20 夜営
「えーっと...てへ!」
「いやいやいや!!てへ?じゃねえからあ!!!」
やらかした感が漂うその場を洋菓子屋の目印である少女と同じように舌を出せばビッグスさんがビシッと鋭い突っ込みを入れてくる。
「こ、これは...夢なのか?私ははもしかしてさっきの盗賊に殺されたのか?」
「あははは....(乾いた笑い)」
「チサ...君は一体...」
そして、全員がぶつぶつと何かを呟き始めた。
あ、これギルマスに怒られるやつだ。何とか誤魔化さないと。
「あ、あれー?ピツハ凄いねー?こんなお家まで作れるなんてー」
「いや、お前、物凄い棒読みだからな?」
えええ...何故バレた。
「何でバレたって顔してるの!?チサちゃんが魔方陣使ってるの見てたし、どう考えてもバレてるよね?むしろバラしに来てるよね?というか魔獣にこんな繊細な魔法使えないよね!?」
サラさんも喋りながらパニックになっている模様。
あはは...ギルマスごめんなさい。早くも問題が起きてしまいました。
後で手紙で報告しよう。
そんな中、クラウスさんだけは比較的冷静で、大騒ぎするビッグスさん達をまあまあと落ち着かせてくれた。
サラさんは何故か遠い目をして笑っていたし、何かまずい事をしてしまっているのは分かるのだけど、何せ何がいけないかがわからない。
ただ、最終的には溜め込んでいた羊鳥や土猪のお肉を夕飯用にポンポン取り出したら、誰も突っ込んで来なかったから大丈夫だと思いたい。
(ちなみに後から知った事だけど、羊鳥も土猪もB級レベルの魔物で素早い上に群れで移動しているのでソロの冒険者がおいそれと狩れる獲物ではないらしい)
そして私は色々と教えてもらうお返しに食事の用意をかって出る事にした。前世のお母さんがいつも、男の人は胃袋からつかめって言ってたしね。
サラさんが料理の手伝いを申し出てくれたけど、クラウスさん達に全力で止められてたから、料理が苦手なのかもしれない。まあ、そんなこんなで私はさっそく調理にとりかかる事にした。
土猪は癖のあるお肉で少し淡泊なので、一口大に切った後、お塩とお酒、生姜に似た香りの根と、これまたネギに似た薬草、干した魚をそれぞれ粉末にした物を一緒に混ぜて漬け込んでおく。本当は醤油を使いたいところだけど、あいにく代用に作っていたお手製の魚醤をきらしていたので旨味増加と臭み取りを兼ねて一緒に揉み込む。
羊鳥は近くで生えていた野草とシャールという玉ねぎを長くしたような球根を掘り出して水と一緒に煮てから簡単なスープに。コンソメなんか無くても羊鳥の出汁と香りが良いハーブのような野草のおかげで塩だけで十分美味しいし、シャールを少し焦がしてから他を煮たのでコクもあって良い感じになった。
スープが出来上がると、別の鍋に土猪の脂身を拳大くらい取り出して溶かし、植物からとった油も瓶に入れて収納していたので、そちらも合わせて揚げ油にする。脂身が溶けて油の温度が上がって来たら、漬け込んでいた土猪の肉に片栗粉をまぶして揚げていく。ついでにジャガイモに似たガンラという実もスティック状に切って一緒に揚げた。
カラッと揚がったお肉を自作の油切りに乗せたら煮干し風味の唐揚げの出来上がりである。私は収納から取り出したお皿にガンラのフライと土猪の唐揚げを乗せ、スープも人数分カップによそう。
料理が出来たので夜営小屋で休んでいる皆を呼びに行こうと振り替えると匂いに誘われたのか、全員が肉とスープに釘付けになっており、ビッグスさんは分かりやすく涎をぬぐっているところだった。
「あの....ど、どうぞ」
私が促すと、みんなは素早く席について食べ始める。
「うめぇ!!チサ!!お前メシ作るの上手いんだな!」
「本当に美味しい!このスープも香りといいコクといい、素晴らしい!!」
「野草と肉だけでこんなに美味しくなるなんて・・・」
「お姉ちゃんおかわり!!」
アンディくんも気に入ったみたいで良かった。
「ふふ、気に入ってもらって良かったです。あ、もし脂っこいのが苦手でしたらお肉にこれを絞ってください」
