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優しさという勇気

切りのいいところで話を終わろうとして文字数がバラつきがあります。

気になっているので平均で1話3000文字超えるくらいを目指したいです。

 リベルの魔法で取り巻き2人は無事でアウローラの放った魔法の余波で泥が少しとんできたぐらいで済んでいる。リベルが発動した湿地の墓標は主に火属性の魔法を防ぐのに最適である。しかし、アウローラと取り巻きの真中に魔法を発動させたのに関わらず、泥を被ったのは取り巻きだけという結果が如何にアウローラの魔法が強力だったのかを物語っている。


「これは火じゃなくて炎か爆炎魔法だろ…(国という存在による魔法への威力ブーストを改めて認識させられた)」


 リベルは現代の魔法も自分が思い描いたものと違う方向へ進歩しているが間違いでないことを認識した。


「(さて、どうやって収拾するよこの状況)」


 とりあえず現状は全員が落ち着いているが事態の収拾をどう着けるかリベルは考えることにした。


「お~い!アウローラさまぁ~!」

「ん?」


 アウローラが此処へ駆けつけて来たであろう方向から男性の声が聞こえてきて、全員が声の方へ顔を向ける。


「ぜぇ…ぜぇ…、や、やっと、追いついた…」


 息を切らせてやって来たのはリベルと同じ学年のバッジをつけている男子生徒だった。


「あら?今頃ご到着ですの?」

「無茶言わないでくださいよぉ~。馬に人間が追いつけるわけないですよ…」

「(またアウローラ嬢の付き人関係か?…どこかで見たことあるか?)」


 リベルは二人のやり取りから知り合いと予想する。だが、目の前に座り込んでいる取り巻き2人の様子からアウローラ関係の人物じゃないのが分かった。男子生徒に既視感があるような気もしていた。


「…コルヴァス君?」

「知り合い?」

「同じクラスだよ?」

「……ああ!」


 ヴィネラから出たクラスメイトという言葉でリベルは思い出した。たった先程までいた教室で残っていた複数の生徒の中で彼を目撃したことを。


「遅くなって悪いね、お2人さん。リベルは知らないだろうから自己紹介な。オレっちはコルヴァス、コルヴァス・アミーキティアってんだ、よろしく!」


 コルヴァス・アミーキティアと名乗る人物こそ、教室から出ていくリベルを追いかけていた男子生徒である。学園でも聞いたことない空中歩行魔法を目撃し、それを使用したリベルに興味津々となり接触を試みようとした。接点を手っ取り早く作るために教室から出ていった目的をヴィネラ関係と予想してアウローラに報告へ向かった。その結果、馬に騎乗したまま駆けていったアウローラを慌てて追い駆け今に至る。


「アウローラ様、そこのヴィネラ嬢の前で立っているのが話したリベルですよ。彼がいち早く助けに入ってくれたんです」

「あら、そうでしたの?…ああ、昨日お会いしましたわね。改めてお礼を、ありがとうございます。本来は此方で解決しないといけないことを…」


 コルヴァスから事情を聞いていたのか、アウローラはあっさりとリベルに感謝を述べた。


「いや、別にいいですって…。よくこの場所が分かりましたね」

「偶然にも彼女(ヴィネラ)を見かけた先輩がいましたので、向かった方向を教えてもらいました」

「いやー、運がよかったですよ。本当に良かった、しらみつぶしに探さなくて…。この学園無駄に広いからなぁ」


 アウローラがこの人目が付かない場所へ早く到着したことに疑問を持っていたリベルだが、彼女とコルヴァスの様子から警戒を解いた。


「で、今はどういう状況?現場をざっと見てっと、ひと悶着があった後に見えるけど?」


 最後に到着したコルヴァスが現状の説明を要求したことでアウローラの意識は再び取り巻き2人に戻った。視線を向けられたことに体を震わせる2人に落ちつた様子のアウローラは先程とは違って怒気がこもっていない声で話しかける。


「確か、我がラケルタティス家のお抱え商人のご子息とご息女ではありませんか。なぜ、このような愚行に走ったのか理由を述べなさい」

「「……」」


 自分の親の上司の子供からの命令といっても正直に答えて自分たちの親に迷惑がかかるのを恐れてか、取り巻き2人は何も言い出せないでいた。そんな彼らにイライラゲージが増えていくようにアウローラは苛立ちを隠せないでいた。怒りの表情を見せていくアウローラに恐怖し、余計に無言になっていき堂々巡りとなっていた。


