8 ギルマスに疑われる
ピツハと共に通された部屋はそれなりに広く豪華だった。
ギルドは貴族とのやり取りをする事もあるらしく、田舎者丸出しでキョロキョロと部屋中を見渡している私にクレスさんが説明してくれた。
クレスさんって本当に気がきくなあ・・・・。
きっとモテるんだろうなと思って見上げると、口を抑えて顔を背けられてしまった。
うう・・・やっぱり嫌われてない?私。
「で?お嬢ちゃんは何者だ?」
突然ギルマスが睨みつけるようにこちらを見た。
「何者もなにも、ただの宿屋の娘です」
「俺はまわりくどい言い方が嫌いなんでハッキリ聞くが、何だってただの宿屋の娘が世にも珍しい神獣を使役していて、でもって貴族なんかに目をつけられてる?」
そんなの私が聞きたいくらいだ。
思わずむくれた顔でギルマスを睨みつける。
「ピツハに出会ったのは成り行きですよ。それにガマガエ・・・子爵様に目をつけられたのは私のせいじゃありません、それこそ本人に聞いてください」
「なりゆきだあ?どうしたら成り行きで神獣が懐くんだよ・・・」
「だから・・・・」
このままではラチがあかないので、前世の記憶の部分は伏せつつ、飢えていた所をピツハに助けてもらってから現在に至るまでをざっくりと説明した。
すると、ギルマスは眉間にしわを寄せ、考え込むように腕を組んだ。
「仮にだ、嬢ちゃんの言っている事が本当なんだとしたら直ぐにでもギルドのS級認定を取る必要があるな・・・」
「え・・・すぐに取れるものなんでしょうか?」
「本来は依頼をいくつかこなしてポイントをためる事で昇級試験を受ける資格を得るんですよ」
それまで黙っていたクレスさんが説明してくれる。
「ポイントがたまったら昇級ではないのですか?」
「それだと高レベルの人とパーティを組んでいれば実力が無くても昇級出来てしまうでしょう?」
「あ!それもそうですね」
「昇級試験は冒険者として最低限の基礎知識が試されるのでそこまで難しくはないんですよ、なので、普通に経験を積んだ冒険者はポイントを貯めれば昇級出来ると思っていただいても問題ないです。護衛に任せっきりにしている貴族の冒険者なんかはたまに落ちますけど・・・」
「お嬢ちゃん・・・・一応聞くが今、S級冒険者が国内で何人居るか知ってるか?」
「え?数人くらいは居るのではないですか?」
「・・・・残念ながらこの街ではゼロだ」
「・・・・・・」
「ギルマス、それでは説明不足ですよ!」
「だが、それだけ難しいという事は伝えなきゃならねえ」
「まあそれはそうですが・・・」
話を聞いているとやはり私が飛び級してS級になるのはかなり難しいようだ。
「やっぱり無理ですよね・・・・もう両親連れて旅に出るしか・・・」
「や、そこで子爵の妾になる選択肢はねえのかよ!」
「だってガマガエルみたいな人だって言ってたし・・・」
「まあ待て、お嬢ちゃんがここに駆け込んで来たって事はギルドの法を期待したからだろう?」
なんと!いかにも毎日仕事サボってます的なギルマスがそんな事まで把握しているとは思わなかったので驚く私。
「お前・・・今、こんなおっさんが何故そんな法律知ってるの!とか思っただろう?」
「・・・ば・・・バレてた・・・」
「ったく!まあそれは置いといてだ、その法が何故出来たか分かるか?」
突然振られたので頭を巡らせながら思いつく事を口にする。
「う~ん。多分、S級のみに適応しているのを見ると、子爵家以下の武力が上がりすぎるのを懸念した王族が定めた法律ってところでしょうか?」
「「・・・・・・・・・」」
黙り込む二人。
「え!?何か間違えていました?」
「お嬢ちゃん・・・ますます正体が知れねえな・・・普通そんな事思いつくか?町娘が・・・」
まずい・・・疑われてる・・・・。
だって、女子高生時代から今まで合わせてると既に30年は過ぎているのだから大人っぽい考え方をしていたって不思議じゃないんだけど、さすがにそこまでは話せない。
第一話たってきっと信じてもらえないだろうし・・・。