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第13話 狐御前とハーブティー


 逃げ遅れた妖魔大王はボコボコにされ、境内にパンツ一丁で正座をさせられていた。


「いや、ほんとすみませんでした」



「え? いやおばさんなんて思っていませんよ。それは暗黒騎士が勝手に……」



「ああ。はい。上司である私の責任ですね。本当すみません」



 もう小一時間は説教をされている。


(とほほ。なんでこんな目に。魔法少女との戦いの傷も癒えてないのに……)


 そう考えてはっと気づく。


「そうだ! 元はと言えばあいつらが、魔法少女が悪いんですよ」


「なんじゃ? 魔法少女とは」


 狐御前が怪訝な表情を浮かべる。


(よっしゃー食い付いた!! )


 心の中でガッツポーズを取る妖魔大王。

 そして妖魔帝国と稲荷町が転移に至るまでの経緯を、詳しく説明するのであった。





「栗ようかんがどこ行っても無いと思ってたら、あんた達のせいだったのね!!」


 カスミが目をつりあげて大変な剣幕で怒っている。


(すげー怒ってる。だるま男爵が栗ようかん作戦をプレゼンした時は、皆で小馬鹿にしたのだが……。ごめん。効果ものすげぇ。)


「しかし……にわかには信じられぬな。たった三人の少女が妖魔帝国を一晩で壊滅させ、あまつさえ異世界に転移させるとは」


 うーんと唸りながら悩む狐御前。

 しばらく右へ左へうろうろと歩いていたが、ピタと止まり妖魔大王の方を真っ直ぐに見据える。


「わかった。お主のいう事を信じようぞ」


「こいつのいう事を信じるんですか!?」


 驚くカスミ。

 カスミにとって妖魔とはあくまで討伐の対象であって、信頼できる相手ではない。

 今までカスミが戦ってきた奴らは、残忍で人間に悪意を持つ者ばかりだった。 


 しかしカスミは同一視をしているが、カスミが今まで戦ってきたのは妖魔では無く悪霊である。 


「そうじゃな。信じようぞ。こやつは妖魔ではあるが、嘘はつかぬ」


「しかし……では私がここで消滅させてもよろしいですか」


 ピッと悪霊退散の札を構えるカスミ。


「ひいいぃっ。お、お助けをっ!」


 札を手にじりじりと迫るカスミを前に、情けない声をあげる妖魔大王。


 「やめい、お前では勝てぬ。札の無駄じゃ。たとえ千枚、札を貼ろうともそやつには効かぬ」


(ええー。挑発するのやめてくれない? それビリッとするから嫌なんだよ)


「そうですか? めっちゃビビってますけど」


 憐れむような目付きで、妖魔大王を見るカスミ。


「じゃあ、試しに千枚貼っていいですか? コピーしてきます」


(おいおい、その札ってコピーだったの!? 知りたくなかったわー)


 妖魔大王は心の中でちょっぴりがっかりする。

 御札という物は一枚一枚に一生懸命に念を込めて作っていると思っていたからだ。


「……今は停電じゃ。コピー機は使えぬ。じっとしとれ」


「はーい」


 しぶしぶ札を制服のポケットにしまい込むカスミ。


「ほれ着るがよい」


 狐御前がジーンズとTシャツと靴下を返す。


「おお。助かります」


 いそいそと服を着る妖魔大王。


「ではここからは真面目に今後の事を話し合おうぞ。カスミはもう休んでおれ。夜更けまで済まぬな」


「俺は最初から真面目に話に来たんだけど……」


「ふふ。まあ立ち話もなんじゃ。ついて参れ」


 そういうと狐御前は境内の奥へと歩き出した。





 妖魔大王と狐御前は稲荷神社の奥にある社の中へと移動していた。

 社は狐御前が普段生活をしている場所である。

 

 一部屋六畳ほどの広さしかないが、ベッドを始めテレビや冷蔵庫にエアコンと、およそ生活に必要な物が所狭しと置かれている。ルンバやセガ・サターンまである。

 色はピンクを基調として統一されている。

 狐御前も女子なのである。


「まぁ。くつろいでくれ」


 そういうと狐御前はベッドを折り曲げソファの様な形にする。

 そして自身は小さいテーブルを挟み、向かい合う様にハート型のクッションに座った。


 少しドキドキしながらソファに座る妖魔大王。

 女性の部屋にあがる事なんて滅多にないのだ。


「なんじゃ。暑いのか? エアコンでもつけるか」


 額に汗を浮かべる妖魔大王に目をやる狐御前。


「い、いや大丈夫です」


「そうか? おお、そうじゃ。冷たいハーブティーがあるぞ。手作りなのじゃ、ちょっと待っておれ」


 そう言うとクッションから立ち上がり、冷蔵庫へと向かう狐御前。

 ふわっと良い匂いが辺りを包む。


 いかんいかん!

 がんばれわし!

 意識するな!


「口に合うと良いのじゃが」


 テーブルに置かれたカップにハーブティーが注がれる。

 冷蔵庫は妖魔大王の横にある為、妖魔大王の後ろから注ぐ形となり、狐御前のたわわな胸が顔の横に迫る。


 意識するな!


 ぐびぐびっ。


 注がれたハーブティーを一気に飲み干す妖魔大王。


「ああ美味いっ!」


 本当は緊張しすぎて、味も匂いも何も感じる事が出来なかった。


「おお、そうか。まだたくさんあるから好きなだけ飲むと良いのじゃ」


 そう言うと嬉しそうに目を細め、妖魔大王のカップへとハーブティーを注ぐ。


 最近ハーブティー作りに興味を持った狐御前。

 しかし普段、社から出ない狐御前は誰にも自作のハーブティーを飲んでもらう機会がなかったのだ。


 カスミは日本茶しか飲まない為、妖魔大王が初めての相手となる。


 意識するな!

  

 ぐびぐびっ。


「これも飲んでみるかの」


 意識するな!


 ぐびぐびっ。


「これは試作なのじゃが」


 意識するな!


 ぐびぐびっ。げふっ。


 わんこそばの様に次々と注がれるハーブティー。

 それを一気に飲み干す妖魔大王。


 そうして夜は次第に更けていった。




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