「あー、横から失礼、ラケルタティス嬢」

「…何かしらリベルさん、だったかしら?」


 リベルは居心地の悪い空気に耐えられないのと縮こまっていく彼らを憐れと思ったのか助け舟を出しことにした。


「俺の憶測だが、そこの2人はヴィネラに純粋な嫉妬をしていたと思うぞ?」

「…え?私に、嫉妬?」


 リベルの憶測に、まさか自分が嫉妬されていると思っていなかったヴィネラは驚いて取り巻き2人を見た。アウローラは黙ってリベルの話を聞いていた。


「俺も最初から彼らのやり取りを見ていた訳じゃないけどな、どす黒い嫉妬ならもっと攻撃的で服とか顔、腕や足に目だった傷跡がなかった」

「よく見てるなー」

「経験上な…。魔法だって俺が介入しなかったら発動していなかった雰囲気だった。これらから推測すると、あんたが見た状況は色々と事情が重なった最悪の結果な筈だ」


 リベルの推測を聞き、改めてヴィネラの体の様子を見て取り巻き2人に目を向ける。


「最終忠告です、本当のことを話しなさい」


 アウローラの2人を諭すような言葉使いとリベルの推測が当たったのか正直に2人は話し出した。


 貴族に気に入られお抱えになればどの職の人間も安全にかなりの儲けが約束される。その為に貴族やその親族に媚を売るのは商人としての定めである。自分たちも親の役に立とうとラケルタティス家のご息女であるアウローラのご機嫌を取っていた。

 そんなある日、ラケルタティスの名を持つヴィネラに出会った。貴族の親族である証拠の名を持つ彼女も自分たちが見てきた貴族や親族のように偉ぶってくると思った。しかし、実際にはヴィネラは格下である自分たちに簡単にへこへこと頭を下げてくる始末に怒りが沸いた。


「理不尽な怒りなのは分かっていました」

「でも、こっちが必死になっているのに笑っているだけで、アウローラ様に話しかけられている彼女が羨ましくて、妬ましかったのです」


 これが自分たちに偉ぶって命令をしてくるような人間なら、身分の差を感じて諦めも付いた筈だった。しかし、彼女は頭がいいだけで貴族に相応しくなく自分達と何も変わらないと思った。そんな人間がただそこにいるだけでラケルタティス家を名乗れるのが許せなかった。


「どれほどの人が貴族の名を欲しているのかを分かっているのかと怒りが沸いていきました」

「だから、彼女がこっちに少しでも怒ったりしてくれば、この怒りも諦めに変わると思って…」


 最初は少し小突けば自分たちに身分を理由に迫ってくると思ったのだが、ヴィネラは何も言わずにただこっちの八つ当たりを受け止めていた。それが自分たちを馬鹿にしていると思えてしまい、ここまでの行動にエスカレートしていったのが事の顛末である。


「「……」」


 アウローラは彼らの話を黙って聞いていた。ヴィネラは終始驚いた顔をしていた。取り巻き2人は話し終わるとこれまでの罪を裁かれるのを待つように黙って目を瞑っていた。


「これって俺たちって口出ししないほうがいい感じ?」

「そうだな、後は本人たちの話だしな」


 4人から少し離れた所でリベルとコルヴァスはこれまでの経緯を聞いていた。リベルの憶測は正しく子供らしい嫉妬からの行動だった。理由を知ったなら後はラケルタティス家である彼女たちの問題である。


「ごめんね」


 最初に言葉を発したのはヴィネラだった。悲しいのか声が少し震えている彼女からの謝罪に取り巻き2人は驚いて顔を上げた。


「あ、貴女が謝ることじゃ!?」

「そ、そうよ!こっちを責めてもいいのに!?」


 声を上げる2人にヴィネラは首を振った。


「これは私にも謝っているの。私は自分勝手な思いであなた達を傷つけてきた、勇気もない自分への謝罪でもあるの」


 そう言って彼女は頭に両手を移動させる。その手は少し震えているのが分かる。


「ちょ、ちょっとヴィネラ!?」

「いいの、いつまでも踏み出せなかった私が悪いの…」


 頭に手を置く彼女を制しようとアウローラは声を上げるがヴィネラはそれを優しい声で止めた。そして、前髪の付け根あたりを掴み何かを取り外した。


「そ、その眼はまさかっ!?」

魔眼(まがん)…!」


 取り外したのはカチューシャのような魔道具で外すと前髪と思われていた髪は消えていった。その後に覗かせる眼は薄い黄色だが中心が赤色に光っているのが分かる。それは魔眼である証拠であった。

 魔眼、それは魔法を宿す瞳で持っている人数も少ないことでも名が知られている。見るだけで魔法が発動し、詠唱がいらないことから戦力としても昔から重宝されている。


「魔眼って初めて見たぜ。確か使える魔法も強烈だったよな?」

「ああ、そして光る色は属性を表している。彼女は火の魔眼のようだな。(あのカチューシャ型の魔道具はまさか…)」


 魔眼には話を聞いているリベルとコルヴァスも驚いていた。カオスの時代でも魔眼持ちは数えられるくらいしかいないほど珍しかった。魔法も詠唱いらずということで戦闘面でも大変苦戦したので記憶に焼きついている。リベルは魔眼と同様にカチューシャ型であろう魔道具にも見覚えがあるあったが頭の隅に追いやった。


