Die HACHIOUJI Stadtmusikanten
「うむ、国道を順調に進んで居るようじゃな。予想よりも早いくらいじゃ、これもお前さんたちのおかげじゃよ。わし一匹じゃとてもここまで進めなんだろう」
羊羹爺さんがハムスターとは思えない博識ぶりで道路標識を読み、行程を順調に進んでいる事を確認した。
「爺さんは凄いもんだねえ、あっしは学がないもんであんな板に何が書いてあるのかなんざ全くもってチンプンカンプンでさあ」
「アタシも平仮名と片仮名くらいはちょっと読めるくらいってなもんさ。爺さんは本当に大したものさねえ」
弥太郎と吹雪は桑の木の木陰に横たわりながら爺さんの知識に舌を巻いていた。
かつて暮らした大学生のアパートで、羊羹爺さんは飼い主が食い入るようにパソコンの画面見入っていた頃を思い出していた。飼い主があんなに長時間見つめているパソコンの画面の模様、もしかしたらあれを分かるようになれば飼い主も自分の方を少しだけでも見てくれるんじゃないか?羊羹はそんな期待を胸に毎日必死でパソコンの画面をのぞき込み、謎の模様が「文字」というものでそれを用いて人間たちは意思を交わしたり情報を伝達するということ、飼い主が大学で外国人に日本語を教えるサークルに参加している事を知り、毎日教材と授業の様子を眺めていた。
「バカな事を考えておったな。文字が分かれば、飼い主が振り向いてわしを見てくれるかも、とは・・・」
「こんな事をちょっと知っているだけで凄い事があるものか、亀の甲より年の劫と言うくらいのものじゃよ」
爺さんは偉ぶることもなく、念の為にと弥太郎と吹雪に「ペット霊園」という文字だけは判別出来るようにしっかり教え込んでいた。
「あっしはやっぱり学があるよりも旨いクローバーがある方が良いさねえ」
「弥太郎、これくらいは覚えときな。何事にも万一の事ってのはあるからねえ、もしアタシたちが離れ離れになっても落ち合う事が出来るかもしれないだろう?」
なかなか覚えるのに難渋している弥太郎に吹雪がやんわりとたしなめる。
弥太郎は元気なく「へい」と返事をしたと同時に、藪の中からこちらに何者かが近づいている物音を感じ取った。
「姉さん、爺さん!」
「わかってるよ、弥太郎。しかしこれは一体全体何者だろうねえ、人間でも無し、犬でも無し。イノシシにしちゃあ小さいしようだし」
「うむ、肉を食らう獣の匂いではないようじゃが・・・」
ピンと耳としっぽを立てて警戒する吹雪も、素早く弥太郎の頭の跳び乗った羊羹爺さんも見当がつかないようだった。