第三話『情報を持つサスという男』
「今日もお疲れさん」
「はい!」
「相変わらず硬いね、アルノは」
何とも言えない顔でいる、アルノラ。
その横で、浮かない顔をしているミナンがいた。
「どうしたミナン?何か浮かない顔をしているけど」
「いや、何でもない……」
「そうか、分かった」
二人ともよく働いてくれているおかげで、宿舎も順調だ。
でもたまに、ミナンが浮かない顔をしているのが気がかりだが。
次の日もまた、いつも通り宿舎で働く。
「今日も頑張っていこう」
「はい、頑張ります!」
「分かったわ」
返事はいつも通り元気だな。
すると、朝の挨拶を澄ましてすぐにお客さんが入ってきた。
入ってきた人に向かい、アルノラは何日の宿泊か聞く。
「何日の宿泊ですか?」
厚手の服は、なにかの毛皮のようだが、その服で口元まで隠した男が入ってきた。
白い長い髪をした男は、アルノラの問いに、
「一週間で頼む」
「はい分かりました」
そのまま、部屋に案内する。
すれ違う時、宿舎に来る冒険者とは違う雰囲気に気付く。
何か違う感じがする、もしかしたら何か知ってるかもしれない。
思い切って、その男の場所に向かう、そして部屋に入り俺が話し出そうとしたところで、
「何かを感じ取ったか、ここのご主人さん?」
「はははっバレちゃいました。あなたは、今まで来たお客さんとは違うので何か知ってるかと思いまして」
「ほぉ、まあその前にお互い名前でも言おうじゃないか。俺は、『サス』だよろしくな」
「俺は、レイよろしく」
名前を言った時、笑ったような気がしたが気のせいだろう。
とりあえず、この『サス』という男なら何か知ってるかもしれない。
「それで、何が聞きたいんだ」
「シュヴァルツ・エルフについて知っているか?」
今までにも何人か聞いたことがある。
だが、この質問をしても誰も知っているものはいなかった。
「ふははっ面白い組織の名前をだすな」
サスは苦笑しながら言った。
「その反応、何か知ってるのか?」
「あぁ知っているさ、シュヴァルツ・エルフ。奴らの何が知りたいんだ?」
「居場所だよ、何処にいるか知らないか?」
「知っているさ。それよりレイ、君は此処がどこだかわかるか?」
質問の意味が分からなかったが、答える。
「ここは、アヴルド国。四区に分かれた内の一番田舎、シュタル区だろ」
「そうだな、そしてこの国のトップはシュルルカ・グラッド王だ」
俺が住み生まれ育った、アヴルド国・シュタル区。
その中でもシュタル区は、周りにある町と変わらないくらいの田舎。そして、この国のトップに位置するシュルルカ・グラッド王は、評判もよく良き王として有名だ。
だが、この話を出す意味が分からない。そう考えていると、サスは、
「それじゃ、この国を裏で操っているのは、誰だと思う?」
「操るなんて、そんなことあるのか」
「ふはは平和ボケしないほうがいい。この国はお前が思っているよりも、黒く荒んでいるぞ。裏で手を引いているのは、シュヴァルツ・エルフだからな」
その言葉は、考えてもいない言葉だった。
俺は、国を相手にしようとしていたのか。
サスは悩む俺を見ながら、質問する。
「このことを知らせたうえで聞こう。レイ、君はそのシュヴァルツ・エルフをどうしたいんだ?」
「……殲滅する。それが俺の目的だ」
「それは、国を相手にしてでもか?」
「…………あぁ俺一人なら問題ないだろ」
答えを聞いた瞬間に驚いた顔をしたが、すぐに表情が変わり口元が隠れていてもわかるくらい笑って、サスは言った。
「偉く肝が据わっているな。よし気にいった、情報を渡そう!ただし、条件がある」
「なんだよ条件って?」
「ここに、無料で宿泊させてくれ」
「わかったよ、いいだろう」
これで、やっとシュヴァルツ・エルフについて進展する。
例え国が相手だとしても、俺は突き進む。
