魔導都市
重要な名前はラテン語を参考にしています。そのまま使ったり、少し変えています。
魔導都市『カオスートピア』、それは人と魔族といった互いに違う種族が争うことなく共に暮らす平和な都市。かつて争っていた人間主体の国『ホモーソール』と魔族主体の国『マギアルーナ』が魔導祖の活躍により合併した魔導大国『アエテーニタス』にある大型都市の1つである。アエテーニタスに唯一ある大型の教育機関である『ヴェネフィクス』学園に人種関係なく多くの人が集まる。
「いってきまーす」
「いってらっしゃ~い!」
アルボアに見送られながらリベルはヴェネフィクス学園に向かう。今日から本格的に授業に参加することになり昨日の授業内容から期待半分、不安半分な心持ちだ。軍服をイメージされた制服を身にまとい授業に使う教書がメインに入っている鞄を片手に持っている。
ちなみに制服は男性が固定のデザインで女性のみスカートとズボンを選べるようになっており、学年は勲章のようなバッジに付いている石の色と数で分かるようになっている。アベルは上級1年生なので白色の丸石が1つのデザインとなっている。下級の学年は黒色の丸石である。
『おはようございます。今日もいいお天気ですね、いつもの放送ギルド所属お姉さんです。昨日は目立って事件もなく……』
突然にカオスートピアの各エリアに設置されているスピーカーのような魔道具から声が街に響く。大元の放送から風魔法の応用によって都市全体に情報がいきわたる様にされている。この情報は時間帯で内容が変わる。
「昨日も平和だったのね」
「今日は貴族様たちの会合の予定はあったかしら?」
「後で役所に張られている今月の予定表でも見てこようかな」
国民たちはこの放送や各ギルド、役所に掲示されている情報から国全体の情報を確認できようになっている。認識のズレがないように情報は3日以内のものを中心にされている。
この情報機能も元はアルスが戦争時に使っていたもので現代でも生活に生かされている。
『最後に今日も偉大な魔導の祖に感謝の祈りを…』
「「「……」」」
放送の最後の一言に周りの大人達が一斉に祈りを始める。小さな子供は大人を見て祈るような真似をしながら遊んでいる。
「ぐふぅ……」
その光景に少しよろめきながら歩くアベル。その様子を子供だけが不思議そうに見ている。
「違う、これは昔のカオスに向かっての祈りであって、アベルである俺にじゃない、そうだ、俺じゃないぞ…」
自分に言い聞かせるようにブツブツと小言をしゃべりながら歩くスピードを上げる。学園までの時間がいつもより長く感じたそうだ。
アベルがまだ到着していない学園の教室では昨日編入してきたアベルについて話が上がっていた。
「変なタイミングでの編入だったな、普通は次の新しい年に入学させるよな?」
「バッカだなお前は、そんな常識が通用しない相手なんだよ」
「どういうことだよ?あと馬鹿じゃねーよ」
「いいか、その普通の考えがこの学園で通用しないってことはだ、あの編入生は学園に交渉できるカードを持っていってことだ」
「げっ!それって6属貴族の関係者っ!?」
ヴァガーティオによって学園に融通を利かせてもらって編入したアベルは学生たちから国で6つしか存在しない『6属貴族』の関係者と勘違いされていた。数少ない貴族のご子息やご令嬢が身分を隠して学園に入学といった話はよくある。暗殺防止といった理由が主だが後を継ぐ子供を目立てさせる為に下の兄弟の名前を変えることもあるそうだ。
「でも私たちぐらいの歳の貴族って国から全部公開されていなかったかしら?」
「隠し子とか?」
「キャーーッ!身分の差で生まれた子供かしら、ラブだわロマンスだわ!」
色んな憶測が飛びあう中で生徒たちの会話に混じらず1人だけ後ろの席で本を読んでいる女子生徒がいた。オレンジ色のショートヘアーで前髪によって両目が隠れぎみになっている。
「お前はどう思うヴィネラ?」
「……え、私?」
「お前以外にいないだろ…、昨日はお前の隣に座っただろ?」
男子生徒の1人が話しかけるが自分に話がくると思っていなかったのか目が隠れて表情が分からないヴィネラという女子生徒は返答に困っていた。
「おい、あいつに話しかけんじゃねーよっ!」
「なんでだよ?」
「あの人に目をつけられているのよ、こっちにとばっちり来たら割が合わないわ」
「あー、そっか…」
女子生徒の言葉で再びヴィネラを無視して話し合う生徒たちを気にしないようにヴィネラは読書を再開する。本の表紙には『魔導祖の魔法定義について』と書かれてあった。
「……」
読書中のヴィネラの頭の中には先ほどから生徒たちが話題にしているリベルについて占めていた。初見は他の生徒たちの憶測通りにどこかの貴族の隠し子あたりと気に留めていなかったが昨日の彼の授業を受ける姿勢が少々気に食わなかった。
彼女からして偉大な魔導祖の功績を無視して教書の魔導書を眺めている姿に不満になったが、よくあるお金持ちお坊ちゃまと結論づけた。
「でも、見たことない魔法陣が…」
しかし、気にも留めていなかった彼が紙に描いた魔法陣が頭から離れなかった。授業で習う一般的な魔法陣と一緒に描かれた見慣れない魔法陣。魔法が発動するのかと疑問を抱くなかで、見慣れない魔法陣の異常な反応に目が離せなかった。
通常は魔法陣で魔法が発動する時の魔法陣の色は魔素の属性を表す。火なら赤、水なら青、風は緑、土は黄と色が異なる。属性に合う魔法陣を描くので同じ魔法陣で異なる色が反応することはないが、彼が描いた魔法陣は1つの筈なのに6つの色に変化したのだ。
「あの属性の反応は普通じゃない…」
その時からヴィネラのリベルへの認識が変わった。放課後にでも人目が付かない場所で話をと思ったが彼は授業を1つ受けて帰っていった。気になりすぎてあまり眠れていなく彼女の体調が少し優れないことに他の生徒たちは気づいていない。そんな体調不良も気にしないのか彼女はリベルの登校がまだかと教室の扉に意識を集中していた。
「おはようございますー」
「(来たっ!)」
扉が開かれ彼が教室に入ってきた事にいち早く気づいたのがヴィネラだった。彼の一挙手一投足を見逃さないように観察する。彼女以外の生徒は自分たちの話が聞かれていたのではと気まずい沈黙で教室が突然と静かになった。
「「「……」」」
「あれ?」
学園生活初日となる輝かしい瞬間を期待していたリベルにとって教室の静まりは予想外であった。この静寂は担任の先生がくるまで続いたそうだ。