伝説の詐欺師、サラリーマンはじめました。
なろうラジオ大賞2をきっかけに、初めて小説を書いてみました。
初めてなので拙い点が多いと思いますが、良かったら読んでみてください。
「え、サイバー攻撃!?」
水森が詐欺師を離れ、サラリーマンを始めてから300回目の朝。
出社すると、『紺野警備会社』はてんやわんやの大騒ぎだった。
「データの身代金を要求されている!」
「誰か、何とかしろ!」
「専門家の伝手があるので、俺、呼びます!」
「でかした、頼む、堺!」
水森の後輩・堺は、急いで部屋を出て行った。
しかし呼ばれたIT技術者は、「要求額を払わないとデータは戻りませんね」とあっさり述べた。
泣く泣く要求に屈し、1000万円が払われた。
2ヶ月前のことだ。
◇
「例の攻撃後、客が離れている。経営もかなり厳しい。」
社長の言葉に、30人の社員は皆黙って頷く。
「実は、この前堺君が連れてきた方の会社、『橘サイバーセキュリティ』が、うちに買収話を持ちかけてきた」
社員は皆、思いがけない話に目を見開いた。
優秀な堺は真っ先に冷静さを取り戻し、悪くない話だと思いますと答えた。
水森は悩んだが、私も賛成ですと述べた。
「では正式にこの買収話を受けようと思う。3000万円で買ってくれるそうだ」
これが、2週間前の話。
◇
そして今水森は、ドバイにいる。出張として――、ではない。
「2年かけて仕込んだ甲斐がありました! 詐欺師ネイビー、痺れる演技でしたよ!」
水森が上機嫌に話しかけた相手は、紺野社長ことベテラン詐欺師のネイビー。
「流石の計画だった、伝説の詐欺師アクアよ。今頃橘は、買ったはずの紺野警備会社を探し回っているだろう!」
橘サイバーセキュリティは、表はIT企業だが、裏では詐欺やサイバー攻撃を行う犯罪グループだ。
水森は2年前、ここをターゲットに決めた。
「橘は俺に恨みがありますから。詐欺師から足を洗ったと聞けば、勝ち逃げは許さないと仕掛けてきて、罠にかかると思ったんですよ」
水森は、自分が足を洗ったと見せるため『会社ごと作った』。
紺野警備会社は『存在しない』。
社員は皆協力者だったが、橘は予想通りスパイを潜り込ませてきた。堺だ。彼だけは敵の刺客だった。
橘が、敵を屈服させ配下にすることを好むとを知った水森は、自らのいる会社を買収させることにした。得意のサイバー攻撃を待ち、負けた振りをした。会社ごと屈させるために橘が買うよう、仕向けたのだ。
『存在しない会社を売るために』。
◇
翌日。漸く気づいた橘は、放心状態で叫んだ。
「どこから騙してた! 詐欺師を辞めたのも嘘か!? ただサラリーマンを始めてみただけだったんだな、くそ!」