし、特殊能力もなんなのかわからない。

そもそもここは本当に異世界なのか?モンスターの一匹も現れたりしないじゃないか。


・・はーあ。なにも起こんないし、退屈だなぁ、、、。


すると次の瞬間、なんだか嫌な予感がした。それは今まで味わったことのない、独特の気配。


次第にそれはどんどん強く感じるようになっていき、ついには足音まで聞こえるようになってきた。


・・・ついにきた!


なんだよ、らしくなってきたじゃないか。そして喜べ、俺の転生初の獲物はお前だ!


まだ見えぬ敵にそう言い放ち、俺は模造刀に手をかけて居合斬りの体制に入った。

正直まだ能力はわからなかったが、どうせこの刀に関係する能力なんだろ?いざ戦闘になればわかるだろ。


俺はその時が来るのをじっくりと待った。


足音が大きくなり、地響きが轟き、緊張も大きくなってくる。


そしてそいつは現れた。その姿はまるで熊と狼を混ぜたような、大きな体に鋭い爪、噛まれれば終わりのむき出しの牙。凄まじい威圧感を持っていた。


その生物は俺を視界に捉えると、その巨体からは想像もできないような速度でこちらへ襲いかかってくる。


まもなく体がボロボロになりそうなその瞬間、俺は刀の鯉口を親指で押し、刀を抜いてそいつの腹を斬った。






・・・・しかし、刀は肉を断つことなく、ポヨンと弾かれ後方へ飛んでいき、地面に刺さった。


・・・・。やばくね?


咄嗟に右の方へ飛びそいつとの距離をとったが、先程までいたところが大きく抉られた。


やばいやばいやばい!転生早々殺されてしまう!それを本能で感じ取り、どうにか逃走しようとしたのだがまだポーラさんは起きていない。

運良く敵が見ているこちら側とは反対方向にいるので、襲われることはないだろうが俺が逃げれば100%襲われるだろう。


そもそも逃げれんのか・・・?さっきの速度を見たら不可能な気がしてきた、、、。


そう考えてる時間にも、相手は次の攻撃の準備を始めている。


考えろ。考えろ。どうすればいい。周りを見ろ。クソッ!袴が動きにくい!!


しかし、生まれて始めて殺されるかもしれないと言う状況下で、冷静な思考ができるはずも無かった。


どんどん近づいてくる相手の前で、俺は全てを諦めた。


時がゆっくり進んでいく。これが死ぬ間際の走馬灯みたいなものなのかな。あーあ。せっかく転生したのに。

なにもすることなくモンスターに殺されるのか。


あ、なんだか先生が見える。


・・・そういえば、俺って先生に怒られてばっかりで全然感謝とか伝えられてなかったな。こうなるんだったら、もう少しその感謝を伝えたかったな、、、。


あぁ、先生がなんか言ってるよ。走馬灯でも怒られるんかな俺。


『━━━刀を失うのは武士にとって命を投げ出すようなものだ。』


確かにそうだ。俺もそう教えられてきた。


『しかし、だからと言って生きることを諦めたらいけない。たとえ刀を落とされても、たとえ刀を飛ばされても、お前の腰には鞘がついている。』


『それで相手を殺すことは難しいだろうが、しばらく時間稼ぎはできるだろう。何も刀だけじゃない。鞘だって十分活躍する。』


━━━。そうだった。


この記憶は俺が素振りをしている時、勢い余って手首を痛め、思わず刀を落としてしまったときに言われた言葉だ。


怒られはしたが、最終的にそれを知るいいきっかけになったじゃないかと笑ってくれた。



・・・まだ諦める時じゃない。せっかく教わったことを実戦で活かすことができるんだ。最後の最後まで抗わせてもらうぜ、、、!


