第20話 緊急会議3 パイプラインと食料について
緊急会議は開始から1時間が経過しようとしていた。
「んじゃ、稲荷町に対して至急準備しないといけない事ってなんだと思う?」
妖魔大王が幹部の面々に向かって問いかける。
「はっ!」
シュテンが勢いよく挙手をする。
「おっシュテン君。いいねーその積極性。どうぞー。」
シュテンはかつてオニと恐れられ、暗黒騎士と死闘を繰り広げた男だ。
そんな男が今では妖魔帝国の事を第一に考え、日々地味な業務に勤しんでいる。
変われば変わるもんだ……と妖魔大王はしみじみ思う。
「まず人間達にも、水、食料、それに電気が必要かと思いまする」
「うん、そうだな。まあ、水と食料は一旦ほねぞうが配給してくれるからいいとして……」
そう言いかけて、斜め横に座っているほねぞうの方をちらりと見る。
そして、こくんとほねぞうが頷いたのを確認すると、その横のミケに視線を移した。
「電気はうちの発電所から引っ張ればいけるのかな? ミケ」
「にゃ。発電量も技術的にも余裕にゃ」
ぺろぺろと毛づくろいをしながら答えるミケ。
「ただ……」
「ただ?」
「町に一番近い、A-4出入り口からでも相当な長さのケーブルが必要にゃ」
「それって結界や壁の外から町の中へとケーブルを引っ張る事になりますよね。今後の管理的にも難しいですね」
ほねぞうはそう言うとコップの中の牛乳をぐびりと飲んだ。
その様子をハラハラしながら見つめる妖魔大王。
何故こぼれないのだろうか……。
不思議な事に牛乳が骨の隙間からこぼれる事は無い。
うーむ。
いつみても不思議だな。
牛乳はどこで消えてるんだ?
飲んだ瞬間に吸収しているのだろうか。
だとしたら胸の辺りで消えてるのか??
つい視線を集中させてしまう妖魔大王。
その熱い視線に気づいたほねぞうが、さっと両手で胸骨を隠す。
「やだ。どこ見てるんですか」
「大王様ー。またほねぞうの胸の谷間を見てたッスかー」
「いやいやっ! 違くてだなっ。お前は何とも思わないのかっ」
必死に否定をする妖魔大王。
ほねぞうは実は女性である。
生前はジャンヌと言う名前だったが、骨となり性別が分からなくなってから「ほねぞう」と妖魔大王が名付けたのだ。
「もー。ちょっとお花摘みに行ってきます」
そういうとほねぞうは会議室を出て行った。
「大王様、セクハラですよ」
デスクイーンに厳しい目で睨まれる。
「ええー!? いや……はい、本当すいませんでした。で、どこまで話したっけ?」
今一つ納得が出来ない妖魔大王であったが、明らかに旗色が悪いと察し会議を続ける。
「A-4からケーブルを引くのは難しいって話ですよ」
「そうにゃ。にゃから町の中に直結した出入り口を新たに作って、そこからケーブルを引っ張るべきにゃ。にゃっ!」
ミケがテーブルの上で一休みをしていたコバエにネコパンチをする。
が、間一髪コバエは逃げていった。
「あーなるほど。じゃ稲荷神社の境内まで穴を開けるか」
「えぇっ! 大丈夫ッスか? 狐のおばさん怒るんじゃないッスか?」
不安そうに妖魔大王を見つめる暗黒騎士。
「大丈夫大丈夫。わし町長だもん」
自信満々に答える妖魔大王。
だがもちろん大丈夫な訳はなく、後日おでこに100枚の札を貼られる事になる。
「モグライオンどのくらいで穴は出来そうだ?」
「はいモグ。真上に掘り進むだけなら一日あればいけますモグ。たぶんスタート地点は大広間になると思うモグ」
「掘った時に出る土はどうするッス?」
「なるべく壁に土を押し付けて、妖力で固めながら掘り進むモグ。だからあんまし土は出ないと思うけど、下で回収班を用意して別の場所へ運搬するモグ」
モグライオンを筆頭とする掘削部門は、鉱物資源の採掘や新たな地下資源の探索などを主任務としているが、妖魔帝国の地下領土の拡大も行っている。
彼らに任せておけば問題は無いだろう。
「頼んだぞ。じゃ水道管もその穴からつなぐ感じでOK?」
「それで大丈夫にゃ。ただそれでも帝国の水処理場から地上まで数キロあるにゃ。二日程、時間が欲しいにゃ」
「なにぃ!? 駄目だ。半日で終わらせろ」
キリッとした顔でミケの提案を却下する妖魔大王。
先日見た深夜映画で、渋い上司が部下に対して言っていたセリフだ。
それを視た妖魔大王は「なんてカッコいいんだ……」と感銘を受けた。
つまり、言ってみたかっただけである。
「無理にゃ。しゃーっ!!」
それを聞いて毛を逆立てて妖魔大王に威嚇をするミケ。
席が離れているから良かったものの、隣の席だったら引っ掻かれていただろう。
「セクハラに続いて、パワハラですか。いけませんぞ。大王様」
「そーよ、良くないわよ」
「どうせ言ってみたかっただけッス」
「先日の深夜映画の影響だぞい」
「ああ、あれですな」
「そもそも半日じゃ穴も開いてないモグ」
「わがままはだめだよ、ダイちゃん」
その場にいる全員から総非難される妖魔大王。
サラにまで注意されてしまった。
うう。
言ってみたかっただけなのに……。
上に立つ者の厳しさを味わいつつ、もう二度とさっきのセリフは使わないと心に誓う妖魔大王であった。