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第23話 壁作り


 妖魔大王と暗黒騎士は稲荷神社へ移動していた。

 だるま男爵の壁作りの様子を見学するためだ。

 

 二人とも人の姿をしている。

 もう町民全員に二人は妖魔だと知れ渡っているのだが、本来の姿で出歩くのはまだ勇気がいるのだ。

 とはいえ、人化出来ない者や、人の目を気にしない者達は普通に地上に出たりしているのだが。


 稲荷神社は町の高台にあり、稲荷町では一番高い場所だ。

 高い建物等、視界を邪魔する物も無いため、町の外に広がる草原の遥か遠く迄を一望する事が出来る。


 境内の真ん中には妖魔帝国へと続く直径二メートル程の穴がぽっかりと空いている。

 穴の回りには簡易的な柵が設けられており、二名の人化した妖魔が警備員として立っている。


「おっ。始めるようだぞ」


 遠くに見えるのは巨大化しただるま男爵の姿。

 予定では町から百メートル離れた場所に壁を建てる事になっている。


 しかし百五十メートルに巨大化しただるま男爵は、町から離れてなお近くに見える。


 「これからどうするんだろうな?」


 「スコップも無いッスね」


 二人が疑問に思っていると、だるま男爵が右手の指を真っ直ぐに伸ばし、そっと地面に近付けていく。

 何かの妖術を使っているのだろうか、その右手は豆腐に箸を刺す様に易々と地面に差し込まれていく。


 そして手首まで地面に突き刺すと、そのまま優しく土を掘り起こす。

 手のひらには大量の土砂。

 それをこぼさない様にそっと町の方へと丁寧に積み上げ、ぎゅぎゅっと固めていく。


「~♪」


 鼻歌混じりに壁作りを行うだるま男爵。


「なんだあの能力は!? モグライオンより凄くないか?」


「ヨーロッパのノーム族に、土を自在に操る一族がいるって聞いた事あるッス。そっち系ッスかね」


「ノームってあんな覆面ダルマレスラーみたいなんだっけ?」


 妖魔大王の眼には筋骨粒々のダルマ顔の巨人が映っている。

 ダルマレスラーという形容はピッタリだ。


「一ミリもノームらしさ無いじゃん。てかあいつはそもそも妖魔か?」


 自分の部下になんて事を……。


「うーん、つくも神の可能性もあるッスねー」


 そういっている間にもどんどん高く積み上げられ固められていく大量の土。

 これはかなりのハイペースだ。


「なんだか土遊びしてるみたいね」


 境内に空いた穴から、人化したデスクイーンが上がってきた。

 梯子は使わず飛行してきた様だ。

 背中にはおんぶされたサラが見える。


「はい、到着~」


 デスクイーンがすっと腰を落とすと、背中からぴょんとサラがジャンプして地面へ足をつける。


「ダイちゃんー」


 たたっと妖魔大王の元へと駆け寄るサラ。


「ここは安全でしょうから連れてきましたよ。大王様がいらっしゃらないと寂しい様で……」


 サラは、はしっと妖魔大王のTシャツの裾を掴む。


「良くきたね~。ほら、あそこにおっきな変態がいるよー」


 妖魔大王はサラの後ろを指差す。

 そこには巨大なだるま男爵の姿。


「わー! すごーい。だるだるおっきいー」


 振り返ったサラは、大きな丸い目を更に丸くして驚いている。

 だるま男爵は積み上げた土を左右から両手で挟み、厚みを整えている。


「サラっち、よくだるま男爵ってわかったッスねー」


「うん。わかるよ、あんこー」


 サラが暗黒騎士を指差してそう答える。


「えっ!? 俺の事、覚えてくれたッスか。ありがとうッス~」


「あら、良いわねー。じゃサラちゃんあたしは?」


「えっとねー……やさしいおねーちゃん」


「うひひ。デスクイーンまだまだッスね」


 暗黒騎士が長く黒い髪をかきあげ、勝ち誇った様に笑う。


「えー。サラちゃんあたしはデスクイーンよ、デ・ス・ク・イーン」


「デスキーン」


「はい、お前は今日からデスキンに決定ー」


 妖魔大王が指を指しながら笑っている。


「サラちゃ~ん。お姉ちゃんの名前、もう一回言ってみて」


 こうして稲荷町境内では和やかな時間が流れていくのだった。




 だるま男爵の壁作りは六時間程で完成した。


 五十メートルで高さをピッタリと揃えられた壁は、若干外側に反る様に作られている。

 その表面は驚くほどに滑らかで美しい。

 例え何者かが壁の外側から侵入を試みたとしても、登る事は困難であろう。


 緩やかに弧を描きながら稲荷町を囲む巨大な壁。

 そしてその壁の周りは、深い深い堀に囲まれている。

 塀の深さ迄は統一されていないが、一番浅い所でも三十メートルはある。

 落ちたらそれだけで大ダメージを受け、上がってくる事も容易ではない。


 上空を自由に飛ぶ鳥達の眼には、稲荷町を囲む綺麗な二重の円が見えるだろう。


 壁の北側には、壁とは不釣り合いな程に小さい門が一戸付けられている。

 ただし小さいとはいっても、あくまでも壁と比較しての事であり、高さも幅も三メートルはある。

 人間は言うまでも無く、馬車や大型の妖魔でも門をくぐる事は出来るだろう。


 その門には簡易的な跳ね橋も備え付けられており、必要に応じて堀を渡る事が可能となっている。

 もちろん今ははね橋は上がっており門も閉まっている。


 そしてこの門が町と外を繋ぐ、唯一の出入り口となる。

 

 壁の厚みは十メートルで統一されている。

 さらに壁の上には八メートル程の溝が作られて通路として使う事も可能だ。

 見回りや警戒時には役立つであろう。


 だるま男爵は既に変態(トランスフォーム)を終え、本来のだるまの形になっている。

 今は門の両側に獅子の頭部を模した細工を施そうとしている最中だ。

 口に咥えた小刀一本で物凄いスピードで仕上げていく。

 

「速かったッスねー」


「あいつにこんな才能があったとはな……」


「さすが伝統工芸ね」


「壁つるつるー」

 

 皆、口々にだるま男爵の事を褒め称えている。

 壁は夕焼けによってオレンジ色に輝き、草原に長い影を伸ばしている。


「ロマンチックね」


 デスクイーンがうっとりとした顔で呟く。


「そうッスかー」


 尻を掻きながら、デスクイーンに近寄る暗黒騎士。


「はぁ。ムード台無しね」


 壁の上空には稲荷町を包む様に、既に結界が張られている。

 

 だるま男爵の超怪力による圧縮と、妖力によって固められた壁は恐ろしい程に頑丈だ。

 剣や弓はもちろん、大砲ごときでは到底破壊できないだろう。


 高さ五十メートル、厚さ十メートル、堀三十メートル。

 何者の攻撃をも防ぐ難攻不落の要塞の誕生である。


 これで町のみんなもさぞ安心するだろう。

 妖魔大王は満足し、境内から稲荷町全体を眺めた。


 その時妖魔大王は、たった一つ、壁の重大なある欠点に気が付いた。



「あ…………日当たりが最悪になったな……」


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