10話 疲れた時に見る夢
「━━━くん。・・りっくん。」
・・・ん?なんだ?
なんだか、聞き覚えのあるような、、、
「りーっくん。」
目の前に少女が飛び出してきた。
「うわぁ!!!!」
あまりにも急な事に、かなり驚いてしまった。
その俺を見た少女はクヒヒヒヒとイタズラっぽく笑う。
絶対イタズラ好きだろこいつ。
「いや、てかここどこだ?俺って確かモンスターの巣で寝てたはずじゃあ・・・。」
「ん?だってここ夢の世界だよ?」
えぇ、、?夢ぇ?
なんで夢と分かって俺起きないのぉ?
もうよくわかんないテンションになってる。
「ねぇねぇー。りっくん私について気にならないのー?
私、夢に出てきてびっくりさせようとしてたのにー!」
んー。言われてみればそうか・・・。
・・・・ん!?
「お、お前誰だ!?」
「えぇ、、、今更、、?」
あ、危ない。夢だからと安心しきってた。
少なくとも、俺をりっくんと呼ぶ者を俺は知らん。
するとその少女はくるりと一回転して
「ふふーん。誰だと思う〜?ヒントはねー、
ずっとそばにい、た、よ?」
そしてキュピーン!とウィンクをしてみせた。
「あー。はいはい。可愛いねぇー。
で、誰?」
「ちょっ!せめてもう少し考えてよ!」
えー。でも、ずっとそばにいたって言ってもポーラしかいないし、もしかして現世で?
いや、こんな見た目の子は見たことがない。
考えれば考えるほど分からない。
当の本人は俺が考える間、ずっとうろうろと落ち着きがなかった。
・・・何故だろう。無性にこの子に愛情が湧いてくる。
「ねぇー。まだー?」
いよいよ待ちきれなくなったのか、ついに俺の腕をツンツンし始めた。
「・・・降参だ。全然わかんない。」
無理でーすとお手上げポーズを見せると
「そっかー。わかんないか・・・。」
明らかにシュンとしてしまった。
もしこれがポーラだったなら、俺は完全に無視を決め込んでいただろう。
だが、この少女のシュンとした姿は
助けてあげたい!大丈夫かな?飴ちゃんいる?
と思ってしまうくらいの魅力がある。
おい!思い出せ!俺!この感じ、
記憶から呼びおこせぇ!!
「ま、私も自分の名前わかんないんだけど!」
・・・・・。
「はぁーあ。早く夢から覚めないかなぁー。」
「え?ちょ、ちょっと待って、ごめん。
謝るから、謝るからぁぁぁ!
セルフローブローしないでぇぇぇ!!!」
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
「で?お前はなんで俺の夢に出て来れてんの。」
正座した少女の前で仁王立ちをする俺。
側から見たら、やばい光景だろう。
でも大丈夫。ここ、俺の夢の中です。
「うぅ・・・私だって、よくわかんないもん・・・。
いつも声をかけてるのに、りっくんに届いてないみたいだし・・・。」
いつも声をかけてる・・・?
ますます意味がわからん。
「声をかけてるって一体どこから・・?」
すると少女は俺を指差す。
「ん?だからどこだよ。」
「ん!」
えぇ、、、。マジでどこ、、、?
少女の指差す方をしっっかりと追ってみる。
・・・??
んーー?よく見たら、俺の下半身に向けられてないか、、、?
はっ!!
「分かったぞ。お前、まさか、、、」
「俺のち〇ち〇なのか?!」
「いや、何言ってんのりっくん。」
やめなさい。わかったから。汚物を見るような目で見るな。
「もう!なんでわかんないの?!
私ずっと腰を指差してたでしょ?!」
腰ぃ??
いやいや、俺の腰には模造刀しか・・・・
・・・は?
「え、待って。いや、そんなはずは。でも、
うん?」
一旦、落ち着こう。まず、目の前の少女は?
いつも俺に声をかけてると。
そして、それがどこからか。腰と。
そんで?俺の腰にはいつも模造刀があると。
うん。どういうこっちゃ。
あり得ないでしょ普通。
あ、ここ普通じゃないか。異世界だもんね。
これは聞いた方が早い気がする。
「あの、さ。もしかして、お前
・・・俺の模造刀だったりする・・・?」
「━━━っっ!!!ピンポンピンポーン!!
せいかーい!だいせいかーーい!!」
ま、マジで?そんなことあるの?ありえるの?
うそやん。あ、そうかこれ夢だ。だからか。
あーね。
しかし、少女に抱きつかれ色んなところをツンツンされながら、1人で納得しようとしていた
俺の脳内に、恩師の言葉が思い出された。
『物には、魂が宿ってる。
だからこそ、手入れを怠ってはならない。
しっかりと、刀油を用いて刀身を清めろ。
そうすれば、宿る魂もお前に力を貸してくれるはずだ。』
よくこんな長いの思い出せたな。
しかし、まさかそれが本当のことだとは。
てっきり、先生は
鯖などができてしまえば、その分の重さが
加わり演舞に支障をきたすから。
という意味で俺たちに伝えていたのだろうと思っていた。
・・・もしかすると、知ってた?先生。
「えへへー。やっとりっくんに気づいてもらえた。」
あー。可愛い。
は!何言ってんだ俺。
・・・でも、そうか。
やけに愛着が湧くと思っていたけど、この子が本当に模造刀なら、納得がいく。
だって、俺自分の模造刀大好きだもん。
毎日欠かさず手入れしてたし、なんなら剣道の練習の時すら持ってきてたもんな。使わないのに。
ん?手入れ?
「ねぇ。りっくん。
いつもみたいにさ、撫でてよ。ここ。」
「え。」
待ってください。
この子の言ってることって、
俺、手入れするたびにこの子の身体を撫で回していたということ・・・?
は、犯罪だぁ。
「あれ、気持ちいいの、、、。
こっちの世界に来てから全然シてくれないんだもん、、、。
ね?お願い。」
「っっっ!!!」
だ、大丈夫。ちょっと頭を撫でるだけ、、大丈夫大丈夫。
覚悟を決め、手を伸ばす━━
「あーあ。時間切れだ。」
「・・・へ。」
「もうすぐりっくん起きちゃうみたい。
・・・せっかくいいところだったのに。
まぁいいや。あっちではちゃんと手入れしてよね!」
その言葉と共に、少女がだんだんと朧げになっていく━━━
〇〇〇〇〇〇〇〇
「・・・・。」
・・・暗い。
どうやら夜は明けていないようだ。
そして、傍に置いた刀を見る。
これが、あの子・・・。
それを意識した瞬間、辺りは真っ暗なのに、
何故か刀の鍔がキラりと光った気がした。