表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/18

第一話『ブラッディベイオネット』

 子供の頃、森の中で剣を見つけた。

 その剣は誰にも抜かれることなく、自然に埋もれている。赤く輝く剣は美しく、何か自分の心を魅了していた。

 

 だが、その剣は『ブラッディベイオネット』と呼ばれ、使用したものは血を吸われ死んでしまうという噂話があり、誰も抜くことはない。

 親は死んでもういなかったから、叔母さんと叔父さんに預けられている俺は、二人に幼い頃聞いたんだ。


 「ねぇ、あの森にある赤い剣が欲しい!」

 「レイ、あれは取ってはいけないの。ブラッディベイオネットと呼ばれていて、取ると呪われちゃうのよ」

 「えーなんでよ」


 叔母さんに向かって、駄々をこねる。

 すると叔父さんが、見かねたのか近づいてきて、


 「叔母さんの言っている通りなんだ、レイは良い子だから分かってくれるだろ?」

 「うぅ……分かったよ」


 いつもそうだった、叔母さんと叔父さんはブラッディベイオネットの話をすると注意をするか、話を逸らすかだった。

 だけど仕方のないことだろう。何故なら、ブラッディベイオネットは本当に危ない剣なのだから。

 その後も、剣を抜きはしなかったものの、たまに森に遊びに行っては赤く輝く剣を見ていた。


 「何で駄目なんだろう、お前だって本当は活躍したいよな?」


 剣に話しかけるが、何も反応はしない。

 

 「呪われた剣だなんて言わないでもいいのに、いつか俺がお前を使ってやるからな」


 ――使ってくれるのか?


 「えっ今喋った?」

 「…………」

 「気のせいか」


 それを最後に、俺は森で遊ぶことも段々と減り、行くこともなくなった。


 男にしては髪の長い黒髪で、童顔だからたまに女と間違われる俺は、十八歳になり十分な大人だ。

 子供の頃は、騎士や狩人その他にもあったカッコイイ職業に憧れていたが、叔母さんと叔父さんの世話になっていたので、二人の仕事を継ぐことにした。叔母さんと叔父さんの子供、リーナは俺と同い年で、どうやら宿舎を一緒に継ぐらしい。

 木造建ての古い宿舎だけど、冒険者や旅人にはそれなりに人気のある宿だった。

 お昼には、宿舎に泊まっている冒険者が出てきて、リーナの作った料理を食べている。


 「おーリーナちゃん、今日も綺麗な黄色い髪に大きな胸、いいねー!」

 「やめてください、セクハラですよー」


 見た目が綺麗なリーナは、あっという間に看板娘となり、宿舎にも今まで以上に活気が溢れていた。

 宿舎が休みの日、俺はリーナにあることを聞いた。


 「なぁリーナ、いつもお前はセクハラ染みたこと言われてるけど、大丈夫か?」

 「たまに嫌な時はあるけどね、レイと一緒なら大丈夫」

 「そ、そっか。いつもありがとな」


 お礼を言うと、嬉しそうに微笑んでいた。

 テーブルを、消毒液を付けたタオルで拭くリーナ。

 こんな日常がいつまでも続くと良いと俺は、思っていた。だが、もう一つ気がかりなことがあった。


 「リーナ、もう一つ聞いてもいいか?」

 「どうしたの、レイ?今日は焼けに、聞くことが多いね。いつもは冷たいのにさ」

 「はははっ冷たくしてるわけじゃないんだけどさ。そう見えてたなら、悪かったな」


 申し訳なさそうな声で謝ると、ムッとした顔で近づいてきた。

 接近してきたリーナは、唐突に俺の額にデコピンした。


 「いだっ!」

 「なーに落ち込んでの、半分冗談よっ」


 痛そうにしてる俺を見ながら、リーナは嘲笑しながら言った。

 というより、半分は本当だったのか。そんなことを思っている俺を見て、


 「それで、聞きたいことって何?」

 「あーそうだった、叔母さんと叔父さんはもうすぐ歳になる。そうすると、新しい働き手を雇う必要があるだろ?」

 「うん……まあそうなるかもね」

 「リーナは、本当にこの宿舎を継ぐってことでいいのか?」


 質問の意味が分からずに、混乱するリーナ。

 混乱しているリーナに向かい、思っていることを率直に言った。


 「他にやりたいことはないのか?」

 「大丈夫だって、私は決めたのここを一緒にレイと継ぐって。それとも私は邪魔?」

 「そんなことはない、寧ろ居てくれた方が嬉しい」

 「うんうん、だって私は看板娘だもんねっ!」


 なぜこんな質問をしたのかは、自分でもわからなかった。

 そんな疑問も、次に出たリーナの言葉で分かった。


 「レイはいいの?冒険者とか、そういうのになりたかったんじゃないの」

 「俺はいいんだよ。叔母さんと叔父さん、それにお前にも世話になったしさ」


 いいんだ、俺は自分のやりたいことじゃなく、恩返しをしたいんだから。

 世話になった、この家族に。

 

