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9 チートにもほどがありますかね?

「あの!私!勉強が好きなので!そう!本でっ!本でそんな感じのお話があったんですよ!」


あわてて誤魔化すとギルマスは訝しそうな目つきでしばらくこちらを見ていたけれど、諦めた様に深くため息をついた。


「まあ、今は時間がないからな・・・とりあえずはワケありって事で納得してやる」


「はあ・・・」


「だがな、S級になればいずれ王宮や上位貴族から目をつけられるぞ」


「ですよね・・・」


そうなると、自由に冒険したりハーレム作りたいなんて言っていられなくなる。

政治に利用されたり、戦争にだって駆り出されるかもしれない。

それだけは嫌だ。


「それだけは嫌って顔だな」


「うっ!ギルマスは心を読む魔法でも使えるんですか?」


「いや、おめえ全部顔に出てるからな?そんなんじゃ貴族と渡り合えるどころか利用されまくって最後には政治のコマにされて嫁に出されるのが落ちだな」


「そうなんですよ!!!貴族との駆け引きなんて絶対無理です!!!」


テーブルにバンっと両手をつくと、勢いに押されたのか引きつった顔で後ずさるギルマス。


「とりあえず落ち着け!お前が興奮すると後ろのテルアまで威嚇してくるから心臓に悪くていけねえ」


それに・・・と続けるギルマス。


「普通、お貴族様の嫁になるのは女の夢じゃねえのか?妾だって立派な家や服だって山ほど買ってもらえるぞ?」


「家や服にも不自由していないからいいんです!じゃあギルマスは、お金があればカエルの顔した貴族の女性を抱けるんですか!?」


「ぐっ!・・・それは・・・」


「私はカエル顔が悪いって言っているんじゃないんです!カエルだって結婚しちゃえば少しは可愛く見えるかもしれませんし。でも結婚には性格の良さだって必要でしょう!?良い人は間違っても平民に権力で妾になれとか言いませんよね!?」


「お、おう・・・」


「それに私は自分の力で逆ハーレム築くって決めてるんです!それを阻止しようとするなら雷撃でビリビリしてやろうくらいには思っています」


「おまっ!貴族相手に電撃とか!首が飛ぶからやめとけ!それに逆ハーレムって・・・」


「チサさん」


鼻息荒く拳を握って宣言した所でそれまで黙っていたクレスさんが口を開いた。


「それは本当に危ないのですよ。お願いです・・・今は貴族相手には理不尽でも我慢をすると・・・攻撃を与えないと約束してください」


私の両手を握り込み、真剣な目で訴えるクレスさん。

あまりに近いので言われた内容よりもその茶色く綺麗な目に見入ってしまった。


「綺麗・・・・・」


「!」


途端にクレスさんの顔が真っ赤に染まる。

しまった、声に出てた。


「おいおい、クレス!子供に手出すんじゃねえよ」


「出しませんよ!まったく!」


ハッとしたように立ち上がったクレスさんが咳払いをした。


「しかし・・・お嬢ちゃんの処遇をどうしたもんか・・・」


そう言うと、ギルマスは顎を撫でる。

すると考え込んでいたクレスさんが口を開いた。


「S級候補の特待生としたらどうですか?」


「とくたいせい?」


「ええ、保有魔力量やスキル、レベル、などに優れた者を未来のS級候補生としてギルマスが育てるんですよ。潜在能力はあるのに経験不足で命を落とすという事があってはもったいないですからね。特待生でいる間はS級冒険者と同じ法が適応されます。S級では無いけれど国からは守られるという・・・なんというか・・・ある意味裏ワザ的な存在ですね」


「へ?じゃあ特待生ってたくさん居るんじゃないですか?貴族に煩わされたくない冒険者も中には居るでしょう?」



「特待生枠は基本的にギルドにつき2人までなんですよ」


「2人!?少なっ」


「そう、それくらい狭き門なんですよ。それにこのギルマスが偏屈・・・いや、厳つい・・・じゃなくて、厳しいせいで就任してから30年の間に一人しか居ませんでしたし」


「クレス・・・それ全部悪口じゃねえか!」


「だって本当の事でしょう?」


「仕方ねえだろ!力もねえのに金で枠を買おうとする奴が多すぎんだよ!」


「本来はお金で買えるものなんですか?」


疑問に思ってクレスさんを見上げると、困った顔をする。


「本来はいけない事なんですけどね、ギルドはどうしても地域と深く関わるのでその街の権力者や富豪が娘を貴族から守るために特待生にしたり、男爵の長子が少しでも権力を上げる為に利用されたりするんですよ」


