表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/42

第31話 喫茶ドートル


「はぁはぁ。なんなんじゃお主等は……。客人か?」


 ようやく解放してもらえた狐御前がはぁはぁと言いながら、妖魔大王達と同じテーブルに座る。

 まだ息が荒い。


「おいおい、ここに座るのかよ。向こうが空いてるだろー」


 テーブルは六人席だ。

 そこにサラを含めると七人が座っている事になる。

 例によってサラは大王の膝の上だが、窮屈な事この上ない。


 テーブル右手奥から、

 

 デスクイーン

 妖魔大王

 サラ(妖魔大王の膝の上)

 狐御前


 テーブル左手奥から


 マルチナ

 クラリス 

 カスミ

  

 なかなかに見事なハーレムっぷりである。

 幼女から女子高生、熟女、人外までよりどりみどりである。


 しかし妖魔大王は生きた心地がしていなかった。

 無数の地雷がひしめく地雷原を、今からスキップで歩かなければならない己の姿を想像していた。

 

(やべー奴しかいないじゃないか……。ああ、帰りてぇーっ。やっぱりシュテンや暗黒騎士でも連れてきた方が良かったか?)


「お待たせ致しました。コーヒーをお持ち致しました」


 マスターがコーヒーをワゴンに乗せて運んできた。

 良い匂いだ。

 サラの前には小さなクッキーとオレンジジュースが置かれた。

 

「いつもお邪魔してすみません」


 カスミがペコリと頭を下げる。


 「いえいえ。コーヒーも飲んで下さる方があってこそですから。こちらこそ、いつもありがとうございます」


「マスター。コーヒー豆ってまだあるのかしら?」


 デスクイーンが自らの前に運ばれたコーヒーの匂いを楽しみながら尋ねる。


「うちは生豆も保存してますからね。しばらくは持ちますが、いつかは無くなるでしょうね」 


「そうなのか……それって生豆から栽培出来ないかなー。少し分けてくれない? うちの植物研究所にもっていって栽培出来るか聞いてみるよ」


「おお、それはありがたい。では後でもって参りますね」


 妖魔大王の提案に表情を綻ばせるマスター。

 そしてカウンターの方へと嬉しそうに歩いて行った。


 クラリスは借りてきた猫の様に大人しくしている。

 

 くんくんくんくん。

 ずーっと真顔でカップに鼻を近づけている。


 鼻の奥にまで届く、その深く芳醇な香り。

 若干、瞳孔が開いている。

 どうやらコーヒーの匂いにやられてしまった様だ。


 マルチナはマスターが気に入ったらしく、去っていくマスターの背中を見つめている。

 その顔は恋する乙女の顔だ。


「ところでこの者達は誰じゃ?」


 そう言って狐御前がミルクと角砂糖をたっぷり入れたコーヒーを一口すする。

 そして、むうぅと言い角砂糖を一つ追加した。

 まだまだ甘味が足りなかったようだ。


「ああ、二人はこの辺の王国から来たらしいんだけど、お前に一言言うべきだったか?」


「いや良い。この町の長はお前じゃ。お主が決めた事なら文句はないわ」


 狐御前はもう興味が無くなったのか、手を横に振って見せた。


「境内に穴が開いた時には消滅させようと思ったけどね……」


 カスミがブスっとした顔で妖魔大王がにらむ。

 退魔の札を100枚おでこに貼られても、ケロリとしている妖魔大王を見て、消滅させるのは無理だと判断したのだ。


「この町では人間と獣人が対等な立場なのか?」


 クラリスが何の気なしに尋ねる。

 その言葉に何となく嫌な予感がする妖魔大王。


「そうだけど? ま、獣人だけでなく全てが対応な立場だ」


「なにっ!? ではドワーフもエルフもかっ?」


「そうだよ。俺の下に集う者は、俺の名において等しく平等である。凄いだろう」


 自分で言って気分が高揚する妖魔大王。


 うむ。

 今すごく良い事を言っているぞ。

 ま~、ドワーフやエルフは居ないけど……。


 だが次の言葉がまずかった。


 「なんせ俺は、ゆくゆくは世界を征服する、妖魔大王だからなぁっ! は-っ、はっはっはっ」

 