 「それって恩返しのつもり?だとしたら、レイこそ好きにやったら」

 「えっだけど……」

 「だけどじゃないよ、きっと母さんも父さんも反対はしないよ」

 「ありがとう、少し考えておくよ」


 それから数日が経った、ある日冒険者があまり良くない噂話をしていた。

 宿舎のお昼時に、俺は聞き耳を立てて聞いていた。


 「おいおいまた出たみたいだぜ」

 「あーあの女か、殺し好きの女が本当に迷惑だよな」

 「何でも、毒の針で殺すんだとよ。拷問も趣味みたいだから、絶対に捕まりたくないな」


 男の冒険者二人が話している通り、最近は物騒なことが起きているようだ。

 近くでも起きているらしいので、いざとなったらリーナ達を守らないといけないと思っていた。

 毒針を使うのか、噂では銀髪の清楚な身なりをした女だと聞くが、何処までその噂が頼りになるかは、分からない。

 お昼の食事の時間が終わり、ほとんどの冒険者は宿舎から出て食糧調達に出かけている。

 その間に、俺は宿舎に無くなった料理の材料を買い出しに行く。


 「じゃあ行ってくるよ、戸締りちゃんとしろよー」

 「分かってるわよレイ、いってらっしゃい」

 「いってきます」


 宿舎を出て、買い出しに出かける。

 買ってくるものは分かっている。大体いつもと変わらないものばかりだ。

 多くの材料の中から、リーナは自分で考えて料理を作る。

 俺も毎日のように、リーナの手料理を食べるが飽きたことは一度もない。そのくらい美味しいってことだ。

 行きつけの、肉屋に着く。


 「いつものください」

 「おっレイじゃないか!いつものだとこれかな?」

 「はい、ありがとうございます」


 その後も、野菜や果物など買うものを全て買って宿舎に戻る。

 宿舎に着き、扉に手をかけたところで嫌な雰囲気がした。


 「なんだ、この感じ」


 妙な静けさと共に、扉を開ける。

 するとそこには、


 「な、なんだよこれ。どうなってるんだ……」


 言葉を失いながら目の前を見ると、血の海が広がっていた。

 冒険者や、旅人などが全員死んでいる。その中には叔母さんと叔父さんもいた。

 自然と悔しさや悲しさから、涙がこみ上げてくる。叔母さんと叔父さんに寄り添う。


 「叔母さん叔父さんっ……うぅうぁ」


 叫びもできない自分に虚しくなる。

 二人を抱きしめたところで、あることに気づいた。リーナがどこにもいないことだ。

 リーナはまだ生きてるかもしれないと思い、宿舎のあらゆる場所を探した、するとキッチンからリーナの叫び声が聞こえた。


 「リ、リーナ!」


 叫んだ方向に急いで行くと、リーナが座っていた。

 その前には、銀髪の長い髪をした美しい女が立っていた。


 「あらあら、邪魔が入っちゃったみたい。せっかく今から楽しもうと思ったのに……」


 血がついている針を持ちながら、その女は言った。

 怖くて足は竦んでいたが、思い切ってその女を突き飛ばす。


 「リーナに近づくな!」

 「ふふふっ威勢がいいのね。嫌いじゃないわ」


 突き飛ばされて横になった女は言った。

 その言葉を無視して、リーナを担いで逃げようとする。

 慌てる気持ちを抑えながら、なるべく遠くまで離れようとした。

 森の中まで行き、木に隠れながら二人で休む。


 「はぁはぁ、これでしばらくは来ないかな」

 

 気に寄りかかりながら言うと、リーナが急に俺のことを抱きしめてきた。


 「こ、怖かったよ……ありがとうレイ。レイがいなかったら私」

 「お礼を言うのは早いよ、それに叔母さんと叔父さんは救えなかった……」

 「うぅっ悲しいけど、レイのせいじゃないよ」


 安心させるため強く抱きしめ返す。震えているのが、強く抱きしめたことで感じられた。

 すると、肩に傷があることに気付いた。


 「こ、これ大丈夫なのかリーナ?」

 「わ、分かんないよ」

 

 パニック状態のリーナは分からないといったが、肩にある傷は青く変色しているため、毒だと思い吸って吐くことにした。


 「リーナ、少し我慢しろよ」

 「う、うん……いっぅなっ何してるの」

 「もう少しだ、大丈夫」


 毒を出している途中ではあったが、森のどこかで音がしたので傷口に布を巻いて、再び走り出す。

 近づいてくる足音、体力が持たないが必死に走る。

 走ってる中で、リーナは小さな声で、


 「いつもありがとねレイ」


 何を言っているんだと思いながら走り続けていると、後ろから、


 「ふふふ見つけたわっ」


 その声とともに、針が飛んできた。

 間一髪で躱すが、森の開けた場所に追い詰められてしまう。


 「やっと、諦めたみたいね。それじゃ、一緒に楽しみましょう」

 「諦めてなんかない、俺たちは絶対に死んだりしない」

 「俺たちっていうのは、その子のことを言っているのかしら。だとしたら、もう死ぬ寸前みたいだけど?」


 走るのに夢中で気づいていなかったが、背中に抱えているリーナがあまり息をしていないのを感じた。

 その瞬間に、恐怖と怒りが自分の中で入り混じる。


 「リーナ、おいリーナ」

 「もう無駄よ、だって死にそうだもの」

 「嫌だ、嫌だよ。なんで、何でこんなことになるんだよ!」


 ――その女が憎いなら戦えばいい


 後ろから声が聞こえた。少し冷静になり周りを見渡すと、見覚えのある場所だった。

 そうかここは、あの剣がある場所。


 「だとすると、さっきの声は!」


 後ろを振り向くと、そこには今だ輝きを失っていない、ブラッディベイオネットがあった。

 余所見をしたところで、女は毒の針を投げる。

 その瞬間に、剣を引き抜き全ての針を防ぐ。


 「そ、その剣は……」

 「ブラッディベイオネットだ……俺の血を犠牲にしてでもお前には死んでもらうぞっ‼」


 この時初めて、レイはブラッディベイオネットを持った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