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第12話 境内へと


「しかしここは一段と暗いっすね」


 境内へと続く石段を上る二人。

 暗黒騎士の言うとおり、確かにこの辺りは闇が一段と濃い印象を受ける。


「光球あっても、尚真っ暗ッスねー。俺暗いの苦手なんスよ」


「お前、確か暗黒騎士じゃなかったっけ」


 妖魔大王が不思議そうに暗黒騎士を見つめる。


「えへへ。改名してもいいッスかね」


「どんな風に?」


「純白騎士とかッスかね。俺は明るい方が好きなんスよ。寝る時も電気消さないし」


「いや純白は駄目だろー。名前詐欺じゃん。お前自己紹介の度にみんな、えっ? ってなるぞ」


「俺の名前は人間が勝手に付けたんッスよ」


 暗黒騎士には名前が無いのだ。

 いや、正確にはかつて人間だった時にはあったはずなのだが、あまりにも昔過ぎて自分でも思い出せないでいた。

 

「白がいいなら、マシュマロナイトとかどうだ?」


「大王様メルヘンッスねー。嫌いじゃないッスけど、それだと一晩中マシュマロ食ってる奴みたいじゃないッスか?」


「お前は文句が多いな。それよか足元、気を付けろよ」


「え? おわーっ!」


 大王が注意するや否や、足元の段差につまずいて顔から石段にダイブする暗黒騎士。


「ほらー、ポケットにー、手を入れながら歩くからー、ダメなんですー」


 妖魔大王が口をとがらせて、棒読み気味に注意する。


「いてて。気を付けるッス」


 神社へと続く階段を一段一段上っていく。

 この神社は地元の人にはパワースポットとして密かな人気がある。


「うーん。気持ちがいいな。心が洗われる様だ」


「それ妖魔大王の言っていいセリフじゃないッス」


 階段を上り終えると、そこには巫女装束の女性と、制服を着た女子高生が立っていた。


 と、境内にいくつかある石燈籠にボッと一斉に灯がともる。

 石燈籠の淡い優しい光に照らされる境内。


「やはりお主らの仕業じゃったか」


 口を開いたのは巫女装束の女性である。

 その胸元は大きく膨らんでおり、服の隙間から見事な谷間がのぞく。


 髪の毛は金色に近い茶色。

 肩の辺りでバッサリと切り揃えられている。

 髪の毛からはピョコンと狐の耳が見える。


 お尻からも、ふっさふさの狐の尻尾が生えている。


 コスプレの様でもあるが、これは全て自前である。

 容姿も美しく、コミケに行けば誰もが写真をお願いするであろう。


 彼女は、この稲荷神社に祭られている狐の神様である。

 名を「狐御前」と言う。


 元々は凄まじい力を持った妖魔であり、日本や中国で好き勝手に暴れまわっていた。

 が、見かねた先代の妖魔大王に打ち倒され、その後、改心を成した。

 今ではここ稲荷町三丁目で土地神として地域の平和を見守っている。


「貴様。大恩ある先代妖魔大王様への忠義あればこそ、今まで多少の悪さには眼をつぶってきたが今回は容赦ならん!! 叩っ斬ってくれるっ!!」


 すらりと薙刀を構える狐御前。


「まあまあ、落ち着けよ。刃物をしまいなさいよ」


「ふんっ! 聞く耳持たん。さっさと妾達を元の世界に戻すのじゃ!」


「あ~あ。神様のくせに真実も見抜けないッスか」


 その瞬間、狐御前のそばに控えていた女子高生がササッと飛び出した。


「悪霊退散!」


 そういうと暗黒騎士のおでこに札を貼る。


「ぎょえっ!」


「狐御前様に無礼であるぞ」


 この神社の巫女であり、宮司でもある「御稲荷 カスミ」だ。


 隣町にある「聖アルテミス学園」に通う高校三年生である。

 剣道部に所属し、生徒会長を務めるテンプレ女子だ。


 幼い頃より類い稀な霊能力を身に秘めていた彼女は、狐御前に素質を見いだされ、その狐御前の元、厳しい修行を積んできた。

 元気もりもり設定もりもりの彼女は、生身で妖魔と闘う事の出来る数少ない人間の一人である。


 狐御前が暗黒騎士を睨む。


「おい黒いの。貴様さっきクソババァと言っておったな。なんぞ遺言はあるか?」


「いや……実は俺クソが大好きなんッスよ! だからクソみたいに素敵な女性という意味ッス」


「ほう。ではババァは?」


「いや……実は俺ババァが大好きなんッスよ!! だからババァみたいに素敵な女性という意味ッス」


「お前! そんな趣味が!?」


 妖魔大王が恐れおののいている。

 部下の趣味をとやかく言うつもりは無いがどうしたものか……。


「カスミ」


「はいっ! 悪霊退散!!」


 そういうと暗黒騎士のおでこに札を三枚重ねて貼る。


「ぎょえーっ!」


 悶絶する暗黒騎士。


「まぁ良いわ。後で妖魔帝国の皆には、お前の高尚な趣味を伝えてやる。それで良しとしよう」


 狐御前が鼻で笑う。


「あぁ……終わったッス……」


 がっくりとうなだれる暗黒騎士。

 そんな暗黒騎士の様子を狐御前は満足げに一瞥すると、妖魔大王の方を向いた。

 

「それはそうと妖魔大王よ、さっさと元の世界に戻すのじゃ」


「いやーそれがさ。俺達も知らないんだよね。帰る方法」


「なっ! 何と無責任なっ!!」


 狐御前に額に血管が浮かぶ。


「やはり妖魔じゃな。如何に強大な力を持っていようとも無駄な様じゃな」


「いや、お前も元は妖魔じゃん」

 

 狐御前の額に更に浮かぶ血管。


「おばさんに言われる筋合いはねーッス」


 狐御前の髪の毛がブワっと逆立つ。


「ねー」


 そして二人顔を見合わせる妖魔大王と暗黒騎士。

 息がピッタリである。


 その瞬間、狐御前がブチ切れた。


 ボンッと太くて長い尻尾が身体から次々と飛び出す。

 その数、実に十二本。

 その昔、九尾の狐と呼ばれ恐れられた妖魔は、改心し得を積み神格化する事でかつてない強大な力を手に入れていた。


「この……」


 静御前の迫力に言葉を無くし立ちすくむ妖魔大王。


「こぉぉのぉぉぉっ!! くそがきがぁぁぁ!!!!」」


 狐御前が薙刀を振りかざした。


「ぎゃー! 化物!! 逃げるぞっ!!」


 

 と横を見ると、既に暗黒騎士の姿は無い。



「あいつ、大王を置いて逃げやがった!」


 後ろからは凄まじい妖気が、もうそこまで迫ってきているのを感じる。

 妖魔大王は恐る恐る後ろを振り返る。


「成敗っっ!」


 そこには薙刀を振りかぶる狐御前の姿があった。

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