7 ギルドの優しいお兄さんと強面ギルマスの攻防
しばらく真っ青な顔で硬直していたクレスさんだったけれど、私の視線に気が付いたのかハッとしたようにこちらを見た。
「それは今現在チサさんがそういう状況であるという事でしょうか?」
どうやら先ほどの質問で全て察してくれたようだ。
「はい・・・実はとある子爵様から私を妾にとの・・・お話を頂いていて・・・」
そう言ってうつむく私。
「一応確認ですが、チサさんはその子爵様に多少なりとも好意が・・・」
「あるわけがありません!!!あんなガマガエル!」
「しーーー!チサさん!大きな声で言ってはいけません・・・」
「あ・・・うるさくしてしまってごめんなさん!」
そう言いながら勢い良く頭を下げた後、思わずショボンとした顔をしてしまう。
「うっ、可愛い・・」
とどこからか声が・・・。
周りを見回しても誰もいなかったので改めてクレスさんに向き直る。
何故か真っ赤な顔をした彼。
「?」
「い、いえ!違うんです!!!僕が言いたかったのはですね!貴族の事を悪く言うのはとても危険と言う事です・・・どこで誰が聞いているか分かりませんし表立って貴族に不敬を働くと、いくらギルドでも守ってあげられませんから・・・」
どうやら先ほどの叱咤は私を心配して言ってくれたらしい。
「心配してくれてありがとうございます!そうですよね・・・」
「それで・・・その・・・・先ほどの質問に戻るのですが」
「はい・・・」
「端的に言うと、チサさんに法律は適応されません」
「そうですか・・・・」
わらにも縋る思いで見つけ出した抜け穴だったけれど、やはり色々と条件があったらしい。
「あ!いや!今はというだけです!そうだ!ギルドマスターにご相談してみたら何か良い方法を教えてくださるかもしれませんよ?」
「ギルドマスターですか?」
「はい、ちょうど今日はサボらず・・・じゃなかった、執務で上におりますので!」
今クレスさん、ギルマスがサボってるって言いかけなかった?
「でも・・・法律の適応には色々条件があるのですよね?それはギルドマスターに相談して何とかなるものなのでしょうか?」
「本来はS級クラスの冒険者に適応される法律なので・・・登録したばかりのチサさんでは少し難しいかと・・・・ただ、うちのギルマスは実力主義ですので、実績があればどんな者にもチャンスを与える人です」
「本当ですか!!!」
「しー!チサさん声が大きいです!!!」
「あああ、ごめんなさい!!!」
「だから声が・・・」
「何を騒いでやがる・・・」
私とクレスさんが騒いでいるのを聞きつけてか大柄の男の人が奥から出て来た。
思わず顔を見上げると、浅黒い肌に屈強そうな男がこちらを見下ろしている。
顔にはいくつも小さな古傷がある。
「あ、ギルマス!起きたんですか?」
ギルマスというより、どこぞの盗賊の頭と言われた方がしっくりと来そうである。
「うらっ!お前!起きたとか言うんじゃねえ!!まるで俺がサボってるみてぇじゃねえか!」
「えぇ・・・実際寝てましたよね?寝癖ついてますよ?それにヨダレも・・・」
そう言うとクレスさんは目を細めてギルマスを見る。
「うるせえ!これはっ・・・わざとだ!それに煩くて寝れたもんじゃねえ!!!・・・・あ」
「ほら、やっぱり寝てたんじゃないですか・・・」
クレスさんの表情が更に冷たい物となる。
「ばっ!うるせえ!いいからその煩いお嬢ちゃんを上に連れて来い!」
「はあ、わかりましたよ・・・チサさん、そういう訳だから僕と一緒に上に行きましょう」
「お前は付いてこなくていい」
「は?貴方みたいにむさ苦し・・・じゃなくて強面の男といたいけな少女を二人きりに出来る訳ないじゃないですか」
「おまっ、それどっちも悪口じゃねえか!」
「ハイハイ、それじゃあ行きましょうか」
クレスさんがそう言うと、強面のギルマスは舌打ちしつつも奥の部屋を顎でしゃくった。
「あ、それとそのテルアも連れて来い」
そう言ってギルマスは上に続く階段を上って行った。
「大丈夫ですよ、ギルマスはああ見えて子供好きですから」
私を安心させるように微笑むクレスさんだったが、上司であるギルマス相手にここまで適当で良いのだろうか・・・・私は不安になりながらも上の階ヘと向かうのだった。