表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/18

第六話『№10スエレ・ツェーン』

 夜、俺はライナと話した後、今日はここに泊まれと言われたので、泊まっている。

 部屋を借りたが、一人にしては広すぎるので落ち着かない。

 気晴らしに外に出ようと思い、扉をあけて出る。

 城の中は迷路のようになっていて、何処に自分がいるかもわからない。

 すると、後ろから人の気配がした。一応盗まれないために、ブラッディベイオネットなどの大切な物は持っている。だから、戦闘になるようなことがあっても大丈夫だろう。

 後ろの気配に、気を付けながら歩いていると。

 近づいてくる音が早くなり、突然斬りかかってきた。どうにか避けて躱す、顔は暗くてよく見えないが、雲で隠れていた月が、襲ってきたやつの顔を照らし見えるようになる。


 「お前は……」

 「レイ、君の明日からの護衛なんてものはないよ」


 月明りで見えたその顔は、俺がトゥリン区に来た理由、スエレ・ツェーンだった。

 分かってはいたが、思ったよりも早い襲撃に驚く。


 「君の強さだったら、私には勝てないだろうね」

 「確かにそうかもな、だけど俺にはこれがある」


 ブラッディベイオネットを出す。

 月で照らされた赤い剣は、血を欲しそうに疼いている。


 「俺の血を持っていけ、ブラッディベイオネット!」

 「血を吸う剣だと!?」


 血を吸うと、今までとは違った雰囲気になりツェーンは困惑する。

 だが、ツェーンは何やら秘策があるようで、


 「そうかそうか、ブラッディベイオネットね。それにサーシャは殺られたのか」


 そうとわかった瞬間に、さっきまで持っていた剣を投げ捨て、ツェーンは腰から剣を出す。

 剣を鞭のように使う。しなるその剣は、動きが読めない。


 「ふはは、私の剣には勝てないだろうな」

 「先が読めない、くそっ」


 すると、後ろから声が聞こえる。

 

 「レイ、その剣には毒が塗られている気を付けろ」

 

 その声はライナだった。

 ライナが、味方していることにツェーンは驚き、


 「何でそっち側にいるんですか、ライナ様」

 「そんなの決まってる、貴方がシュヴァルツ・エルフの一人だからよ」

 「そっか気付かれてたんだ、ちぇっもういいや」


 何もかもを失った顔をしたツェーンは、瓶を取り出す。

 その瓶には液体が入っていて、口元に近づけ一気に飲み干す。


 「うぐっ……うぐっ……はぁ全部飲みきれたか」


 奇妙な液体を飲んだ、ツェーンの体は段々と紫色になる。血管が浮き出て、今にもはち切れそうになっている様子を見ると、あの液体は自分を痛めながらも強化するものなのか。

 と自分の中で、飲んだ液体が何か考えていると、


 「なに突っ立ってるんだよぉぉおレイ!」

 「速いっ……」


 身体ごと突っ込んでくるツェーン、どうにか剣で受け止める。

 

 「何故サーシャを殺した!あいつは変わってはいるが、俺の大切な仲間なんだぞ」


 剣を持つ力が強くなる。

 

 「くっそうなのか……それなら俺だって」


 突きつけた剣を、ブラッディベイオネットで押し返し、


 「あの女に、家族を全員殺された……」


 ツェーンはその言葉を聞いて、衝撃を受ける。

 力のない声になりツェーンは、


 「そっか……悪かった」

 「謝ったって帰ってくることはないさ……それに帰ってくることはないから、今戦ってるんだろ」

 「そう……だったな」


 ライナが何かを察して、後ろから言う。


 「レイ、本気で戦おうというなら、お前一人ではその男には勝てないぞ」

 「そんなの、最後までやってみないと分かりませんよ」


 そう言ってブラッディベイオネットに力を入れる。

 ツェーンもそれに合わせるように力を入れた。

 お互いの剣が、ぶつかり合う。交わる剣は、お互いの思いがこもったものだった。

 液体の薬を飲んだ影響で、ツェーンは血を吐く。

 だが、戦う眼差しはまだ消えていない。どんなに身体が傷ついても、剣を持ち立ち向かう。

 剣と剣がぶつかり合う度に、火花が散り、衝撃が周りに広がる。お互いに一度離れ、ツェーンが口を開く、

 

 「この薬を使ったら、そこまで体は持たない。早めに決着をつけないかレイ?」

 「俺もこの剣に血を吸わせすぎたら、そこまで持たないからな。短期決戦の方が助かる」


 静かになり、力を込める。

 次の一撃に、全てを込める。俺はブラッディベイオネットに、血を吸わせる量を多くして、全身全霊で倒す。

 お互いの気迫を感じ取り、同時に一歩踏み出す。


 「いくぞレイ」

 「あぁ!」


 徐々に近づき、赤いオーラを纏ったブラッディベイオネットと紫のオーラを纏ったツェーンの剣の斬撃音が広がる。

  