もう無理だ。と一度諦めたことで冷静になると、相手の動きがゆっくりに感じた。


もしかしたらこれは走馬灯ではなかったのかもしれない。


俺は居合を習って間もない頃、集中力だけはズバ抜けている。と評価されていた。


それが冷静になることで、俺は相手の一つ一つの動きに集中することができるようになったのだ。


さらに、相手の攻撃は大振りで、威力は半端じゃないが

その分隙も大きかった。

次の攻撃をギリギリで避け、またその次の攻撃が来る瞬間、俺は腰から鞘を抜き取り体を捻りながら相手の攻撃を避け、カウンター気味に鞘の先を右目にに思い切り突き出した。


片目を潰されたその化け物はしばらく痛みに吠えていたが、やがて残った左目でこちらを睨んできた。

痛みで興奮しており、絶対に殺してやるという意志すら感じた。


しばらく睨み合いが続く。あちらも警戒しているようだ。唸り声をあげ威嚇してくる。


しかし、集中にも限界があるのだ。俺が死ぬとすれば、集中が切れた時だろう。多分、次の攻撃でこの勝敗が決まる。一か八かだ。

額から汗が吹き出し、やがて地面へ落ちる。それと同時に、化け物がその巨大な爪で引き裂こうと突っ込んできた。


俺はそれをギリギリまで引きつけ、攻撃を避けると同時に持っていた鞘を空中に置いてきた。


次の瞬間、ものすごい勢いで木にぶつかったその化け物はしばらく立ちあがろうとしていたが、やがてピクリとも動かなくなった。


その額には先程俺が手放した鞘が刺さっていた。

鞘が額には刺さるくらいの勢いって、もしこれを食らっていたらもしかしたら俺は肉片すら残っていなかったかもしれない。


それにしても、ひどく疲れた。結局、特殊能力なんて発現しないし、異世界で無双なんてできそうにない。


・・・はぁ、、、。疲れた、、、。


やがて俺は先の闘いの疲れからかどんどん重くなる瞼に抗うことができず、その場に倒れてしまった。


〇〇〇〇〇〇



「━━━。━━━っ!」


「うわぁっ!」


跳ねるように飛び起きると、びっくりしました・・・。と胸を押さえたポーラさんが目に入った。


「だ、大丈夫ですか?意識ははっきりとしてます?自分の名前わかりますか?」


ポーラさんはそう言いながらこちらを心配してくれている。


「えぇ、大丈夫ですよ。」


ひとまず無事を伝えると、それは良かったです。とホッとしたような表情を見せてくれた。


が、すぐに


「ほんとにびっくりしたんですから!私が目を覚ましたら、おっきな熊みたいな動物と陸歩さんが倒れてるんですもん!放っておいたら別の生き物が寄ってきそうだったので慌ててこの洞窟まで運んだんですよ!」


本当に大変でした!と怒っていた。


「てゆうか、私なんでここにいるんですか?確かにあなたをこの世界に送りましたよね?どうして私まで?」


それは間違いなく、直前に俺が腕を掴んだからだろう。

しかし、ポーラさんが覚えていないならわざわざ言う必要もない。


まぁ、俺をあんな真っ白な世界に長時間放置した罰だと思ってもらえればいいかな。


「まぁまぁ。いざとなったら自分の力で帰ればいいじゃないですか。」


「私、この世界だと力使えないんですけど・・・。」


・・・。・・・え?


「そ、そ、そうなんですか?!力が使えない?!」


帰れない?!待ってくれ。それは割りにあっていない。


俺としては、あの世界に放置したことを理由に、しばらく手助けをしてもらおうと思っていただけなのに。


それに、力が使えないなら俺はこの先ポーラさんを守らないといけないということか?


・・・・後悔しても仕方がない。


「ポーラさん・・・話があります。」


「・・・?」


「あなたがここへ来ることになった理由は━━━」


俺は正直に話すことにした。




「あー・・・。なるほど・・・。」


怒らせただろうか。怒っただろうな。


「いやー。・・・いいんじゃないですか?私も正直あの仕事に飽き飽きしてたので。」


「え?」


「だって私、任される仕事が少ないんですもん。だから暇で暇でしょうがなかったんです。そんな時にやっと仕事がきた!と思ったら、誰でもできる仕事で・・・。


どちらにせよ、帰っても仕事がないと思うので大丈夫ですよ?」


・・・あぁ。良かった。ポーラさんがそう言ってくれるなら俺も気に病まずに済む。本当に良かった。


「それに、私もちょっと憧れがあったんです。仲間を集めて、一緒に旅をして、強大な敵に立ち向かう、、、。そんな旅に・・・!」


「だから、悪いと思ってるなら私を連れて行ってください。何もできないですが、一緒に旅がしたいです!」


ここまで言われて、断る奴はいないだろう。

間接的とはいえ、俺を異世界に連れてきてくれた恩人なのだ。


「えぇ。もちろんいいですよ。・・・これからよろしくお願いします。」


「はい!お願いしますね。」


そう言って俺たちは握手を交わした。


こうして、異世界最初の仲間はポーラさんになった。


しかし、上手くこの世界でやっていけるか不安でしかない。まずは俺の能力を早く知らないといけないな。

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