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第14話 部屋とルンバと私

 げぷっ。

 腹がぱんぱんだ…………。


 あの後、様々なハーブティーを飲まされた妖魔大王。

 おそらく二十杯以上は飲んだだろう。


「ではそろそろ本題に入るとするかの」


「げぷっ。そうだな……。えーと、まずはこれからお互いどうするかだな」


 妖魔大王の口の中からは数十種類の様々なハーブの匂いがする。

 何となくだが健康になった気がする妖魔大王。

 妖魔大王の緊張もいつの間にか取れていた。


「うむ。お主の話が本当だとしたら我々は巻き込まれたことになる。大半の町の者は納得できぬであろうよ」


「それについては、ちゃんと説明をするよ。ただ……まずは安全の確保が最優先だな。さっき少し外をうろついただけで魔物や盗賊に遭遇したよ」


「そうじゃな。ひとまずは、この稲荷町は妾の結界にて守られておる。妾が許可した者しか入る事は出来んし、逆に出る事も出来ん」


「おー。高難度結界だな! さすがだな」


 結界を張るのがあまり得意ではない妖魔大王は素直に感心する。

 許可制の結界をこの広範囲で張れる者は妖魔帝国でも少ないのだ。

 

「あとお前達が町に入った後じゃが、気休めに町自体に不可視の術を掛けておいた。まあ近距離だと効果もないし、既に何人かには見られたかも知れぬがのぅ」


「早いな。とりあえず打てる手は打ってる訳か」


「暫定策じゃがな」


 狐御前がハーブティーに口をつける。


「町の人達はまだ異変には気づいてないのか?」


「ああ。カスミ以外は妾の術で全員眠らせておる」


 来る途中で何人か見かけた、道に倒れていた人はやはり狐御前の仕業だったらしい。


「そうか。じゃ、今のうちに妖魔帝国にみんな引っ越すってのはどうだ? 地下だから見つかりにくくて安全だし、結構快適だぞ」


「この町に住む者は、古くから住んでいる者が多い。家を捨てる事には抵抗があろうよ」


「そこはスパッと断捨離で……。イテッ!」


 床を忙しそうに動くルンバが、ソファに座る妖魔大王の小指にぶつかってきた。

 ぶつかっては一旦引いて、妖魔大王の小指に執拗にアタックを繰り返している。


「イテテテッ。なんだこれ、壊れてるのか?」


「其奴にはつくも神が憑いておるからのう。捨てる事には反対じゃと。無闇な事は言わぬ方が良いぞ」


「そっかそっか。ごめんよー」


 ルンバをさする妖魔大王。

 機嫌が直ったのか、ルンバはすいーっとソファの下へと消えて行く。


「そうじゃ。頼みがあるのじゃが、町の周りに高い壁を作ってもらえぬか?」


「なんで?」


 妖魔大王が聞き返す。


「不可視の術では隠し通すのも限界がある。そうなったときは結界が頼みとなるのじゃが、無機物には効果が無いのじゃよ。もし弓矢や鉄砲でも持ってこられたらお手上げじゃ」


 確かに物理的な防御も備えた方が良いだろう。

 おそらくその方が稲荷町の住民も安心するに違いない。


「それに情けない話じゃが、今張っておる結界は腰に負担が大きくての。壁があれば、簡易的な結界を上空だけに張れば良いじゃろ」


 狐御前とはいえ、やはりこれだけ広範囲に高度な結界を張り続けるのは無理がある様だ。


「おーそう言うことね。OKだ。でも何かが攻めて来るとかそんな事態にならない様に祈りたいな」


「知恵持たぬ魔物も厄介じゃが、知恵持つ者達もまた厄介じゃからの」


 そういって狐御前はハーブティーを飲み干した。





「じゃ、町は隠さない方向でいくか。んで、一旦は結界と壁で様子を見ると。明日になったら付近の様子を探りに、うちから何人か出すよ」


「頼む。それは人間達では荷が重かろう」


 稲荷町の住民ではサードウルフ一匹退治するのも難しい。

 ましてや盗賊に襲われたらひとたまりも無いだろう。


「残るは説明会だなー。明日の正午に開きますか」


「明日? 準備は良いのか?」


 明日と聞いて心配そうな顔をする狐御前。


「ああ、特に準備するものも無いしな。早い方が良いだろ」


「すまんな、助かる。では町民館にて行おうぞ」


「うちの妖魔達も少しは連れていくからよろしく。まだ転移した事、うちの方も誰も知らないんだよ」


「そうじゃったのか」


 ふふふと狐御前が苦笑する。

 

 こやつらしいわ。

 昔から変わらぬな。

 狐御前は先代の大王から妖魔帝国とは付き合いがある。

 妖魔大王の事は幼少の頃から知っていた。

  

「では明日は妖魔と人間の合同説明会じゃな。恐らく人類史上初であろうよ。愉快愉快」


 狐御前は嬉しそうに一声「コーン」と鳴いた


「町の者達にはカスミに頼んで町内放送で集まる様に呼びかけるでな」


「頼んだぞ。じゃーそろそろ帰るわ」


 実はずっとおトイレを我慢していた妖魔大王。

 何となく気恥ずかしくて、トイレを借りる事が出来ないでいた。


「もう帰るのか? そうじゃバトルモンスターズやっていかんか?」


「なんだよそれ?」


 ソファから立ち上がり、いそいそと玄関へと向かう妖魔大王。

 バトルモンスターズとは知る人ぞ知る、セガサターンの名作格闘ゲームである。 


「なんじゃ? ストロベリー・ジャムを知らんのか」


「スイーツか? 夜遅くに食べたら怒られるぞー。じゃあな」


 そしてばたんと扉を閉め、妖魔大王は帰っていった。

 ちなみにストロベリー・ジャムとはキャラクターの名前である。


 静かになる空間。

 今まで人がいた部屋は一人になった瞬間、妙に寂しく感じるものである。



「……もうっ!」



 そうして一人頬を膨らませる狐御前であった。


 




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