2 村人1とかじゃないだけマシなのだろうか
私を見下ろしている若い夫婦はどうやら私の両親のようだ。
瞼を開くのも精一杯だったけど、何とか視界を巡らせて見ると木造りの壁や家具が目の端に映る。
どうやら異世界転生にありがちな貴族の娘に生まれた!という奇跡は私には起こらなかったらしい。
「はあ・・・あなた・・・ごめんなさい」
「まあ、仕方ないさ」
「でも女の子なんて・・・力仕事もろくにさせられないし」
「確かにな・・・でもこの貧しさじゃ大人になるまで生きているか分からないだろう?」
「そうね、男の子と違って弱いもの・・・」
「今年も仕入れが出来なかったからな・・・乳を飲んでいるうちはいいが、この子に食べさせる分があるかどうか・・・」
「最近あまり食べられないから母乳の出も良くないの・・・きっと数日で死んでしまうわね・・・」
おお!もしや私、貧しい家に生まれちゃったの?
これはせっかく転生したのに激貧で再転生コースまっしぐらなのでは?
そのまま両親らしき人達の話にあぶあぶ言いながら聞き耳をたてていると、どうやらここは寂れた町にある飲食店らしい。
度重なる戦争で疲弊した王都の民は平和を求めてこの僻地で生活し始めたらしいが、運悪くもそこは魔獣が度々出現する堕落の森の付近だった。
しばらくは猟師でもある父が気休めに小さな魔獣を駆除していたのだが、次第に大きな魔獣が出るようになり、作物も荒らされるようになってしまった。
家庭菜園や狩りで仕留めた肉を店で出していた我が家は私が生まれる頃には食うに困るくらい貧しくなってしまったらしい。
私には兄が3人居るらしいのだが、ほとんどが幼い頃に奉公に出ていて長男だけが残り父と猟や畑仕事をしている。
必死に一日中働いても野草や豆を煮た薄いスープを1食しか食べられない日もあり、お腹を空かせた兄が虚ろな表情でこちらを見ながら「柔らかくて食ったら美味そうだな・・・」とつぶやいた時にはゾッとしたほどだった。
私はようやく現状を理解した。
このままでは餓死まっしぐらだろうという事も。
せっかく前世の記憶が残ったまま転生したのだ、この機会を逃すものかと赤ん坊ながらに頭を巡らせ
るが、いかんせん今の私に出来る事は「あぶあぶ」言うかハイハイする事くらいだ。
あ、おかげ様でハイハイ出来るまで生き残ったのは母の母乳があったからにほかならない。
ありがとうお母さん!!!
しかし、とうとう先日母乳が出なくなってしまったので今は絶賛空腹中なのである。
むむむ・・・こういう時に異世界転生物の主人公だったらどうしてるだろうか。
既に泣かない赤ちゃんとして認識されている私、オムツが濡れたら「あぶあぶ」言ってお腹をポンポンするので相当賢い子だと思われているはいるみたいだけど、だからと言って食事を増やしてくれるわけでもない。
お腹すいたなぁ・・・。
頭で転生前に飲んでいた牛乳を思い浮かべた。
異世界って牛いるのかなぁ?
母乳がダメなら牛の乳でもいいから飲みたいなぁ・・・・。
もう贅沢言わないからヤギとかさ、この際栄養のある母乳だったら何でもいいから飲みたい。
頭で妄想するように瓶に入った牛乳を想像する。
あ、意識が朦朧としてきた・・・やっぱり今回の転生は失敗だったのかな・・・。
酷い空腹で目眩がする。せめてアキに謝りたいな・・・。
そうして再び意識が遠のいた私なのだった。