そう言って差し出したのはレモンに似た青い果実。
あまりに酸っぱいので気付け薬の材料に使ったり、洗濯の匂い消しに使われる植物で、食べようとする人は滅多にいない。それを私はスライスして自らの唐揚げに絞ってかけた。
それを見たビックスさんがいかにも酸っぱそうな顔をする。
「うえ、それってスィの実だろ?食べられんのか?」
「はい、スィの実は油を分解してくれるので胃もたれしなくなるんですよ?それに脂っこさを緩和してくれるのでサッパリしていてお酒にも合うんです」
にこやかにそう言うと、私は目の前の唐揚げをフォークに刺しビックスさんの目の前に差し出す。
「騙されたと思って食べて見てください」
いわゆる「あ~ん」をされたビックスさんは少しだけ顔を赤らめたかと思うと、素直に口を開けて唐揚げにかぶりついた。
「もぐもぐもぐ・・・う、うめえ!!!」
唐揚げを噛みながらビックスさんが目を見開いて叫ぶ。
「わ、私にも頂戴!!」
「俺にもくれるだろうか?」
「僕も!おねいちゃん僕も!」
みんなは私からスィの実をひったくると唐揚げにかけてどんどん食べ始めた。
「あ、あと脂っこいのが苦手な人用にポテトサラダ作ったんですけどいりますか?」
「ポテトサラダ?」
「はい、一緒に揚げたガンラで作ったサラダなんですけど、お芋なのでお腹にたまるんですよ」
宿屋の食事の新しいレシピにどうだろうと思って前に作ってみたんだよね。
ポテサラに必要不可欠なマヨネーズは簡単に作れるけれど、密閉技術や保存技術があまり発達していないこの時代にお酢を使うとは言え、生卵を入れる関係であまり保たない。
宿屋の食事として作ったその日に出すのは問題ないが、旅に行く際にマヨネーズを持ち歩いて使ったり、売り出すなんて事は不可能に近い。もちろん時間が止まる収納を持つ私なら出来なくはないけれど、そんなものを使ってレシピを聞かれ、うっかり漏らそうものなら収納の時間停止を突っ込まれてしまう可能性がある。
そんなわけで、私は比較的保ちの良いお酢でポテサラを作る事にした。
そこに玉ねぎを刻んだ物や干し肉、油、塩で味付けしてみたけれど、やっぱりどこか味気ない。
そこで、乾燥させた人参と玉ねぎを砕いて瓶に入れたものやベーコン、魚のオイル漬け(現代のツナね)を作って混ぜ込む事でサッパリとしながらも美味しいポテサラを作り上げたのだ。
ガンラは森に行けばそこら中で自生しているし、干し野菜や干し肉、魚のオイル漬けなんかは長期保管が出来るので言い訳がしやすいのよね。
そして、今日作ったのは干し肉と干し人参にお酢とツナの油をちょっぴり入れたポテサラだ。
ちなみに人参を入れるのは砂糖が貴重なのもあって、甘味を足す為である。
(人は甘味を美味しいと感じる生き物らしいから。それに生の人参を入れてもお酢と塩の味が染み込んで歯ごたえがあって美味しいポテサラになるんだよね)
「食べてみて良いかしら?」
「私も少しいただけますか?」
さっそくサラさんとアルマノールさんの奥様がポテサラに興味を示した。
「はい、お好みでこれをかけても美味しいですよ?」
そう言って私は前に揚げておいたシャールで作ったフライドオニオンを取り出す。
これサラダが味気ない時にかけるとカリッとしてて美味しいんだよね。
「んーーーー!!美味しい!!!」
「お酢がきいてサッパリしてるところにこのカリカリがたまりませんね!」
女性陣がサラダを絶賛すると、男性陣も味が気になったのかサラダボウルに手が伸びる。
「うまーーーー!!!」
「まろやかでサッパリしているのにカリッとしたこのフライがアクセントになっていますね」
「こんな美味い物を野営で食べられるとは・・・」
「僕、一生ポテサラだけを食べて生きるんだ!」
いや、アンディくん。一生はちょっと栄養偏るからやめとこうね。
そんなこんなでポテサラの虜になったアンディくんに毎日ポテサラを強請られたのは言うまでもない。




