第六話『№10スエレ・ツェーン』
夜、俺はライナと話した後、今日はここに泊まれと言われたので、泊まっている。
部屋を借りたが、一人にしては広すぎるので落ち着かない。
気晴らしに外に出ようと思い、扉をあけて出る。
城の中は迷路のようになっていて、何処に自分がいるかもわからない。
すると、後ろから人の気配がした。一応盗まれないために、ブラッディベイオネットなどの大切な物は持っている。だから、戦闘になるようなことがあっても大丈夫だろう。
後ろの気配に、気を付けながら歩いていると。
近づいてくる音が早くなり、突然斬りかかってきた。どうにか避けて躱す、顔は暗くてよく見えないが、雲で隠れていた月が、襲ってきたやつの顔を照らし見えるようになる。
「お前は……」
「レイ、君の明日からの護衛なんてものはないよ」
月明りで見えたその顔は、俺がトゥリン区に来た理由、スエレ・ツェーンだった。
分かってはいたが、思ったよりも早い襲撃に驚く。
「君の強さだったら、私には勝てないだろうね」
「確かにそうかもな、だけど俺にはこれがある」
ブラッディベイオネットを出す。
月で照らされた赤い剣は、血を欲しそうに疼いている。
「俺の血を持っていけ、ブラッディベイオネット!」
「血を吸う剣だと!?」
血を吸うと、今までとは違った雰囲気になりツェーンは困惑する。
だが、ツェーンは何やら秘策があるようで、
「そうかそうか、ブラッディベイオネットね。それにサーシャは殺られたのか」
そうとわかった瞬間に、さっきまで持っていた剣を投げ捨て、ツェーンは腰から剣を出す。
剣を鞭のように使う。撓るその剣は、動きが読めない。
「ふはは、私の剣には勝てないだろうな」
「先が読めない、くそっ」
すると、後ろから声が聞こえる。
「レイ、その剣には毒が塗られている気を付けろ」
その声はライナだった。
ライナが、味方していることにツェーンは驚き、
「何でそっち側にいるんですか、ライナ様」
「そんなの決まってる、貴方がシュヴァルツ・エルフの一人だからよ」
「そっか気付かれてたんだ、ちぇっもういいや」
何もかもを失った顔をしたツェーンは、瓶を取り出す。
その瓶には液体が入っていて、口元に近づけ一気に飲み干す。
「うぐっ……うぐっ……はぁ全部飲みきれたか」
奇妙な液体を飲んだ、ツェーンの体は段々と紫色になる。血管が浮き出て、今にもはち切れそうになっている様子を見ると、あの液体は自分を痛めながらも強化するものなのか。
と自分の中で、飲んだ液体が何か考えていると、
「なに突っ立ってるんだよぉぉおレイ!」
「速いっ……」
身体ごと突っ込んでくるツェーン、どうにか剣で受け止める。
「何故サーシャを殺した!あいつは変わってはいるが、俺の大切な仲間なんだぞ」
剣を持つ力が強くなる。
「くっそうなのか……それなら俺だって」
突きつけた剣を、ブラッディベイオネットで押し返し、
「あの女に、家族を全員殺された……」
ツェーンはその言葉を聞いて、衝撃を受ける。
力のない声になりツェーンは、
「そっか……悪かった」
「謝ったって帰ってくることはないさ……それに帰ってくることはないから、今戦ってるんだろ」
「そう……だったな」
ライナが何かを察して、後ろから言う。
「レイ、本気で戦おうというなら、お前一人ではその男には勝てないぞ」
「そんなの、最後までやってみないと分かりませんよ」
そう言ってブラッディベイオネットに力を入れる。
ツェーンもそれに合わせるように力を入れた。
お互いの剣が、ぶつかり合う。交わる剣は、お互いの思いがこもったものだった。
液体の薬を飲んだ影響で、ツェーンは血を吐く。
だが、戦う眼差しはまだ消えていない。どんなに身体が傷ついても、剣を持ち立ち向かう。
剣と剣がぶつかり合う度に、火花が散り、衝撃が周りに広がる。お互いに一度離れ、ツェーンが口を開く、
「この薬を使ったら、そこまで体は持たない。早めに決着をつけないかレイ?」
「俺もこの剣に血を吸わせすぎたら、そこまで持たないからな。短期決戦の方が助かる」
静かになり、力を込める。
次の一撃に、全てを込める。俺はブラッディベイオネットに、血を吸わせる量を多くして、全身全霊で倒す。
お互いの気迫を感じ取り、同時に一歩踏み出す。
