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第16話 そいつをつまみ出せっ


 やがて拍手の嵐が鳴りやみ、会場が落ち着きを取り戻すと、司会のカスミがマイクを握った。


「それでは説明は以上となります。続いて質疑応答の時間とさせて頂きます。ご質問ある方は挙手をお願い致します。」


「はい!」

 

 妖魔側から元気な声と共に小さい手が上がった。

 空飛ぶ妖魔、カラス天狗の子供である。


 小さい羽根をパタパタと羽ばたかせながら一生懸命に空を飛んでいる。

 外見は小さな子供に黒いカラスの羽根が生えた感じだ。 


「キャー」


「可愛いー」


 町民達の間から幾人かの女性の声が聞こえる。

 それを聞いて壇上でほくそ笑む妖魔大王。


(ふふふ。奴は場の雰囲気を和ませる為に連れてきた、いわば「マスコット」よ! ここまでの流れは上出来中の上出来! これで妖魔への警戒心は完全に無くなるであろう)


 この説明会には、妖魔の中でも役職に就いている者や、至急説明が必要と思われる妖魔達が召集されたのだが、このカラス天狗「クラマ」だけは妖魔大王が直々に指名したのである。

 普段は金魚のエサやりが主な仕事だ。


「はい。質問どーぞ」


 妖魔大王がにこにこしながら、カラス天狗に発言を許可する。


「ありがとーございます」


 カスミがクラマのそばまで駆け寄り、ちっちゃいお手々にマイクを握らせる。

 

 にこにこにこ。


 町民達も妖魔達も、聖母マリアの様に優しさに満ちあふれた笑顔でその様子を見守っている。


「質問はなにかなー?」


 カスミも満面の笑みでクラマに尋ねる。


「では」


(では?)



「ではまず、妖魔帝国の危機管理体制及び情報収集能力についてお聞き致します。日頃から対立関係にあった魔法少女の動向には注視していたにも関わらず、襲撃を未然に防ぐ事が出来なかった原因はなんであると思われますか。また、転移魔法が実際に発動するまでには、ある程度のタイムラグがあったかと思いますが、その間に避難が出来なかった理由についてお聞かせ頂きたい」


「えっ?」


 と、最初にカスミが。


「えっ?」


 と、次に妖魔大王が。


「えっ?」


 と最後にクラマを除く全員が声をあげる。


 クラマの質問は、妖魔大王の予想の斜め上を、ぶっちぎりの速度で飛んでいった。

 あまりの想定外に頭が真っ白になってしまう妖魔大王。


「あっ、いや、あいつら突然殴りこんで来たし……あのわしもボコボコにされて半分意識を失っていたので……その……それは色々難しかったかなーなんて……」


 こ、これでいいですか、と愛想笑いをする妖魔大王。


 はぁ、とため息をつくクラマ。


「そうですか。ほとんど回答を頂けていないと思いますが、この場での回答が難しいのであれば仕方ありません。しかし妖魔帝国の危機管理意識、情報収集能力の欠如は否めませんね……。では次に、稲荷町の方々は巻き込まれた形になると思いますが、妖魔帝国側に責任はあるとお考えですか」



「えっ!? えっと、いや……あの、うちも被害者な訳だし……も、もちろん申し訳ないなとは思ってます……です」


 変な汗が止まらない妖魔大王。

 クラマの横にいるカスミもドン引きしている。


「では責任の所在はどこにあるとお考えですか?」


 しかしクラマの追求はまだまだ終わらない。


(おいおいおい! お前そんなキャラだったのか!? 完全に見た目に騙されてたよ! お前は「ふわっふわのパンケーキが食べたいです~」とか言っときゃ良いんだよっ!)


「せ、責任といいますか……誰が悪いかと言えば……えっと、魔法少女だと思いますけど……」


「ほう……、魔法少女は人間ですよ。しかしまだ少女ですので責任能力は無いと思われます。つまり魔法少女の親に監督責任、ひいては人間側に責任があると?」


(やめろーっ! 誰かそいつをつまみ出せ!)


 あまりの事態に失神しそうになる妖魔大王。


「今後の方針及び対策については如何ですか?」


「元の世界へ戻る方法については?」


「そもそも魔法少女と対立する事になった原因は?」


「退位すべきでは!?」


 矢継ぎ早にクラマから質問が飛んでくる。


「あばばばばばばばば」


 壇上で白目をむいて失神しそうになる妖魔大王。


「そーだそーだ」

「責任を取れー」

「ぞいぞいぞいっ」

「何か喋れー」

「いいぞー、やれやれーッス」


 妖魔も人間も一緒になって野次を飛ばしてくる。

 

 ちくしょー!

 さっきまでみんなあんなに拍手をしてただろっ!

 

 あ……。


 こ、こんなはずでは……。


 薄れゆく意識の中、妖魔大王は後ろにひっくり返りそうなところを、ダンッと力強く前に一歩踏み出した。

 失神する一歩手前、ギリギリの所で踏みとどまる。


「ほう」


 ニィ、と狐御前が嬉しそうに目を細める。


「どうか!!」


 妖魔大王は踏み出した勢いそのままに、前かがみになりながらマイクを両手で掴み、心から言葉を絞り出す。


「どうか、この妖魔大王を信じて頂けないかっ!! 決して悪いようにはしないつもりだっっ!!!」


 一瞬の沈黙が場を支配する。


 しかし……


 一度興奮した者達の熱は、簡単に冷める事は無く妖魔大王の言葉に耳を貸そうとしない。


「信じられるかっ」

「質問に答えろー!」

「ぞいぞいぞいっ」

「引っ込め―」

「いいぞー、やれやれーッス」


 終わった……。

 もう駄目かも知れない……。

 妖魔大王の意識が真っ白に燃え尽きかける。

 


 その時、全ての野次を掻き消す様に、大声量で一人の男性が怒鳴り声をあげた。



「うるせぇぇぇぇっ!! いらっしゃいっっ!!」



 その声の主は中華料理屋「味一」の店主、山田味一(68)であった。


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