5 お貴族様とは
そんな感じで自活の準備を進めていったが、両親や兄は私が森で何をしているか全く知らない。
カモフラージュの為にフリフリのエプロンドレスを来てカゴを持ち「野いちごを取ってくる」とおしとやかに言うのできっと彼らは私が女の子らしく森で木の実でも取っているのだと思っている。
本当はカゴの中に汚れても良いズボンと上着が入っているとも知らず、両親も兄も笑顔で送り出してくれるのだ。
そんな毎日を過ごしていたある日、喉が渇いたので自宅のある2階から調理場に降りようとしていたところにボソボソと話声が聞こえた。
「そんな・・・裕福なお家に嫁げればくらいには思ってはいたけれど・・・よりによってお貴族様だなんて」
「仕方がなかったんだ・・・貴族の言う事は絶対だ・・・命令に背いたら店だけじゃない、命だって危ない・・・」
「そうは言っても・・・あの魔獣が危なくない事は伝えたんでしょう?」
「当たり前だ!あの魔獣は家の守り神みたいなもんだ・・・そう言ったのがまずかったのかもしれん・・・」
「じゃあ、魔獣が目当てなのかしら?」
「いや、あのお貴族様は妾にと言っていた・・・どちらも逃がす気はないだろう」
「じゃあ、あの子が嫌がったら・・・」
「ああ、間違いなく魔獣を使役する悪しき者だとか適当に罪を捏造されて処刑されるだろうな」
「ああ!なんて事なの!」
母はそう言って泣き崩れる。どうやらこれは私の話らしい。しかもよくよく話を聞いてみると、私を妾にと言っている子爵はでっぷりとした体でガマガエルみたいな容姿らしい。
これは非常にまずい事になった。
準備をしてきたとは言え、もう一年くらいは実家で暮らそうと思っていたので残念ではあるが仕方がない、ただ問題は私を要求しているのが貴族という事だ。
このまま私が逃げてしまうと恐らくその責任を取らされ両親は消されてしまうだろう。一商人だったらピツハをけしかけて脅してサヨナラ出来たかもしれないのに・・・。
うーん。
しかないね、プランBで行こう!
私はこういった事も想定してあらかじめ策を練っておいたのだ!
もちろん私だけのアイディアだけではない。
本当は下っ端とは言え国の子飼いになる事は避けたかったんだけど、いつだって抜ける事が出来るのだからある意味気楽とも言える。それを実践するべく荷物をまとめる。
そうして私は両親へ「明日には戻ります、お貴族様が来ても待っていただいてください」と置き手紙を残し手早く着替えると窓から飛び出し、すぐに追ってきたピツハに跨って隣街にある冒険者ギルドまで向かったのだった。