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第22話 メタモルフォーゼ

  

 妖魔帝国及び稲荷町が異世界に転移して、3日目の朝10時である。


 「町民館にて水及び食料の配給を行っております。町民の方々は町民館までお越しください。また動けない方や……」


 朝から町内アナウンスがずっと繰り返されている。


 カスミの声だ。


 町民館には既に大勢の町民達が列を作って、水や食料を受け取っている。ほねぞうの指揮のもと、慌ただしく妖魔達が動いている。


 その様子を満足気に見守る妖魔大王。

 横には人化した暗黒騎士が眠そうに欠伸をしながら立っている。


「予想以上に早かったなー」


「そッスね。でも狐のおば……狐御前は激怒してたッスね」


 ここが狐御前の結界内だと思いだし、即座に言い直す暗黒騎士。


「ひどいよなー。町民の為を思っての事なのに、百枚重ねて札を貼られたぞ」


 そう言って妖魔大王はおでこに手をあてた。

 まだおでこが少ししびれている気がしたのだ。


「まあ予想してましたッスけど……。いきなり自分ちの敷地に大穴が開いて、そこから妖魔がわらわら出てきたら怒るッス。しかも早朝に」


 実は既に今朝がた、帝国と稲荷神社とをつなぐ穴は開通していた。

 昨夜の会議の後にモグライオン率いる掘削部門が、徹夜で穴を通してくれたのだ。



「その通りじゃ」


 後ろから現れたのは狐御前である。

 巫女装束ではなく、ピンクのスウェットにゆったりめのTシャツを着ている。


 シャツには稲荷町のゆるキャラ「ポコンちゃん」のイラストが描かれている。

 右半分がタヌキ、左半分がキツネのキャラだ。

 キモ可愛いとネットで一部人気が出て、昨年のゆるキャラグランプリでは13位と大健闘を見せた。


「百枚で済んでよかったの。かかかっ」


 狐御前がさも楽しそうに笑う。


「マジで浄化するかと思ったよ……」


「ふん、嘘をつくな。しかし迅速な対応見事じゃ。礼を言わせてもらおう」


 狐御前は深く感謝していた。

 本来であれば、妖魔と人間は対立的存在。


 これを機に人間の支配を考えるのが当然で、助ける事など考えられない。

 自分が元妖魔だからこそよく分かるのだ。


 この男、いやもっと言えばこの男の父が大王となってから妖魔帝国は変わった。

 先代の意思を受け継いでくれて本当に良かったと。


「して、妾に頼みとは?今から何が始まるのじゃ?」


 狐御前を呼んだのは妖魔大王であった。


「ちょっと不可視の術を掛けてほしいんだよね」


「主にか?自分でも使えるであろう?」


「いやわし……俺じゃなくて、だるま男爵に」


 妖魔大王は今日からであるが、自分の事を「わし」ではなく「俺」と呼ぶ様にしている。

 昨夜サラに「ダイちゃん、なんでおじーちゃんじゃないのに、わしっていうの?へんなのー」と言われたからだ。


「あのだるまか? 構わぬが……してどこにおる」


「そろそろ見えると思うんだけど……あっ、あれかな?」



 ズシン……



 ズシンッ!



 低い地鳴りと共に地面が少し揺れる。


「ぞ~~~~」


 どこからともなく重くゆったりとした声が聞こえてくる。

 あまりの大音量に空気が振動し、付近の窓ガラスがビリビリと音を立てている。



「い~~~~~~~」



 その声と共にぬっと、だるま顔の大巨人が町の遥か上空に姿を現した。


「なんじゃっ!?」


 呆然と巨人を見上げる狐御前。


 姿を表したのは人型に、そして巨大に「変態(メタモルフォーゼ)」しただるま男爵である。


 筋骨隆々のその身体には、貼り付くようなぴっちりとした赤いスーツを着用しており、所々にはクマドリをイメージしたかの様な黒いデザインが入っている。


 顔も随分スリムとなり、凛々しい表情をしている。


 巨人も巨人。

 大巨人である。


 百五十メートル近い身長である。


「今回は一段とデカいッスねー。たぶん新記録じゃないッスか」


 照れるような仕草で頭に手を置くだるま男爵。


「これで光線でも出せれば、ウ○トラマンッスね」


「こんなムキムキなのはイヤだなー」


 何事かと町民も次々と外に出て、だるま男爵を見上げている。


「でけー」


「でかっ」


「でかいなー」


 みんな言うことは一緒である。



「あやつはダイダラボッチか何かか?」


 狐御前が問いかける。


「いや、違うよ。直接の知り合いはいないけど、本家はもっとでかかったはず。だるま男爵は変態(トランスフォーム)だったかな?」


「だるま男爵が変態(トランスフォーム)するとこ見たことあるッスか? スゲー気持ち悪いッスよ」


「あれはトラウマになるなー」


 その時の様子を思い出したのか、ちょっと気持ち悪くなる妖魔大王。


「やめい。で、あれに不可視の術を掛けるのじゃな。なるほど、なかなか骨がおれそうじゃ」


「人に見つかる前に不可視の術を頼むよ。今は結界内だからいいけど、この後外で壁作りをするからさ。あと結界を出入りする許可もお願いね」


 だるま男爵は結界から上半身が出ない様に前屈みになっている。


「良いじゃろ。ではしばし待っとれ」


 そう言うと狐御前は複雑な印を結び、だるま男爵に向けて念を込める。


 狐御前の額に汗が滲む。


 横では妖魔大王と暗黒騎士が「がんばれー」と応援している。


(あー気が散るのぅ)


 しばらくして狐御前がふぅと大きく息を吐いた。


「済んだぞ……。しかし、なんじゃあのだるまは。術抵抗が凄まじいの。術がかかりづらくて難儀したわ」


「いやー。助かるよ、実は俺でもちょっと自信なくてさー」


 そして妖魔大王はだるま男爵を見上げ、大きな声で伝える。


「おーい! オッケーだーーっ! 壁頼んだぞーっ!」


 静かにうなずくだるま男爵。


 そして、不可視の術と結界の出入りの許可をもらっただるま男爵は、町の外へと向かっていった。







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