13 恐怖の精霊契約
「ん?何故だ?こいつは貴方達を殺そうとしたんだぞ?」
「いえ、それはそうなのですが・・・そうではないのです」
「お父さん、お母さん、どういう事?」
私が不思議に思って首をかしげていると、両親がそろって口を開く。
「この方は私たちを害するように見せかけて、小声で死んだフリをするよう指示してくださったのです」
「そうです、出血が無いとバレるので腕の皮一枚だけ切るとおっしゃって・・・」
なんと、彼は両親を助けるつもりだったらしい。
「そうだったのか・・・」
「はい!ですから死刑はどうかご勘弁を!」
「この方は短い時間で私たちを殺す事も出来たはずです、それを何とか誤魔化してくださった・・・そんな方を見捨てては神に申し訳が立ちません!」
「そうですか・・・しかし、今回咎められるのはあなた方の殺人容疑ではなく、ギルドの証書を不正に破棄した件についてです。残念ながらこの者の身分では死刑は免れません」
「そ、そんな!」
「恩人を見殺しにするなんて!私たちはどうしても出来ません」
両親はギルマスの言葉を聞いて、涙を流し、恩人である護衛に平謝りをしている。
護衛の男は脱力しながらもそんな両親を見て弱々しく微笑んだ。
主人が悪かっただけで、悪い人ではないのかもしれない。
それを見て私は口を開いた。
「あの・・・ギルマス、ちょっと良いでしょうか?」
「なんだ?」
「この証書って再発行出来ないのでしょうか?」
「ああ、もちろん出来る。今回はお前の過失ではないから子爵へ再発行料の銀貨一枚と迷惑料として金貨3枚を請求する事になるだろうな」
銀貨はこの国の価値で一万円くらいで、銀貨100枚で金貨1枚となる為、迷惑料は300万円ほどという事になる。庶民にとっては大金だが子爵にとっては大した額でもないのだろう。金額を聞いても彼の表情は変わらない。
「そうですか・・・なら、今回は私が証書を誤って破いてしまった事に出来ませんか?もちろん再発行料は私が支払います」
「は?なにを言ってんだ、それじゃあ子爵を無罪放免にする事になる、さすがにそれだはギルドとして看過できん」
「じゃあ、子爵には契約書を作って今回の事を貸しにするのは?」
「はああ?なんだそりゃ?」
私の考えに気がついたのか、クレスさんがポンと手を叩く。
「なるほど、それは良い考えですね。このまま子爵の罪を訴えても精々謹慎と評判が多少落ちるだけ、それならば精霊による契約で縛り、チサさんの口止めも合わせてしてしまおうという訳ですね?」
私はクレスさんの言葉に頷いてからその先を補足する。
「それなら護衛の方は処刑される事もないですし、なんなら彼を家で雇い入れて両親の護衛を務めてもらえないかなと思ったんです。もちろん、家を裏切らないよう契約を結んでもらう必要はありますけど・・・」
「ほお・・・なるほどな、しかし・・・仮にも両親を殺そうとした護衛を雇うなんて普通考えるか?しかもお前、考え方が子供とは思えねえ・・・まあ既に色々と規格外なんだけどよ」
ギルマスの言葉にドキッとしながらも平静を装う私。
バレるはずはないけれど、転生者だからね・・・前世も合わせると30歳越えてるし。
そんな私をよそに、ギルマスは子爵を脅しにかかる。
最終的には真っ赤な顔をして怒っていた子爵も、悪評が立つ事やギルドと対立する事を引き合いに出されて、私の使役獣の事や今回の騒動についての全てを口外しないという契約を結ぶ事になった。もちろん両親や私、護衛にも手を出せないという項目も追加した。
当然契約魔法に使われる石の代金も子爵に請求されることになった。そうして交わされた契約だったが、クレスさんが嬉しそうに貴重なS級の精霊が宿る契約魔法用の石を取り出した時にはさすがにギルマスも子爵も顔が引きつってた。
S級は大きな都市が丸々灰と化すレベルらしいから、彼が屋敷で契約を破ればその一帯が消えて無くなるという事らしい。
ただ、クレスさんは周りの迷惑も考えて契約魔法をかける段階でそれを巧妙に練り直した。
その内容とは、子爵だけは半殺しレベルで生かされるというものらしい。
でもクレスさんがそんな甘い内容にするはずがない。
というのも、私の事をバラそうとしたり、害を成そうとすれば王都に近づいた際にそれが発動し、王族と主要な貴族の全てを巻き込んで自分はかろうじて生きている状態で灰になるという
物だった。ちなみに私や両親、普通の民には適応されないので巻き込まれる心配は無いそう。
万が一これが発動したら巻き込まれた貴族や王族はたまったものではない。
そして、生き残るであろう遠くに領地を持つ貴族達からはどんな目に合わされるか想像しただけでも身震いがする。その多くが亡くなった貴族の親類だろうからただでは済まない事は明らかだ。
クレスさん怖っ!あんな爽やかな好青年って感じなのに・・・。
つまりそれって王族がひいては国が滅びるって事じゃないの?
契約魔法をかけ終わったクレスさんが笑顔でそれらを告げると、命だけは助かると思っていた子爵は恐ろしさに泡を出しながら失神してしまった。
そりゃそうだよ・・・後で聞いたらS級の精霊石なんてこの国でも一桁しか存在してないらしい。そんなの使って大丈夫だったの!?とクレスさんの襟を掴んで問い詰めるも「ははは、もちろんですよ~」とされるがままにゆさぶられていた。
この人は怒らせてはいけない・・・。
両親と私は無言で目を合わせ、大きく頷き合うのだった。