「ま、賄賂を貰っているのがバレれば極刑だがな」


当然だろう、低級とは言え国に属する貴族から守られるのだ、それはすなわち特待生となれば子爵と同等の権力を持つことにも等しい。

それを国王以外の者が金で与えていた事が分かれば首を飛ばされても文句は言えない。


「そんなに危ないのに何故お金でやり取りされるのでしょう?」


「命をかけても惜しくないだけの金が動くって事だな、それに特待生枠の基準はギルマスが決められるかなら」


「もちろん最低限の基準はありますけど、そのレベルを決めるのはギルマスですからね」


「え!?じゃあやりたい放題じゃないですか!」


クレスさんは苦笑しながら曖昧に頷いた。


「俺はそういうのに虫唾が走るんだ。金は自分で稼いでこそ旨い酒が飲めるってもんだ。楽してもらった金で飲む酒のどこが美味い」


この強面のギルマスは見た目に反して誠実な性格のようだ。

うん、思ったよりも信用できそう。


「それには僕も賛成ですね、それはさておきチサさんの階級ですが・・・」


「特待生ならテルアを使役している時点で問題ねえな」


「へ?それだけでいいんですか?」


驚いてそいう言うと、ギルマスは呆れたような顔をして頭をかいた。


「あのなあ、魔獣を使役出来るってのはすげえ事なんだぞ?」


「そうなんですか?」


「ギルマスは言葉が足りないですから、僕から説明しますね。」


そう言うと、お茶を入れたカップを差し出してくれるクレスさん。


「そうですね・・・何から話しましょうか・・・初代王がテルアを使役し国を守った歴史はご存知でしょうか?」


「はい、教会にある子供用の歴史書を読んだので細かい事は知りませんけど・・・」


「絵本にはテルアの記述がありませんからね。当時、その魔獣は一晩で一国を食い滅ぼしてしまうほどの強大な力を持っていました。王は何かしらの方法でその魔獣と意思疎通が出来たと言う記述が歴史書に記されています。それは未だに解明されておらず、今現在魔獣を使役出来る者はこの国で3名のみ、そしてその全員がレベルの低い・・・例えばスライムや噛み付きうさぎなどを使役するので精一杯です」


なるほど、それならギルドの冒険者がビックリして壁に張り付くのも仕方がない気がする。

国を滅ぼすレベルの魔獣を使役していて、しかもその魔獣にお手やおかわりをさせるほど意思疎通が出来るとあっては、いくら幼気な少女の姿をしていても、その場から逃げ出したくなるのは当然だ。


それに話を聞く限り、子供の頃に無意識に魔法陣を展開してしまい、テルアと意思疎通が取れているなんて言ったら要注意人物として隔離されて研究者達にいいようにされてしまうだろう。


「ただな、お嬢ちゃんはそれだけじゃない気がするんだよな」


「そうですね・・・僕にも分かるくらい魔力量が桁違いな事ですね」


「それだけなら良かったんだけどな、この剣ダコ見てみろ」


そう言うと、ギルマスは私の手を握って開いたり触ったりしだした。


「普通子供がこんな所に剣ダコ作るか?それに体が年齢に見合ってねえ・・・俺は元々でけえから気にならんが、この辺の庶民のガキがこんなに発育が良いってのは聞いた事がねえ」


「う~ん、それはピツハのお乳のせいかもしれませんね、ピツハの母乳飲んでからは病気一つした事ないですし」


「それしか考えられないだろうな、だが年のわりに体幹がしっかりし過ぎてる。表にこそ出てないが、筋力も相当なもんだろう・・・どこかで誰かに剣の指南を受けたりしたか?」


「いえ、のどかな町なのでそんな人居ませんし・・・あ、でも!生活のためにピツハと獲物をとったり身を守るためにピツハを相手に回避の練習くらいはしてましたけど・・・」


「十中八九それだろうな・・・訓練の相手がテルアなら頷ける。はあ・・・お前さんが喋るたびに驚くのにも疲れた」


ギルマスはもう一度深くため息をつき、突然立ち上がると後ろにある高級そうな机の引き出しからある物を取り出した。


「これを握れ」


そう言って渡されたのは分厚いレンズのような物だった。


「人払いしてきます。」


クレスさんは慌てたように立ち上がると、廊下の付近に居る職員に2階には近づかないように言い含める。そして、魔法陣のような物が書かれた紙を扉の内側にピンで留める。

それをじっと見ていると、音を外に漏らさない簡易の結界みたいな物ですと教えてくれた。


「お前、使える魔法はあるか?」


「雷と風なら何とか」


「は!?二属性かよ!?」


「本当はもっと色々出来るようになりたかったんですけど、ピツハが二属性なので、それしか使い方が分からなかったんです!」


思わず膨れてギルマスを睨むと、クレスさんが慌ててフォローを入れる。


「ギルマスは二属性もあるのか?と言いたかったんですよ。決してそれしかないのかという意味ではないんです」


「へ?」


クレスさんの説明によると魔力があるだけで庶民ならば職に困らないらしい。大抵は一属性持ちで魔道士や騎士の中には二~三属性持ちもいるらしいのだが、それは隊長クラスなってしまうのだそう。そりゃ驚くよね・・・チートにもほどがある・・・。