「あ、ああ、そんな…」

「私たちは、なんてことを…」


 ヴィネラが魔眼持ちと知ってから取り巻き2人は恐怖で体が震えていた。


「ん?なんでそこまで怖がるんだよ?魔眼は制御が難しいのは知っているけど、彼女が悪戯に魔眼を発動させないのはあいつ等も分かるだろ?」


 魔眼持ちは感情の浮き沈みで魔法が誘発してしまうことがあり恐怖の対象なのは周知されている。しかし、それで性格が優しいヴィネラに対して震えている彼等の理由が分からないコルヴァスにリベルは説明を始める。


「魔眼持ちは魔法も強力なのは勿論だが、その希少性と見た目の美しさに魅了されて欲する奴らは多い」

「欲する?魔眼は本人にしか宿らない筈だろ?」

「ああ、だから持ち主を奴隷にしてまで手元に置きたい奴もいる」

「…マジで?それは初めて知ったぞ?」

「無暗にその情報を教えてコレクション欲を刺激するよりかは、武力的な意味で恐怖の対象として持ち主を守ろうとしているんだよ」

「よくご存じですわね。コレクションなどの情報は今では貴族や一部の人間にしか知らない事です」


 男子2人で話している間にアウローラが近づいて話に参加してきた。少し驚いているコルヴァスだが、リベルは自然に話を続ける。


「奴隷で精神を強制操作された魔眼持ちは感情がないから戦力として微妙なんだ。だから、隠れてコレクションにすることが殆どだった筈だが?」

「ええ、だからそれを憐れに思った先々代の国王が魔眼持ちは貴族で保護する法が出来ました。その法も貴族に関りがある者ならいずれ知ることです」

「あー、あいつ等が震えているのは…」

「国の決まりで貴族に保護されている魔眼保有者に対して狼藉を働いたことへの恐怖ですわ」


 アウローラの言葉が正しいようで聞こえてきた取り巻き2人は頭を地面に擦りつけて謝罪を始めた。


「ど、どうか罰なら俺たち個人にお願いします!」

「どんな要求でも従います!だから、ラケルタティス家や国に伝えることだけは!」


 魔眼持ちに対する罪は最悪で国から追放もあり得ることから彼等は必死に謝罪を続ける。そんな彼等にヴィネラは近づいて見下ろす形で要求を伝える。


「なら、私からは私が魔眼持ちであることを黙ることを要求します」

「「へ?」」


 ヴィネラからの要求内容に自分達の死も覚悟していた2人が唖然とした顔でヴィネラを見上げていた。アウローラはその要求が分かっていたか苦笑しながら溜息を吐いた。リベルとコルヴァスも予想外と驚いていた。


「そ、そんなことで!?」

「いいの」


 罪が軽いことに慌てる2人にヴィネラは優しく話しかける。


「私ね、この魔眼で多くの人に迷惑を掛けてきたの…。だから自分に自信が持てなくて、これまで誰にも迷惑を掛けないように過ごしてきたつもりだった。でも、私は知らない所で人に迷惑を掛けていた」

「そ、それは私たちの勝手な!」

「うん、勝手な私の思い込みかなって少し思えてきたの。私に少しでも勇気があればって…」


 ヴィネラの話をここにいる全員が聞き入っていた。


「ごめんね、だから私は頑張って勇気を持ち貴方たちに命令します。私が魔眼持ちだということを誰にも言わないでください」


 声を上げないで優しい声での命令だったが、ここにいる彼女が貴族の一員であることを強く感じ取った場面であった。


「「ありがとうございます」」


 命令の意図が分かったのか取り巻き2人は涙を流しながらヴィネラに感謝を述べた。それをヴィネラは苦笑しながら受け取った。そんな彼女に何かを感じたのかリベルは眩しそうに目を細めていた。


「(転生してちょっと俺も慎重になりすぎていたか?折角の2度目の異世界だし、彼女を見習って少し積他人に干渉でもしてみるか?)」


 リベルは勇気を出すヴィネラを見て心境の変化を自覚した。


「まったく貴女という人は、怒りを通り越して呆れの感情しか沸きませんわ」

「ご、ごめんね()()()

「…ふふ、やはり貴女からはその名前で呼ばれたいですわ」


 ヴィネラに近づいて笑い合う2人と涙を流しながら感謝と謝罪を繰り返す取り巻き2人に事態が穏便に済んだことに安堵するリベル。


「アウローラ様からの罰はないのか?」

「茶化しないで下さい。ここで私が罰を与えるのは間違いですわ。立派に貴族の一員からの命令()を彼等は受けています。第一として今の私は彼等と同じ生徒の1人ですのよ。そんな権限があると思って?」


 そんな彼女の一言もあり、この場はこれでお開きとなり取り巻き2人も無事に家に帰ることになった。ヴィネラも汚れを落とす為にアウローラと一緒に部室にタオルと取りに戻り、リベルもコルヴァスと軽い別れを済まし帰路についた。



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