第25話 第二回緊急会議
だるま男爵が見事な壁を完成させたその夜、妖魔大王達は第二回目となる緊急会議を開いていた。
議題は「なんかいろいろ」
モグライオンとだるま男爵、シュテンは欠席だ。
まずモグライオンだが、徹夜で突貫工事をしていたため、今日は代休を取っている。
本人は大丈夫と言っていたが、徹夜した場合は強制的に休みを取らされるのだ。
ちなみに妖魔帝国は週休三日制である
シュテンは稲荷町の町内会の会議に呼ばれていった。
まあ、会議とは名ばかりの宴会である。
そんなところに何故シュテンが呼ばれたのか。
理由はただ一つ、シュテンが所持している「不思議なとっくり」だ。
そのとっくりは、日本酒だろうが、カクテルだろうが、ワインだろうが、望めばとにかく何でも出てくる。
酒が大っぴらに呑めるとあって、本人も喜んで出掛けていった。
シュテンは泣き上戸で、酔ったら手が付けられないが、手下の鬼を何人か連れていかせたので、まあ大丈夫だろう。
だるま男爵はと言うと、昼間ずっと壁造りをしていた為に欠席である。
というか、細かい細工が気に入らないらしくまだゴロゴロと壁と格闘中だ。
ちなみにサラもこの場にはいない。
昼間たくさん歩いて疲れたのか、もう寝ている。
もう時計は夜の七時を回っている。
「じゃ、昨日に引き続き緊急会議を始めまーす」
妖魔大王の挨拶で、ゆるゆるの会議が幕を開けた。
「まずはミケと、今日はお休みだがモグライオン、電気と水道の復旧ご苦労さまでしたー。みんな拍手ー」
ぱちぱちぱち、まばらな拍手の音に混じってカシャ、カシャ、カシャッと音がする。
言うまでもなくほねぞうの拍手の音だ。
「みゃ。かゆいにゃー」
名前を呼ばれたミケは一生懸命に後ろ足で頭を掻いている。
地上に出た時にノミを何匹かもらってきたらしい。
「あらあら。大丈夫? 今度地上に行く時は『ノミよけ首輪』しなきゃね」
横に座っているデスクイーンが、ミケの頭の毛をかき分けノミを探す。
「うにゃ。あれは首輪周辺以外には効果が薄いんだにゃー」
ピョンと一匹のノミがミケの身体から飛び出す。
そしてこっそりと妖魔大王のシャツの中へ……。
「大変だなー。でも壁の外の世界にもノミとか出ない様にしなきゃな。あっという間に広がりそうだ」
「そうッスね~。俺達は完璧な外来種ッスからね」
「嫌な言い方だな……。ま、でも厄介な問題がまた増えたな……」
「やっぱし外出禁止の結界を張りますか?」
デスクイーンがノートパソコンのキーボードを叩きながら問いかける。
「いや、地下の帝国から出ていく可能性が高いだろう。ネズミとかGとか……」
「帝国は通気穴もそこらじゅうに空いてるッスからね。完全隔離は無理っぽいッスね」
「ま、一旦その話は置いとくか。誰か、稲荷町の人達から要望とか、何か意見を聞いた者はいる?」
「はい」
デスクイーンが手をあげた。
「昼間、地上に出た際には稲荷町の人達から感謝の言葉をたくさん頂きました。やはり食料の配布、電気、水道の復旧がスピーディーに行われた事が大きい様です。また壁についても安心感を得る事が出来ている様です」
「おー。みんなが頑張ってくれたお陰だな!」
妖魔大王は満足げだ。
部下の頑張りを稲荷町の住民に認めてもらえて嬉しいのだ。
「ただ一部のお年寄りの中には、壁がある事で逆に不安感を感じる方もいらっしゃいました」
「なんでかしら?」
「外界を完全に遮断したからか? 見えないと逆に不安になるとか」
「隔離されてる感が半端ないからじゃないッスか?」
うーむ、と考え込む妖魔大王達。
「ううん。まあ町としていつまでも引きこもるわけにもいかないからな。おいおい外の世界との繋がりも持たないとな」
「ここって何処かの国の領土なのかニャー?」
「その可能性は高いだろう。だが盗賊がいる事や、街道の整備具合、まだ誰も訪ねてこない所を見ると、ここは辺境の地なんだろうな」
「だとしたら、果たして独立国として認めてもらえるッスかね……」
暗黒騎士が緑茶を飲みながら呟く。
「交渉次第だな。慎重にいかなきゃな。デスクイーン、他に意見はあったか?」
「はい、あとは『TVが見たい』『スマホが繋がらない』と言った意見ですね。後は『洗濯物が乾かない』ですね」
「洗濯物は壁のせいよね、部屋干しは生乾きが気になるし、わかるわぁ」
スケルトンのほねぞうが骨をカタカタ鳴らしながら大きく頷く。
お前は服着ないよな、そうだよな?
妖魔大王は心の中で問いかける。
「まー、TVもスマホも無理ッスね」
「こほん。娯楽が少ない事が原因じゃないですか。皆さん帝国に引っ越して来たら楽なんですがね」
そう言うのは前回欠席していたそろばん男だ。
今時珍しい七三分けの髪型とフチ無しメガネがトレードマーク。
見た目はふっつーのおじさんである。
「おお、そろばん男、久しぶり。子供の具合は良くなったのか?」
「はい。おかげさまで。単なる風邪だったみたいです」
彼は元人間だが、無類のそろばん好きが長じて妖魔となった男である。
簿記二級、そろばん三級の腕前を持つ。
「居住区域には一通りの娯楽施設はありますからね。退屈はしないでしょう」
そろばん男の言うとおりだ。
妖魔帝国にはカラオケを始めゲームセンター、映画館にボウリング場に卓球場。
図書館や学校まである。
妖魔大王はこれまで積極的に人間達の文化を取り入れてきた。
その成果だろう。
「でもあそこのカラオケ、曲が少し古いし、曲数も少ないのよね~」
「地下じゃ通信専用の機器は使えないから仕方ないニャ」
「壁と町の間には草原が広がっています。そこを活用していくのは?」
ほねぞうがマイ水筒の蓋をあけながら発言する。
中身はハーブティーだ。
狐御前にわけてもらったらしい。
「例えば?」
「サッカー場とか、ゲートボール場とかいかがですか。個人的には、地上で日光浴とかやってみたいんですけど」
日光浴する骸骨。
……間違いなく通報されるだろうな。
妖魔大王は喉まで出かかった言葉を呑み込んだ。
そして会議はゆるゆると後半戦へ続くのであった。