「いくぞレイ」
「あぁ!」
徐々に近づき、赤いオーラを纏ったブラッディベイオネットと紫のオーラを纏ったツェーンの剣の斬撃音が広がる。
「これで終わりだツェーン!」
「それはこっちのセリフだ、レイ!」
若干の差で、ツェーンを押し切る。
最後まで諦めずに、力を緩めないツェーン。
だが赤いオーラの方が、大きくなり包まれていく。
「くそっ負けんのかよっ」
ツェーンが、悔しそうに言うと後ろから光に包まれ、両手を広げるサーシャがいた。
サーシャは、ツェーンに対して、
「こんな私のために、ありがとう」
と言った。
その言葉を聞いた、ツェーンは、
「『こんな私』、なんて言うなよ」
幸せそうな笑顔で言ったツェーンは、そのまま光に消えていく。
戦いに果てに残ったのは、倒れるツェーンと立つ自分自身だった。
「これで二人目だ」
と言っている間に、ブラッディベイオネットが血を求めツェーンの体から血を吸う。
止めようとしたが、制御できずに皮になるまで吸ってしまった。
二人の戦いが終わったのを見て、ライナが、
「見事であったな、レイ」
「少し心苦しかったですが、何とか勝てました」
「そう……だな」
するとライナは心配そうな顔になり、
「レイ、此処に残らないか?」
「えっ……?」
「ここに残れば、お前が果たすべきことのサポートができる」
下を見ながら、俺は笑った。
不思議そうな顔で、ライナはその表所をのぞき込み、
「何がおかしい、いいではないか。私がせっかく言っているのだから」
「はい、その提案はとても嬉しいです。ですが、自分の戦いに人を巻き込みたくないので……それではありがとうございました」
納得のいかない顔をするライナ。
そのまま俺は、自分が宿泊していた宿舎に戻ることに決めた。
「全く、変わった男だな。レイ、その名前覚えておこう」
◆◇◆◇
次の日になり、俺は予定の二週間よりも大分早く、宿舎に別れを告げることになった。
外に出ていくとき、エナと姉妹のネリネ、トレニアが見送ってくれた。
「また来てねー」
二人はそろって同じことを言う。
「あぁまた来るよ、エナさんもありがとうございました」
「いえいえ。できればまた来てくれると嬉しいです」
「はいまた来ますね。それでは」
その場を後にして、歩き出す。
トゥリン区を出てシュタル区に行くところで、後ろから誰かが来た。
何人かの護衛を連れて歩いてきたのは、ライナだった。
「昨日の話本当に、断っていいのだな?」
「あぁいいよ。ライナ様ありがとうございました、眼のことについて今度聞きに来ますね」
「いつでも来るがよい。困ったことがあれば。いつで言うのだ」
「はい、ところでライナ様は、何故そこまで俺に尽くそうとしてくれるんですか?」
その問いにライナは顔を赤くする。
顔を隠しながらライナは、
「少し……似ていてな」
「えっ何と似てるんですか?」
「もういいではないか、早く自分のところへ戻れ」
「は、はいわかりましたよ」
怒った口調でライナは言った。
その言葉に応える様に、俺は自分の生まれ育ったシュタル区に帰ろうと後ろを向く、するとライナが忘れていたかのように、
「そうだ、お前に渡さないといけないものがある」
ライナはそういって、アクセサリーを投げた。
「それは、お前が持っていたほうがいいだろう」
「確かにな」
そのアクセサリーは、鉄でできていてプレート部分に名前が書かれている。№10スエレ・ツェーンと、彫られていた。
アクセサリーを握りしめ、俺は帰っていく。
色々あったが、トゥリン区は良い場所だった。また来る価値はありそうだな。
「あの二人も今度つれてくるか」
ミナンとアルノラのことを考えながら帰る。
すぐに宿舎に着き、久しぶりに扉を開く、
「ただいま、ミナン、アルノラ!」
声をかけるが、真っ暗な宿舎の中には誰の気配もしない。
何処かに行ってるのか。
電気をつけて、宿舎の中を見る。
「ん?なんだこれ」
紙切れが一枚、テーブルの上に置いてある。
その紙には、
――ブラッディベイオネットを持つ者よ、二人の兄弟は預かったぞ
「なんだよこれ、くそっシュヴァルツ・エルフ関連の奴か?」
紙に書かれた言葉を見た瞬間に、帰ったばかりの宿舎から出て、ミナンとアルノラを探しに行くのであった。