第八話『№9ジグール・ノイン』
ドクンッドクンッ
心臓の動きが早くなっている。
血が持っていかれるのは辛い、何もやる気にならなくなるな。
だが、此処で倒れて俯せになり、自分の血生臭に包まれるのを最後に死ぬのは、正直納得がいかない。
寂れた工場に、目の前の狂った男の前で死ぬのも、嫌だ。
何より俺は、ミナンを救わなければいけない。そのために、血をブラッディベイオネットに与えてる。
与えただけで、死ぬなんて格好悪すぎる。
……さて、もう考えるのはやめにしよう。
血を遠慮なく持っていくブラッディベイオネット。
体に吸いつく管を全部引き剥がす。するとブラッディベイオネットは、形を変え分厚くなり剣先に銃口が装着された。
赤い風が纏い、周りの毒ガスを吹き飛ばす。
異変を感じ、ノインは焦った口調で落ち着きなく、
「なんなんですか、その赤い風は!」
その声を聞き、周りを見て初めて気づく。
「……本当だ、これが防いでくれてんのか」
「じ、自分でも気づいていなかったとは、飛んだ間抜けな方ですね」
「じゃ、今のうちだな。標準を合わせてっと……」
「私の言っていることを無視しないでください!」
銃口をノインの頭に合わせ、引き金を引く。
銃から銃弾が赤いオーラに包まれ発射される。
威力は絶大で、脳天を貫き寂れた工場の天井まで破壊してしまう。
煙が引いていくと、ノインがいた場所に残されたのは名前の書かれたアクセサリーと、少量の血だった。
千鳥足になりながら、工場を出ていく。自分から出た血の量が、限界を超えていたため目にも生気があまりなくなっている。
だが休んでいる暇はない、ミナンを助ける為に足を動かさなければいけない。気力だけを頼りに、可笑しな歩き方で二人の場所に向かう。
銃弾の衝撃は街の中心まで届いていたようで、騒ぎになっていた。
工場のほうから離れるように、おどおどして逃げ惑う人々。
人を掻き分けて、二人が隠れている人気のない場所まで行く。
どうにか着き、二人を見ると、
「レイさん……ミナンが!」
ミナンは意識が朦朧として、死の淵を彷徨っている状態だった。
口元に薬の入った瓶をあてて、流し入れていく。噎せ返る動作を取るが、躊躇をせず流しいれると、顔色が良くなっていくのが分かった。
回復をしていく様子に、アルノラは嬉し涙を流す。泣くアルノラの頭に手を乗せて、頭を雑に撫でる。
「レイさん、ありがとう……」
「俺はお礼を言われることはしてないよ、アルノ」
複雑な表情でアルノラの顔を見ながら、頭から手を退けて立ち上がる。
アルノラは、ミナンを抱きかかえながら俺を見上げて、
「これからどうするんですか?」
「ミナンを担いで、宿舎に戻れるか?」
「戻れますけど、またどこかに……」
「あぁ行ってくる。これ以上おまえらに迷惑はかけられない。しばら宿舎を頼んだぞ」
二人を置いて歩くと、アルノラは普段は出さない大声を上げる。
「いつも、いつもレイさんは何処かへ一人で行くんですね……僕達だって、何か出来るかもしれないのに」
顔を顰めて言うと。
俺は困った顔をして、誤魔化した笑顔で、
「悪いな……」
それだけを言い残し、去っていく。
去って行った跡を見て、アルノらは愕然する。
歩いた場所に尋常なほどの血を垂らしているからだ。
「そんなに、自分を痛めつけて……あなたは何故そこまでできるんですか」
遠く離れた俺の耳には、アルノラの思いが届くことはなかった。
歩いてドゥイ区から出ようとして、出口まで行くと、誰かが腰を掛けてこちらに視線を向けている。
誰もいない中、男は黙ってこちらを見続ける。
近くで見てやっと、その男の正体に気づく。
「サスなのか……?」
白いフードをめくり、口元はいつも通り隠れている。
サスは、呆れた顔になり、
「やっと気づいたか、遅いんじゃないか気付くのが」
「悪かったな、それでなぜお前がここにいる?」
「まあそう警戒するな、俺はただお前がどのくらいシュヴァルツ・エルフ二ついて進んでいるか、確認しに来ただけだ。凄いじゃないか、また新しい力を得たんだな」
「見ていたのか、それなら手伝ってくれればよかっただろ」
文句を言うとい、馬鹿にしたように笑いだす。
口元が隠れていてもわかるくらいの笑い方に、腹が立ち話の途中で歩こうとする。
「済まないな、少し待つんだ」
「なんだよ!馬鹿にしに来ただけなら、もう行くぞ」
「まあ待て。おまえにはもう一つ用があるんだ」
「何だよ用って……ぐっ」
用を聞くために振り返ると、そのままお腹を抉る様に殴られた。
サスは意識を失った俺を担いで、歩く。
「手荒な真似は避けたかったが、少々イライラしてるみたいだったからな。少しの間眠ってもらうぞ」
俺が持っている、変化したブラッディベイオネットを見ながらサスは、ニヤッとして言った。




