真宵之桜國へようこそ - ひと夜の誘いの夢日記
そこには宵の闇と桜の大木があった。
枝に満ちるその桜花は、淡い月の光を纏い。
枝から散り舞う桜花弁は眩い月の光に透けている。
「あら。またマヨイビト」
背後から女性の、凛とした声が聴こえた。
濃紺の着物の綺麗な女性。裾に描かれた一輪の深紅の花が目を引く。
彼女の銀色の髪は心地よい風に揺られ、まっすぐな瞳が私を見据える。
「あの、ここはどこですか」
「ここは真宵之桜國よ。……貴女も迷い込んでしまったみたいね」
彼女の瞼が閉じる。彼女の陶器のような白い肌に触れれば、どのくらい柔らかで滑らかなのだろう。
そのとき強い向かい風が吹いた。それはそれは、まるで目が覚めるような。
「……あ!」
突然発せられた彼女の驚く声。こちらを見る大きな瞳。
それを最後に、桜の世界が消えていく。渦を巻いて、一点に吸い込まれていく。
そして桜の世界は、完全に消えた。残るは黒、……黒のみだ。
朝の冷気が頬を刺した。私は静かに瞼を開いた。
そこには私の部屋の殺風景な白の天井があるのみだった。
「……夢」
私は布団を頭まで引き上げ、布団に籠る。
桜の世界。いいや、真宵之桜國。
彼女はいったい、誰だったんだろう。