どくだみ婦人
裏庭が大変なことになっている。
縁側のすぐ前に、ラティスがあって、その向こう側は細い道路になっているのだが。
「取っても取っても生えてくる!!!」
どくだみが信じられないほど生い茂っているのである!!!
根元から切っても、上から引っこ抜いても、次から次へと生えてくる!
あの独特のにおい…正直触りたくないのだがっ!
触りたく、ないんだってば!!!
…ということで、ますます生い茂るどくだみ。
もう、どうにもならん!!!
ほっとくか。
うんそうしよう。
私はあきらめのよさと開き直りには自信があるのである!!
かくして縁側でどくだみをぼんやり眺めて猫と日向ぼっこをしておりますと。
「あらぁ、こんにちは。」
近所の高岡さんだ。
どこかのんびりしているこちらのご婦人は、昔私と同じところで働いていたという経歴の持ち主だったりする。
殺伐とした職場内で、マイペースにのんびりしていてかなり異彩を放っていたつわものである。
「あ、こんにちは。」
どくだみの向こう側にご婦人かあ…。
どくだみ婦人だな、うん。
「どくだみすごいわねえ。もらってもよろしいかしら。」
「はあ?こんなんいるの?!」
「ええ、このどくだみは汚れてないし、葉っぱがとても大きくて。私欲しくてほしくて。」
「いつでも自由に持ってってください!!!」
何でも、私の家の裏庭を通るたびに、欲しい欲しいと思っていたらしい。
普通は土手のような場所に生えていて、汚れが多く、とても使えないものばかりなんだとか。
その点うちは、敷地内から生えてるし比較的上のほうに生え伸びてるから確かに綺麗かも。
どくだみ婦人は、うちのどくだみを次から次へと刈り取っていった。
「ドクダミチンキ、どくだみ風呂、どくだみ茶、乾燥させて取っておいたりしているの。」
今日もどくだみ婦人はホクホク顔でうちの裏庭をきれいにしていってくださった。
なんという神。
どくだみ婦人は、どくだみ化粧水が非常に効いているとのことで、大喜びしている。
確かに、少し肌つやがよくなったような。
どくだみ、侮れないな。
どくだみ婦人は、お友達を連れてくるようになった。
どくだみ友達かあ。
どんどんうちの裏庭からどくだみが消えていく。
どくだみ婦人のどくだみ仲間は日々増えていき、ついにうちの裏庭からどくだみがなくなった!!
どくだみ婦人すごいな!!!
感謝してもしきれない。
後日どくだみ婦人は菓子折りを持って我が家へとやってきた。
「今年は本当にお世話になりました~!」
何でも、一年分のストック?ができたそうで。
「また来年もよろしくお願いしますね。」
にこやかに、去って行ったけれど。
しまった。
どくだみの除去剤、撒いちゃったよ…。
にこやかに微笑むどくだみ婦人に事実を言う勇気がわかない私は。
「また生えたら、よろしくお願いしますね。」
もう生えないとは、とても、言えなかった訳ですが、許してください。