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第21話 緊急会議4 会議って長引くよねって話

 しばらくするとほねぞうが戻ってきた。

 手にはピンクの可愛らしいハンカチを持っている。


 濡れた手の骨を拭いたのだろう。

 いくらか湿り気を帯びたハンカチを、腰骨の辺りでしまう素振りをする。


 次の瞬間、空中で忽然とハンカチが消えた。

 腰骨の辺りに何かあるのか……いや、ほねぞうは骨のみで構成され、余計な物は一切着けていないように見える。


 そして何事も無かったかの様に席に座るほねぞう。


 そんなほねぞうを横目で見ながら妖魔大王は心の中で繰り返す。



 ツッコんだら負けだ……ツッコんだら負けだ……。



「あら。その腰に付けてるの可愛いポーチね、買ったの?」


 デスクイーンがほねぞうに話しかける。



 ツッコんだら負けだ……ツッコんだら負けだ……。



「ええ。店員さんにもお似合いですねって勧められて」


 

 ツッコんだら負け……ツッコんだら負け……。

 念仏の様に繰り返す妖魔大王。



「ほねぞうはスタイルいいから」 



 ツッコむな……ツッコむな……ツッコむな……。



「でも最近お肉が付いちゃって」



 ツッコ……



「どうしてーーーーーっ!」



 もはや耐えきれなくなった妖魔大王が心の内をありのままに叫ぶ。

 瞳孔が開いている。


 きょとんとして妖魔大王を見つめる一同。



「どうしてっーーーーーーーーっ!!!」


 壊れかけの妖魔大王。



 しかし叫んだ事で少しすっきりしたのか、ふと我に返る。


「はぁはぁ。い、いや……最近ストレスが溜まっていてさ。たまに叫ぶんだ。あはははは」 


 無理やりごまかそうとするが、かなり苦しい状況だ。

 額には汗が玉の様に浮かんでいる。

 膝の上のサラが「いいこいいこ」と言って妖魔大王のほほをさすっている。


 そんな汗たらたらの妖魔大王を、ほねぞうが心配そうに見つめる。


「ちゃんとカルシウムは取っていますか?」


「ものすごい説得力ッスね」


「おまっ!?」

 

 妖魔大王は驚いて暗黒騎士を見るも、フルフェイスヘルムによってその顔は見る事が出来ない。

 

 くそっ。

 人化してれば表情から何か判ったかもしれないのに。


「ごほんっ!……じゃ会議を続けるぞ」


 妖魔大王はわざとらしく咳ばらいをし、中断してしまった会議を再開する。

 デスクイーンはほねぞうに、お花を摘みに行った間の会議の内容を教えている。

 

「えーと。じゃーミケとモグライオンは協力して、明日からでも水と電気の復旧作業に当たってくれ」


「はいにゃ」

「はいモグ」


 即座に返答する部下を満足そうに見ながらも、妖魔大王が半ば諦め気味に呟く。


「でもやっぱり……ガスは駄目だよな」


 妖魔帝国はオール電化であり、ガスの供給施設は現在は存在していない。


「稲荷町ってプロパンガスが主流じゃないッスか。それでも難しいッスかね?」


「うーん。天然ガスとかを発見できればいいのか? どうだミケ」


「にゃ? 技術的には余裕にゃ。ガスは作ればいいにゃー」


「うーん。ミケは何でも出来るなー」


 妖魔大王は心から感心する。

 ミケ率いる研究開発部門にかかれば、大抵の物は何でも作ってくれる。


「でも反対だにゃ」


 ミケが少し身を乗り出して話し始める。


「帝国のガス供給施設はもう取り壊してあるから、また一から建設する必要があるにゃ。そんな事する時間も資材も無いにゃー。それよりは地上も全部電気化した方が工数も少なくて済むし、稼働中の発電施設を利用した方がいろんな面でリスクも少ないにゃ」


