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不味くて 嫌いな 魅惑の

作者: スコ休ミ

今回のお題は

「居酒屋にあったらテンション上がるものってある?」


音声配信アプリRadiotolkにて配信をしております。

https://radiotalk.jp/program/67074


けいりんさん(https://radiotalk.jp/program/59156)という方の企画「お題で創作」に参加して書いたものです。


作者を明示していただければ、ご自由に朗読発表できます。特に連絡は不要ですが、ご連絡いただけたら喜んで聞きに行きます。

「あ、いちごサワーある!これにしよっかなー」

 向かいの席に座る高瀬がうきうきと言った。

「かわいいのいくねー。愛莉ちゃんっぽいなぁ」

「そうですかぁ? 赤いのって元気出ますよね!」

 馴れ馴れしい呼び方に気を悪くした様子もなく、高瀬はメニューを見つめる。

「うわぁ、唐揚げおっきい! テンション上がりますね」

「あとこのベーコンポテサラ! おいしそ~」

「やっぱもろきゅうですよね」

 高いテンションで周りを盛り上げながら、注文のタブレットを操作していく。

 ゆるふわかわいい見た目と、それに負けない幼い声。それでいて仕事はきちんとして、飲み会での気配りもぬかりない。そんな完璧なオンナノコ、高瀬愛莉。男に媚びてるとか狙ってるとか言われて、女に嫌われがちな女。

 元からそんな風ではなかった。でも今はそれが彼女という人間。

「カンパーイ!」

 ひときわ高い声で乾杯の音頭を取り、真っ赤なサワーをごくりと一口。あんまりおいしそうじゃない。そりゃそうだ。高瀬は元々甘い飲み物は好きじゃない。風呂上りに独りでハイボールを飲むような奴だ。

 酒が入り段々温まってきた場で、高瀬は率先して面白おかしい話題を提供して盛り上げていく。それに反比例して、わたしの気持ちはどんどん冷えていった。

 ハイテンションで注文していたいちごサワーは、乾杯の一口だけでテーブルに置かれている。いちごサワーだけではない。唐揚げも、ポテサラも、もろきゅうも。高瀬は人に取り分けるだけで自分では一口も食べていない。

 そうだよね。アンタ揚げ物嫌いだもん。鶏肉の皮の部分が、食感も油もダメなんでしょ。ポテサラだって、マヨネーズ嫌いだし、じゃがいもが野菜の面してサラダになってるのが信じられないって言ってたよね。きゅうりは野菜の中で一番嫌い。

 いちごは味は好きだけど口に残る種が嫌い。

 甘いサワーは食事には合わない。

 全部全部、アンタが嫌いなものばかり。


 だけどアンタの恋人は、そういうのが好きなオンナノコが好きだったんだよね。

 短かった髪も伸ばして、甘いお酒を頼んで。唐揚げとかポテトとか、そういうガッツリしたものを喜んで食べる、でも体重は増やさない、カワイイオンナノコになって。

 恋で変わった性格は、本物なんだろうか。

 変化を愉しむべきなのか。偽物と非難するべきなのか。


 あいつとはもう別れたのに。

 なのに何で、前のアンタは戻ってこないんだろう。

 ああ、イライラする。


「間違って注文しちゃった。交換してくれる?」

 わたしは追加注文したハイボールを指して、高瀬に言った。彼女は一瞬、ほんの一瞬真顔になって、鋭い目でわたしを射抜いた。

 わたしはそれを無視して、有無を言わさずグラスを交換した。

「……もぉ、しょーがないなぁ」

 まるで何事もなかったかのように、彼女はへらりと笑ってハイボールをあおった。

 わたしは氷が溶けた薄いいちごサワーを啜る。微かな炭酸が、わたしを責め立てるようにパチパチと口の中で弾けて。ゴロリと転がり込んできた、ぐにゃりと噛み応えのない果肉の後に、ブチブチとした種。舌の上にざらざらと残るそれを、苦虫の如くに噛み潰し。甘ったるくて、微かな刺激を与えて、最後に不快なざらつきを残していく、まるで彼女のようなアルコールを、わたしは飲み干した。

 ヨケイナ オセワ。

 わたしだけに見えるように、小さく動かした口が、そう言った。

 ああ、むかつく。不味い。イライラするのに。

 わたしは、もう少し飲みたいと思ってしまった。

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