「もういい!なんでもいいから魔力をそれに込めてみろ。少しだぞ、大量に注ぐなよ?」


「はーい」


良くわからないが、魔力の操作は得意なのだ。

体に巡る魔力をイメージした後、指先の魔力の膜に針ほどの穴を開ける。

そこからチョロチョロと魔力が流れ出し、レンズに注ぎ込まれてゆく。


レンズはキラキラと輝くとその光は上に向き、まるで光の円柱が現れたようになる。

そこにはうっすらと文字が浮き上がっていた。

ギルマスはおもむろに引き出しから紙を取り出すと、その円柱に蓋をするように重ね合わせた。じゅっと言う音と共に紙が焦げたような匂いが漂ってくる。


「もういいぞ」


ギルマスがそう言うので魔力の穴を閉じてからレンズを彼に返した。

すると彼は先ほどの紙だけをこちらに渡して来た。


「それはお前の能力値だ。隠したい所は魔力を指に乗せて撫でると消える、見られたくないものだけ消して見せてみろ」


「その前に契約魔法を使いましょう」


そう言うと、クレスさんは赤いビー玉の様な物を取り出した。


「これは炎の精霊が宿ると言われている石です。これを握り、制約するとそれを破った際には精霊の制裁を受けます。」


「制裁とはどんなものですか?」


疑問に思って聞くと、クレスさんは優しそうに笑いながら丁寧に教えてくれる。


「この石のランクはBなので良くて火だるまってところでしょうか?」


「ひっ、火だるま!?」


「それだけお前の能力を知られる事っては危険だって事だ」


「大丈夫ですよ?この場合火だるまになるのはギルマスだけですから」


笑顔でそう言うクレスさんの胸ぐらをつかんで「てめえ!」と言いながらゆするギルマス。

クレスさんやっぱり笑顔で黒い事する人だ・・・この人は怒らせてはいけない・・・。


「まあいい、俺はチサの能力値において彼女の許可なく漏洩、使用出来ないものとする」


ギルマスがそう言うと、赤いビー玉がギルマスに向かって飛んで行き、その喉にすっと消えた。


「ちなみに、僕は短期ですがギルド職員としてギルマスに敵対する行動や発言が出来ないよう制約魔法を結んでいますので安心してくださいね」


「え、ギルド職員って必ず制約魔法を使わないといけないんですか?」


「ちげえよ、こいつがバカなだけだ。本来は誓約書くらいでそんな罰則設けたらギルドの職員になる奴なんていなくなるだろ」


「酷いなあ、敬愛するギルドマスターに最上級の敬意をと思っただけなんですけどね」


「な?バカだろ?まあそれはいい、早く目を通して見せろ。あ、魔力量とレベル、属性はそのままにしろよ?」


つまり二人は仲良しって事なのだろう、私は言われるままにそれに目を通す事にした。




【名前】 チサ 


【職業】 転生者 宿屋の娘 なめし職人 大工職人 食肉加工人 料理人 調教師


【レベル】 109


【体力】  899


【魔力量】 530


【魔法属性】 雷 水 風 氷 火 時空間 翻訳  


【スキル】 懐柔



それを見た瞬間、思わずバサっと胸に隠す。

え・・・これやばくない?二属性でもびっくりされてたのに七個も属性あったんだけど。

しかも翻訳って何魔法になるの?時空間って確か希少だって言ってた魔法じゃなかったっけ?


低級でも持ってるだけで仕事にあぶれないって聞いた事あるし・・・。

それ以前にレベル100越えって何!?99でカンストじゃないの?

これ見せたらとんでもない事になるんじゃ・・・・。


「その様子だとやばい内容なんだな?」


もう何度目かになる深いため息を付くと、ギルマスはやっかいな奴が来ちまったなぁ・・・とつぶやきながら頭がガシガシかいた。


「もう驚かないから見せてみろ・・・どうせとんでもない内容なんだろうが契約魔法があるからな、悪いようにはしねえよ」


そう言われて見せないわけにはいかない。

私はこっそり転生者と翻訳だけ消して見せる事にした。


翻訳は恐らくピツハと出会った際に発動した翻訳の魔法陣の事だろう。

それがとても危険な能力だって事は彼らの話を聞いて分かったし、隠しておいたほうが良いと思ったのだ。もちろん転生者だって事もね。


無言で修正した紙をギルマスに渡す。

それを見たギルマスが用紙を5度見した後、壁に頭を打ち付け始めたのは私のせいでないと思いたい。




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