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第5話 地上へ


 うれし荘102号室へと続く扉の、右側に妖魔大王、左側に暗黒騎士が手を添えている。


「じゃあいくぞ。ただし決して強すぎず弱すぎず、あくまで優しくだぞ」


 妖魔大王が暗黒騎士に念をおす。


 以前扉を強く押しすぎて、上に乗っていた畳ごと扉を吹き飛ばしてしまった事があったのだ。

 吹き飛んだ畳は天井にぶち当たり、凄まじい轟音と共にアパートが揺れた。

 

 あの時は上の住人と大家にもの凄く怒られた。


「う~難しいッスね」


 縦穴はそんなに広い訳ではない。

 大の男が二人もいればぎゅうぎゅうである。


「もうちょっと詰めてくれ」


「えー。こうッスか」


 狭い場所で体勢を入れ替えながら悪戦苦闘する二人。


 その時、妖魔大王のはねた髪の毛が暗黒騎士の鼻の中に侵入した。


「あんっ。大王様、そこはダメッ……」


「え?」


 少し頭を傾ける妖魔大王。

 その動きが更に暗黒騎士の鼻の奥を刺激する。


「あ……」



「あ…………」



「あ、はっくしょーーーーい!!!」


 

 暗黒騎士が豪快にくしゃみをする。


 と同時に、力を入れすぎたのか、扉が勢い良くスポーンと飛んで行った。


「あ! ばか!」


「げっ! ヤバッ……」


 上空から小さな埃や土の様な物が降ってくる。 


 数秒遅れて


 ズシーン!!


 と、凄まじい音と振動が縦穴まで響いてきた。


 その予想以上の音と振動に、血の気が引いていく妖魔大王と暗黒騎士。


 二人は瞬時に下を向く。

 確認する勇気が無いのである。


「ヤバイな」


「ヤベーッス」



「お前、ちょっと見て来い」と妖魔大王が言う。


「いやいや、大王様お先に」と暗黒騎士が断る。



「いやいやいや」


「いやいやいやいや」


 

 二人の攻防が続く、

 そんなやりとりが少し続いた後、やがて妖魔大王が諦めたように提案する。

 

「仕方ない、じゃ一緒に行こう」


「賛成ッス」


 暗黒騎士が深く頷く。


 辺りを舞っている埃はだいぶ落ち着いてきている。

 これなら上を向くことも出来るだろう。


 深呼吸をする妖魔大王と暗黒騎士。


「じゃ、いくぞ。用意はいいな?」


 小さく頷く暗黒騎士。


「1、2の3っ!!」


 意を決して上を見上げる妖魔大王と暗黒騎士。


 視界の先は真っ暗である。

 部屋の電気は消してあるはずなので、暗いのは仕方ない。


 すると暗黒騎士が何かに気付いたのか驚いた声をあげる。


「あれ? 星が見えてないッスか!?」


「えっ!?」


 暗黒騎士の発言の内容を一瞬理解できず、眼をこらす妖魔大王。


 通常であればアパートの天井が見えるはずである。

 

 だが暗黒騎士の言葉通り、確かに妖魔大王の目には満天の星空が映っていた。


 これはまずい、と妖魔大王は焦る。


 星が見えるという事は一階の天井はおろか、二階を突き抜け屋根まで破壊したという事だ。

 怪我人も出ているかもしれない。


 そう考えると、妖魔大王は縦穴から一瞬で飛び出した。


 その後を追う様に暗黒騎士も飛び出す。


 そして地面に着地をし、アパートの被害を確認する二人。


 だがあまりの予想外の出来事に二人は絶句する。

 

 二人が立っている場所は「うれし荘102号室」ではなく、見渡す限り緑が広がる、草原のただ中であったのだ。





「ここはどこ?」


 妖魔大王がやっとの思いで言葉を絞り出す。


 草原には背の低い木がぱらぱらと生えており、夜空には満天の星空が輝いている。

 地平の向こうには雄大な山脈が連なっているのが見える。


 そして、二人から少し離れたところには、先程飛んでいった木の扉と、三メートルはあろう大きな岩が転がっている。

 どうやら扉の上に乗っていたのはこの岩の様だ。

 地面に落ちた衝撃で真ん中から二つに割れてしまっている。


「核戦争でも起きたッスかね」


 暗黒騎士も事態を飲み込めずにいた。


「アフリカのどこかかな?」


 妖魔大王は、昨晩寝る前に見た大自然チャンネルを思い出していた。

 何となく似たような風景だった気がする。


「グルルル」


 と、不意に唸り声が聞こえてきた。

 二人の周りをオオカミの様な獣が、群れをなしてとり囲んでいる。


「野良犬か? あれ? 犬って尻尾が三本あったっけ?」


「ハスキー犬ぽいッスね。尻尾は一本のはずッス」


「いや。わからんぞ、人間は改良が好きだからなー」


 その獣はオオカミの様な外見をしているが、妖魔大王の言う通り尻尾が三本生えている。

 「サードウルフ」と呼ばれる魔物である。


 妖魔大王達との距離をじりじりと詰め、包囲網をじりじりと狭めていくサードウルフ。

 今にも襲い掛からんと二人のスキを窺っている。


 しかし、先に動いたのは暗黒騎士であった。



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