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第3話 人化の術


「うむむ。なんだ? さっきの光は……」


 最初に声を発したのは妖魔大王である。

 あまりのまぶしさに頭がくらくらしている様だ。


「何か変わった事はあるか?」


 配下の妖魔達も何事かと周りを見渡している。


 既に揺れは収まっており、天井も崩れる心配は無さそうだ。


「特に変わった事はありませんわね」


 デスクイーンがふらふらと飛びながら答える。


「そうか。よし、では万里水晶を持ってまいれ」


 万里水晶とは、万里の距離に渡り、好きな場所の様子を映してくれる妖魔具だ。


 小さいカラス天狗が水晶を抱えて、パタパタと一生懸命に飛んでくる。


「はい。大王様」


「おお。重かっただろう。ありがとう」


 そう言うと妖魔大王は万里水晶を受け取り、むむっと念を送り込む。


「地上に被害は出なかったかな? どれどれ」


 しかし、万里水晶には角と牙の折れた自身の顔が映るのみである。


「あれ? 壊れたかな。何も映らないな」


 水晶をこすってみる妖魔大王。


 こすこす。


 こすこすこす。

 

 一生懸命水晶をこする妖魔大王に暗黒騎士が話しかける。


「また女湯覗こうとしてるんじゃないッスか」


「えー。やだ最低」


 デスクイーンが冷たく言い放つ。


「ば! ばっか!! お前、あれは偶然だって……」


 慌てて否定をする妖魔大王。


「でも万里水晶って、見た事や行った事が無い場所は映らないはずよね。て事は……」


「なるほどぞい。つまり実際に女湯に行った事があるぞい」


「ちがーうっ! 偶然通り過ぎただけだって!」


 実際のところ、妖魔大王の言う通り、以前万里水晶に女湯が映ったのは偶然だったのだが、幹部たちは面白がってからかうのをやめようとしない。


 妖魔大王の周りにうっすらと黒いオーラが浮かび上がる。


「貴様ら……いい加減にしろよ……」


「すみませんッス」


「ごめんなさいっ」


 暗黒騎士とデスクイーンが即座に謝る。


 だるま男爵はゴロゴロゴロッ!! と猛スピードで転がり、何人かの妖魔をはね飛ばしながら逃げていった。

 

「……あいつは後でお仕置きだな」


 やれやれとため息をつく妖魔大王。

 

「もう良い。では宴の準備だ。皆の者、大広間に集合だ! 重傷の奴は医務室へ連れてってやれ」


「ははっ!!」


 大勢の妖魔達がいなくなり、大王の間はいつもの静寂さを取り戻した。


「まったく仕方が無いやつらだ。しかしあの瞬間感じた魔力の増大は一体……。」


 妖魔大王の胸にほんの少しの不安が影を落とす。


「地上も大丈夫だったかな?」


 地上には親切にしてもらっている人達や馴染みの定食屋がある。

 何か困っていたら、協力してやらねばな。


 妖魔大王はそう考えながら、自らも大広間へと向かうのであった。





 宴の最中。

 妖魔大王は一人大広間を抜け出し、大王の間の横にある自室へと戻っていた。


 大王はベッドに腰かけると、サイドテーブルの上の写真を手に取った。


「父上、母上。申し訳ありません。私は妖魔帝国の長年にわたる悲願を、達成する事は出来ませんでした。」


 写真立てには幼き頃の妖魔大王を中心に左右に両親が映っている。


 写真の右側には妖魔大王と手を繋ぎ、優しい微笑みをたたえた女性が立っている。

 その額から生える一本の角が無ければ人間と見間違うであろう。

 前妖魔王妃。すべての妖魔国民から愛された素晴らしい女性であった。


――あなたは優しい子。あなたなら妖魔帝国の本当の悲願を叶えられるかもしれない


 今でも母上の最後の言葉をはっきりと思い出します。

 妖魔帝国の本当の悲願とは何だったのでしょうか。

 やはり世界征服だったのでしょうか。


 写真の左側には前妖魔大王である父親が見える。とは言え巨大すぎて、ごつごつした岩の様な、つま先しか映っていないのだが。

 身体も巨大だったが、考え方や懐の深さ、何もかもが巨大な大王だった。


――お前はもっと大局的に物事を見なければならんな


 はい、父上。

 私はまだまだ父上の様にはなれないようです。

 どうかこれからの妖魔帝国の行く末にお導きを。


 妖魔大王は写真立てを元の場所に戻すと、ベッドから立ち上がり部屋を出る。


 すると部屋を出たところでばったりと暗黒騎士と出会った。


「あ! 大王様探してたんスよ。今から「味一」に、食べにいかないッスか?」


 暗黒騎士が妖魔大王に声を掛ける。


 「味一」とは地上にある行きつけの中華料理屋だ。

 全国展開をしており、ラーメンをメインに各種中華料理を食べる事が出来る。

 安さがウリで24時間営業もしている。


 妖魔大王はしばし考える。 


(もう夜十時を回っているはず。こんな時間に大王を飯に誘うとは……。前から思っていたが、こいつにはハッキリ言わねばならぬな)



「暗黒騎士よ……」


「はい!」



「ナイスだ」


 グッと親指を立ち上げる妖魔大王。



「でっしょー!」


 暗黒騎士も親指を立ち上げて大王に答える。



「よしよし。だるま男爵には声をかけたか?」


「かけたんスけど、酔いつぶれて寝てるッス」



「そうか。じゃ、仕方ないな。デスクイーンは……夜中にラーメンなんて絶対に行かないだろうな」


 デスクイーンはカロリーを気にしてラーメンのスープを絶対に飲まない。

 寝る前のラーメンなんて以ての外だろう。

 最悪、二人が行く事を止められる可能性すらある。


「俺はモヤシ炒め定食で!」


「じゃー、わしは味噌ラーメンと半チャーハンにしようかなー」


 餃子もつけちゃおうかな……と、空腹という名の悪魔がささやいてくる。

 確か50円引き券があったはずだ……


 うむ。決まりだな。


 妖魔大王はいくつものメニューの組み合わせの中から、最適だと思える組み合わせを導き出す。


「では人化の術をやるか」


 人化の術とは文字通り人に化けることである。

 実はかなりの高レベルの技で、妖魔帝国でもこの技を使えるものはそれほど多くはない。

 しかし、地上に出る為には必須の術とも言える。


「じゃお先ッス」


 そういうと暗黒騎士が人化の術を発動させた。 


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