 クラリスがガタっと立ち上がる。


「貴様やはり他国の者か! 何が目的でこの地に町を築いたっ!」


 狐御前がじろりと睨みつける。

 勢いでテーブルが大きく動いたのだ。


「やめい。せっかくの午後のコーシーブレイクに水を差すでないわ」


 そして横にいる妖魔大王の膝の上の、サラの頭に手を優しく乗せた。


「この子もびっくりしておるわ」


「ダイちゃんをイジメちゃダメッ!」


「サ、サラ様……し、しかし」


「クラリス様は短気ですからねー。…………なにこれ!? めっちゃ美味しい!!」


 コーヒーを一口すすったマルチナが叫ぶ。

 初めてのコーヒーは、マルチナに脳天まで痺れる様な衝撃を与えたのだ。


「へー。ブラックの良さが分かるんですね。ほら狐御前様も見習わないと」


 同じくブラック派のカスミが、ここぞとばかりに狐御前にブラックを勧め始める。


「わ、妾はこのままで良い」


 何となく気まずそうに両手でコーヒーを隠す狐御前。

 その斜め前に座るクラリスは、ずっと匂いを嗅いでいたが我慢出来なくなったのか、いよいよカップに口をつけた。


「ぐはぁっ! なんだこれはぁ!? 毒かっ?」


 一口飲んだクラリスは、大変失礼な事を言いながら盛大にむせる。

 遠くで、マスターが笑いながら見ている。


狐「このミルクと砂糖を入れて飲んでみぃ。わしは三つずつがおすすめじゃ」


カスミ「狐御前様は入れすぎですよー」


デス「あたしはミルク無しの砂糖1つがおすすめよ。飲んでみる?」


マル「隊長! この芳醇な美味しさが分からないんですか?」


サラ「クラリスー。ジュースあげようかー?」


クラ「うむむ。どうすればいいんだ?」


カスミ「一つずつ入れて足りなかったら、足せば良いんじゃないですか?」


デス「ふふふ。隊長さんにはブラックはまだ早かった様ね……。キャッ!? 大変!」


サラ「デスキンー。ごめんなさい……」


 サラがオレンジジュースをクラリスに渡そうとして少しこぼしてしまった。

 グラスが完全に傾く前に、横に座る狐御前が手を差し伸べたので大半は無事だ。

 だが少しテーブルが濡れてしまった。


「サラ様、大丈夫ですか!」


 クラリスとマルチナが立ち上がる。


「サラちゃん濡れなかった?」


 カスミがそう言いながら、テーブルに置いてある紙ナプキンでさっとテーブルの上を拭く。


「あらあら、ちょっと濡れちゃったかな?」と、カスミ。


「お手てを洗いに行くかのう」

 狐御前は妖魔大王の膝からサラを持ち上げると、ひょいとお手洗いに向かっていった。


 女性陣が全員立ち上がり、あれやこれやと動き始める。

 事態が落ち着いたのは二十分後であった。





「どうぞ」


マスターがオレンジジュースの御代わりを持ってきた。


「ありがとー」


 サラが満面の笑みでマスターにお礼を言う。

 その場にいる全員が、その天使の如し愛くるしさに思わず相好を崩す。


 マスターが一緒に持って来たワゴンから、甘い臭いのする丸い何かを取り出す。


「これは当店自慢のシフォンケーキです。あいにく生クリームはございませんが、良ければどうぞ」


「マスタ~~」


カスミが飛び跳ねそうな勢いで喜んでいる。


「なんだ? これは」


「シフォンケーキじゃ。絶品じゃぞ、食べてみろ」


「シホンケエキ?」


 あーん。


 女子6人が同時に口をあけ、シフォンケーキを口に運ぶ。


 ぱくっ。

 

「「「「おいしー」」」」


女子6人がうっとりとしている。


「なんだ……このふわふわは……」

「隊長! 私はもう死んでも構いませんっ!」

「おいしーー」

「サラちゃん落とさない様にね」

「コーヒーによく合うのぅ」

「はぁ癒されるわね……」


「マスター、コーヒーお代わりお願いできますか?」

「あ! あたしも」

「はいはい。私もっ!」

「うむ」


 もはや誰が何を喋っているのかわからない。

 そりゃあ女性がこれだけ揃えばテーブルは賑やかになるだろう。


 だがその中、妖魔大王は一人固まっていた。


 ああ、いつまで続くんだ……。

 この女子会は……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