 ミケの発言に続き、シュテンも発言をする。


「妖魔帝国住民も、また新たにガス施設を建設するとなると、不安に思う者も出るでしょう」


「うん。じゃガスは無しで電気に切り替えの方向で進めるか」


 仕方ないなと諦める妖魔大王。

 

「にゃ。コンロはIHコンロに交換するとして、お風呂はしばらく銭湯にゃ。銭湯のボイラーがガスの時はまた考えるにゃ」


「『稲荷湯』ぞい。あそこの電気風呂は気持ちいいぞい」


「あれ、だるま男爵って人化出来た?」


「出来ないぞい。だからこの姿のまま行ってるぞい」


 唖然とする一同。


 この調子では妖魔大王以外にも、正体がばれている妖魔はいるに違いない。


「ま、まぁ食料も稲荷神社まで穴が開けば、A-4から行く必要無く安全に運べますね」


 ほねぞうがあごの骨をカタカタと鳴らしながら妖魔大王に話しかける。

 眼窩にぽっかりと空いた穴には、全ての光を拒絶する様な深い闇があった。


「そうだな。って事はA-4は必要無くなるな。よし、暗黒騎士は明日だるま男爵が出発したらA-4を塞いでくれ」


「了解ッスー」


「シュテンは帝国国民に今回の説明を頼む」


「はっ! 承りまする」


 ふぅ。


 妖魔大王は軽く息を吐き出した。

 

 とりあえず……こんなもんかなー。

 早急に決めなければいけない事案に漏れが無いか、頭の中で確認する妖魔大王。

 

 転移してまだ二日目だが、本当にいろんな事があった。

 やっと、うっすらとだが、進む道が見えてきた気がする。 


「すーすー」


 膝の上でいつの間にか寝息を立てているサラ。

 抱えているだるま男爵の頭には、サラのよだれがべったりと垂れている。


 この子も何とかしてあげなきゃな。

 

 目を覚まさない様にサラの頭をそっと優しくなでる。


 そして、軽く頷くと妖魔大王はデスクイーンに話しかけた。


「じゃー各自の今後の予定をまとめてくれ」


「はい。では今後の予定ですが……」


 デスクイーンが立ち上がり会議中にとっていたメモを読み上げる。


「だるま男爵はA-4出口から町へと向かい壁の建設を」


「モグライオンは大広間から稲荷神社へと通じる穴を」


「ほねぞうは穴が開き次第、町民の方たちへ水と食料の配布」


「ミケは水及び電気の供給作業を進めて下さい」


「シュテンは帝国国民に説明をお願い」


「暗黒騎士はA-4の封鎖と外部からの侵入者がいないか警備をよろしくね」


「以上となります」


 うむと頷く妖魔大王。


「よし、では各自部下にも情報共有を忘れずに作業を進めてくれ。何かあったらすぐに報告。いいな」


「はいっ!!」


 全員が同時に返事をする。


「じゃー、お腹もすいたし本日の会議は終了。解散しますっ!」




 会議終了後、デスクイーンは役員会議室の片づけを行っていた。

 

 そしてサラの描いたお絵かきの紙をテーブルの上に見つけ「ふふっ」と笑う。


 八本の足?

 たこさんかしら?

 

 何が描かれているかはわからない。

 だがデスクイーンの用意したクレヨンをサラはとても気に入ってくれた。

 その事がとても嬉しかったのだ。


 次は24色をプレゼントしちゃおうかな。

 

 わお。

 あたしってば太っ腹―。


 そんな事を考えながら、廃棄物の中にお絵かきの紙を入れる。

 一瞬、捨てた事をぶーぶー言う妖魔大王の顔が浮かんだが、これからもたくさん描いてくれるんだから……と考えたのだ。


 そしてデスクイーンは電気を消して、役員会議室を後にした。 



 廃棄物の中に入れられたお絵かき。


 そこにはにっこりと笑う、八つの角を持つ三つ目の男の顔が描かれていた。


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