それから、サスには多くの情報をもらった。そして一番見つけやすい、№10スエレ・ツェーンという奴を倒しに行くことに決めた。
サスが宿泊して、一週間が経ち、別れの時。
「少しの間、世話になったな。意外と良い宿だったぞ」
「意外は余計だろ、それじゃあな」
「まあ、死なないように気を付けろよな」
「俺は自分がやるべきことを果たすまで死なないさ」
その言葉を聞いた、サスは笑顔になり、手を振って何処かへと消えた。
サスが行ったあと、ミナンが近づいてきた。
「あのさレイ、あの男と随分色々話してたみたいだけど、何か私たちに隠してることない?」
「隠してることなんてないよ」
ミナンの問いに答える。
するとミナンの顔が曇り、
「もういい、レイは私達の事信用してないのね」
「そんなこと、なっ」
話している途中で、ミナンは自分の部屋に行ってしまった。
冷静なミナンが怒るなんて、珍しいな。
部屋に行ったミナンを見た、アルノラは、
「レイさん、僕達に隠し事してるんですか?」
「隠し事ってわけじゃないんだがな、人には話したくないこともあるだろ」
「そう……ですけど。ミナンのあんな感じ始めて見たので、全てとは言わないので話してくれませんか?」
「わかった明日話す。それとアルノ、明日からこの宿舎は二週間休みだ」
「な、何で突然!」
動揺した顔のアルノラ。
「済まないな、いきなりで」
「わ、わかりました。とりあえず明日話してくださいね」
「あぁ分かった」
次の日になり、ミナンとアルノラと一緒に宿舎の椅子に座る。
二人は、こちらを見て様子を伺っている。
無言の中、俺は話し始める。
「えっと、昨日はごめんなミナン」
「別にいいけど……アルノから聞いたわ、今日から二週間休みなんだって」
「そ、そうだ。いきなりで悪い」
「まあいいけど、で何でも聞いていいの?」
無言で頷く。
そうと決まった瞬間に、少し笑顔を浮かべてミナンは、
「私が聞きたいのは一つだけ、レイあなたはこれから何をしようとしてるの?」
一番聞かれたくない質問がきて、悩む。
シュヴァルツ・エルフについては、話したらこの二人に影響があったらいやだと思い、話していなかった。だが目の前にいるミナンは、話さないと納得してくれそうにない。
「シュヴァルツ・エルフを倒しに行く。それが目的だよ」
「シュヴァルツ・エルフ、何か聞いたことがある。危険な組織じゃなかったかしら?」
「あぁ……悪いな今まで黙ってて」
「それはいいけど、何で倒しに行くの?」
倒しに行く理由を聞かれ、顔が曇る。
その様子に、ミナンは詮方ないと思い、
「よし、やっぱり今日はここまでにしておこうかしら。どうせ今回休みを取ったのも、そのことに関係があるんでしょ?」
「そうだな、悪い。二人ともしばらくここを任せてもいいか?」
「そんなに謝らないで。私たち二人なら大丈夫だから、行ってきなよ」
「ありがとういつも我儘に付き合ってくれて」
そう言って準備をする。
向かうは、南に位置するトゥリン区。そこに№10スエレ・ツェーンという、人物がいるらしい。
二週間分の準備をして、宿舎を出ようとした時、アルノラが、
「レイさん必ず戻ってきてくださいよ」
「大丈夫だよ、戻ってくるさ!」
アルノラはその言葉を聞いて、心配そうな顔から笑顔になる。
アルノラが言ったあと、隣にいたミナンが近寄り、
「気を付けてねレイ」
「あぁ分かってる、気を付けるよ」
「それともう一つ、私たちは別にあなたの我儘に付き合ってるわけじゃないからね」
ミナンは、透き通った顔で恥ずかしげに言った。
「ありがとう、それじゃあな!」
『私たちは別にあなたの我儘に付き合ってるわけじゃないからね』か、嬉しい言葉だな。
刺し違えても倒すつもりでいたが、死んで戻ってきたら怒られるかな。
そんなことを思いながら、シュヴァルツ・エルフの一人がいるトゥリン区に、向かうのであった。