表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/42

第8話 アメちゃん食べるかな~

「すーすー」


 少女は妖魔大王の膝の上に頭を乗せて、安らかな寝息を立てている。

 泣き疲れて眠ってしまったのだ。


「終わったッスー」


 と、暗黒騎士が戻ってきた。

 少女の母親と御者の二人分のお墓を作り、遺体を埋めてきたのだ。


「もう土も掛けましたッス」


「ご苦労様。本来であれば、親族等に連絡するべきだろうがそうもいかん。獣も多いから、遺体を放置する事も出来んからな」


 妖魔大王はそういうと、少女の頭を優しくなでる。


「女性のめぼしい持ち物はこれだけッス」


 暗黒騎士が銀色の鳥の形をしたブローチを取り出した。


 母親が身に付けていた物だ。

 少女にとっては母の形見となる品だ。


「綺麗だな。もう少し落ち着いてから渡すか」


「そうッスね」


 暗黒騎士はズボンのポケットに両手を入れて、小石を蹴っている。


「ところでこの子どうするんスか。ここには置いていけないッスよ」


「そうだなー。まずは父親か親族を探さないとな。だが、一旦は帝国に連れて帰るぞ」


「さすが大王様ッス!」


 今まで妖魔帝国内に人間が足を踏み入れた事はほとんど無い。

 ましてや、大王自らが人間を招き入れる事など、長い妖魔異国の歴史の中でも稀であった。 

 

「なあ、この子の目は治るかな?」


「んー。Drに見せなきゃ何とも言えないッスけど、生まれつきじゃなければ可能性ありッスね」


「そうか」


 ホッとする妖魔大王。

 そして膝の上の、まだ涙で包帯が濡れている少女を見ながら、悲しそうな表情を見せる。


「母親が殺される光景を見ずにすんだのが、せめてもの救いだったな」


「あんな事するのはマジ、人間だけッスよ」


 暗黒騎士が吐き捨てるように言う。


「だよな。なんで種族として、あんなに善悪の幅があるんだろうな」


 妖魔大王も様々な人間がいる事は知っている。

 勇者と呼ばれる人間にも会ったし、悪魔と呼ばれる人間にも会ったことがある。


 妖魔大王にとって、それはとても不可思議な事に思えた。

 種族としてみた時には、だいたい善悪どちらかに片寄っているものだ。


「じゃ、わしはこの子を連れて帝国に帰るから、お前は「味一」を見に行ってくれ。建物だけならいいんだが、人がいたら保護してやらねばいかんからな。帝国に戻ったら応援に何人か寄越すから頼むぞ」


「OKッス。じゃ大王様も気を付けて」


「おい。ポケットから手を出しとけよ。転んだ時危ないぞ」


「はいはいッス」


 そういって暗黒騎士は暗闇の中に消えて行った。


(異世界に来て、もしかしたら人間と共存できるかもと思ったが、何も変わらんのかも知れんなぁ)


 妖魔大王はふぅとため息をつくのだった。





 縦穴を降り、A-4出入口へと戻ってきた妖魔大王。

 両手には大事そうに少女を抱えている。

 少女はもう目が覚めている様だ、ぎゅっと妖魔大王にしがみついている。


「ちょっと揺れるけど我慢してねー」


 少女に優しく話しかける妖魔大王。

 腕の中の少女は小さく小さく頷く。


(さて、まずは医務室かな。Drはいるかな?)


 妖魔大王は急いで医務室へと向かう。

 ところどころにある「←医務室」の案内プレートに沿って進む。

 妖魔大王自身は、今までほとんど医務室のお世話になった事が無い為、道順はうろ覚えだ。


(わしの角と牙も診てもらおうかなー)


 妖魔大王はそんな事を考えながら、ふよふよと宙を漂いながら医務室を目指す。

 そして何度目かの通路を曲がったところで、ばったりデスクイーンと出会った。


「あら大王様、こんばん……ひっ!!」


 デスクイーンは震えた声でそう言うと、妖魔大王が抱えている少女を指差した。


「大王様。あなた、とうとう誘拐をっ……!!」


「ちっ、違うわ!」


 必死に否定する妖魔大王。

 しかしデスクイーンには、幼い子に目隠しをして連れ去って来た様にしか見えない。

 わなわなと震え、憤怒の表情で妖魔大王に詰め寄るデスクイーン。


「この腐れド外道がっ……!! 何が違うのよ!! ご両親に許可を得たのっ!!」


 両親という単語を聞いて、それまで大人しかった少女がぶるぶると震えだす。


「あー! ばかっ!」


「えっ! あらあら、どーしたのかなー?」


 デスクイーンが、目じりを下げて慌てて少女に話しかける。

 が、時既に遅し。


「マァ~~マァ~~」


 火が点いた様に大声で泣き叫ぶ少女。


「はいはいはいっ! アメちゃん食べるかな~」


 必死に火を消そうとするデスクイーン。

 手に持っているのはコーヒーアメである。


「渋いチョイスだなー。もっと他には無いのか」


「えー。美味しいのよー。ほら」


 デスクイーンはアメの包みをはがし少女の鼻の前までもっていく。

 と、少女はくんくんと匂いを嗅ぐと、デスクイーンの手からアメをぱくりと食べた。

 

 少女は初めて食べる味に戸惑っているのか、泣くのを止めた。


「ほらほらー。泣き止んだ。いい子ねー」


「マニアックだなー」


 イチゴミルク味がお気に入りの大王は驚いている。


「で、この子は一体?」


「ここじゃ詳しい説明は出来ないから、とりあえず医務室へ行くぞ。案内してくれ」


「はいっ。わかりました。では私に着いてきてください」


 そういうとデスクイーンが通路をふらふらと飛び始めた。

 少女がアメを飲み込まない様に、なるべく衝撃を押さえながらその後を追う妖魔大王であった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