 「これで終わりだツェーン!」

 「それはこっちのセリフだ、レイ!」


 若干の差で、ツェーンを押し切る。

 最後まで諦めずに、力を緩めないツェーン。

 だが赤いオーラの方が、大きくなり包まれていく。


 「くそっ負けんのかよっ」


 ツェーンが、悔しそうに言うと後ろから光に包まれ、両手を広げるサーシャがいた。

 サーシャは、ツェーンに対して、


 「こんな私のために、ありがとう」


 と言った。

 その言葉を聞いた、ツェーンは、


 「『こんな私』、なんて言うなよ」


 幸せそうな笑顔で言ったツェーンは、そのまま光に消えていく。

 戦いに果てに残ったのは、倒れるツェーンと立つ自分自身だった。


 「これで二人目だ」


 と言っている間に、ブラッディベイオネットが血を求めツェーンの体から血を吸う。

 止めようとしたが、制御できずに皮になるまで吸ってしまった。

 二人の戦いが終わったのを見て、ライナが、


 「見事であったな、レイ」

 「少し心苦しかったですが、何とか勝てました」

 「そう……だな」


 するとライナは心配そうな顔になり、


 「レイ、此処に残らないか?」

 「えっ……?」

 「ここに残れば、お前が果たすべきことのサポートができる」

 

 下を見ながら、俺は笑った。

 不思議そうな顔で、ライナはその表所をのぞき込み、


 「何がおかしい、いいではないか。私がせっかく言っているのだから」

 「はい、その提案はとても嬉しいです。ですが、自分の戦いに人を巻き込みたくないので……それではありがとうございました」


 納得のいかない顔をするライナ。

 そのまま俺は、自分が宿泊していた宿舎に戻ることに決めた。


 「全く、変わった男だな。レイ、その名前覚えておこう」




◆◇◆◇




 次の日になり、俺は予定の二週間よりも大分早く、宿舎に別れを告げることになった。

 外に出ていくとき、エナと姉妹のネリネ、トレニアが見送ってくれた。


 「また来てねー」


 二人はそろって同じことを言う。

 

 「あぁまた来るよ、エナさんもありがとうございました」

 「いえいえ。できればまた来てくれると嬉しいです」

 「はいまた来ますね。それでは」


 その場を後にして、歩き出す。

 トゥリン区を出てシュタル区に行くところで、後ろから誰かが来た。

 何人かの護衛を連れて歩いてきたのは、ライナだった。


 「昨日の話本当に、断っていいのだな?」

 「あぁいいよ。ライナ様ありがとうございました、眼のことについて今度聞きに来ますね」

 「いつでも来るがよい。困ったことがあれば。いつで言うのだ」

 「はい、ところでライナ様は、何故そこまで俺に尽くそうとしてくれるんですか?」


 その問いにライナは顔を赤くする。

 顔を隠しながらライナは、


 「少し……似ていてな」

 「えっ何と似てるんですか?」

 「もういいではないか、早く自分のところへ戻れ」

 「は、はいわかりましたよ」


 怒った口調でライナは言った。

 その言葉に応える様に、俺は自分の生まれ育ったシュタル区に帰ろうと後ろを向く、するとライナが忘れていたかのように、


 「そうだ、お前に渡さないといけないものがある」


 ライナはそういって、アクセサリーを投げた。


 「それは、お前が持っていたほうがいいだろう」

 「確かにな」


 そのアクセサリーは、鉄でできていてプレート部分に名前が書かれている。№10スエレ・ツェーンと、彫られていた。

 アクセサリーを握りしめ、俺は帰っていく。

 色々あったが、トゥリン区は良い場所だった。また来る価値はありそうだな。


 「あの二人も今度つれてくるか」


 ミナンとアルノラのことを考えながら帰る。

 すぐに宿舎に着き、久しぶりに扉を開く、


 「ただいま、ミナン、アルノラ!」


 声をかけるが、真っ暗な宿舎の中には誰の気配もしない。

 何処かに行ってるのか。

 電気をつけて、宿舎の中を見る。


 「ん?なんだこれ」


 紙切れが一枚、テーブルの上に置いてある。

 その紙には、


 ――ブラッディベイオネットを持つ者よ、二人の兄弟は預かったぞ


 「なんだよこれ、くそっシュヴァルツ・エルフ関連の奴か?」


 紙に書かれた言葉を見た瞬間に、帰ったばかりの宿舎から出て、ミナンとアルノラを探しに行くのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