第十二話『イェク区』
暴れて冷静になると、此処がどこなのか気になった。
自然の中を抜けていき、歩いていくと街が見えた。
霧のかかった街で木造で作られた家が多いみたいだが、あまり新しくはない。
崩れかけの家に、人が住んでいるため裕福ではないのだろう。
看板が立ってるのを見ると、そこには、
「イェク区へようこそか、それだとここはアヴルド国西側に位置する場所か」
イェク区は子供の頃来た記憶があるが、ここまで古かった雰囲気ではなかった気がする。
暴れたおかげで何とか、力は抑えることができている。だが力が漲ってくるのも感じる。
危険な状態だ。そういえばここに、シュヴァルツ・エルフ関連の奴がいると、サスの情報に書かれていた筈だ。
紙を取り出し見ると、そこには、
――イェク区の何処にいるかは分からないが、№8クイル・アハト、№7シーク・ズィーベン、№6タル・ゼクス、№5ナイカ・フュンフの四人がいる。
久しぶりにこの紙を見た気もするが、ここには四人のシュヴァルツエルフがいるのか。
力を使い切れば、暴走も止められるかもしれないな。
急いで探すとするか。
◇◆◇◆
研究所で二人が話している。
「これも必要なんだろ、持ってきたぞ」
小さな丸い瓶に、白い血が入っている。
それを爺さんに渡すと、喜んで受け取り、
「悪いなこれで、ワシの研究は進んでいく」
「それであんたは、何を作ろうとしてるんだよ?」
口元を隠した白い髪の男が、爺さんに何の研究をしているのか聞くと、興味を持ってくれたことに意外だといった顔をして驚く。
手元で繊細な作業をしているが、口を動かして、
「今作っているのは人だよ」
「人だと?生き物を作っていることは知っていたが、とうとう人にまで手を出したのか」
「成功するかはわからないがな」
「それじゃ何で、あの赤き剣の成分が必要だったんだ?」
問われた爺さんは、赤き剣の成分が入った瓶を見せびらかし、小さな声で言う。
「それはな、あの剣に対抗出来る力を持った人を作っているからだ」
男は驚いて後ろに退く。
動揺しているのを無視しながら続けて、話し始める。
「あの剣、ブラッディベイオネットと言ったか?シュヴァルツ・エルフは中々手古摺っているみたいだからな、作られた人間なら勝てるんじゃないかと思ったのだよ。もうすぐ完成するから、すぐにでもあの少年と戦わせたいものだ」
爺さんはそう言うと、布を退けて男に見せる。
そこには、十代くらいの少年が水色の液体に浸かっていた。
白い髪に白い身体、眼は開いていないため何色かは分からない。女性にも見える、美しい肌質に爺さんの趣味が分かる。
生きているかのような、人工でできた人間に釘付けになっていると、
「驚いているみたいだな、そりゃ今までに前例がなければ衝撃を受けるものか。だがサス、お前のそういった顔は初めて見たな」
その言葉に耳を貸さずに、魅入っている。
時間を空けてサスは、
「爺さん俺はあんたのことを、老いぼれた研究が好きなジジイと思っていたが、見直したぞ」
「そんな風に思われていたとは、失礼なことだ」
「まあいいじゃないか、今はそうとは思っていないんだからさ」
爺さんは、仕方がないといった顔でサスの言葉を受け止める。
作業を進めつつ、あることが気になった爺さんはサスに、
「それよりどうなったんだ、あの少年は?」
「レイの事か、あいつはすべての白い血を吸収していたよ。傷も元通りになっていたが……」
そこで話すのをやめると、
「いたが、何なんだ?」
「暴走していてな、一気にあれだけの血を取り込むと制御が難しくなるらしい。彼奴のあの目つきは、本物だったよ。本気で戦ってやりたいと思ったが、まだ終わらせるときじゃないからな」
「全く戦いを楽しみおって、シュヴァルツ・エルフは崩壊寸前なんだぞ。お前もその一人なら、もう少し組織のことを考えたらどうだ?」
サスは、顔の前で手を振りながら不気味に笑って。
「悪いが俺は楽しければそれでいい、今はシュヴァルツ・エルフの事より彼奴の成長が楽しい。ただそれだけだ、気に食わないなら俺を倒してもいいんだぞ爺さん」
「戦うのは止めておこう、お前と戦ったところでワシが負けるのは目に見えてることだ」
「それなら口出しはしないでくれよな、俺を止められるのはレイか№1の奴だけだ」
生意気な口調ではあるが口出しをしない。
すると、サスはさっきまでの話しとは違う話を始めた。
「暗い話はやめにしよう。それより、爺さん俺の剣はできたのか?」
「あぁ出来ているさ。形状は変えないでよかったんだよな」
「勿論あのままでもいい、だけどなんか性能とかついてないのか」
爺さんはサスと話をしながら、研究所の奥に行き剣を取り出してくる。
新しい剣を見たサスは、興奮しながら爺さんから受け取る。
「おぉ凄いな。ありがとな爺さん」
「白い血のお返しだ。性能は一つだけついている、それはその剣を振れば分かることだ」
「わかった、振ってみる……よっと」
すると振っただけで、周りに合ったものが吹き飛んでいく。
「な、何だよこれ」
「その剣は振った瞬間に剣先が重くなるようになっている。だからお前の力で振れば、風も起きるかもな」
「そうか、これが新し剣か。爺さん、この剣に名前はないのか」
突如言われて、爺さんは考える。
「それなら、バルゼロって名前はどうだ?」
「おーカッコイイ名前だな。それに決めたぞ。じゃあ俺は、もう行くぞ」
バルゼロを持ちながら、サスは研究所から出ていった。
爺さんは出ていくサスを見て、
「№2サス・ツヴァイ……恐ろしい男だ」
そう言いながら、研究を進めていた。




