32 夢想と現実 ※
ボーイズラブの性的描写があります。15禁レベルだと思いますが……。(・ω・;)
苦手な方はご注意ください。
《ロワクレス視点》
シュンが私を愛していると告げてくれた!
上官としてではない! 一人の男として、私を見てくれた。
その目を覗き込むと、熱に潤み目尻も赤く染まっている。
冷え冷えと醒めた色はどこにもなかった。
私は身体を拭くのももどかしい思いで、シュンを寝台へ運んだ。
潤む目尻に、赤く火照らす頬に、芳しい唇に。
私は夢中で口づける。
両の腕で抱きしめ、シュンの熱い身体を我が身で感じた。
貪り合う口づけは甘く、私の心を溶かして酔わせる。
首に胸に。私は唇を落としていき、シュンの滑らかな肌を堪能した。
シュンが喘ぎに似た息を熱く漏らす。
それを聞くだけで、私はこらえきれなくなるほどに煽られる。
「ロワ! 待て! ちょっと待てー!」
「大丈夫だ。シュンの身体が傷ついていたことはわかっている。まだ、辛いだろう。優しく加減するつもりだ。怖くない」
「そうじゃない! ……いや、今更、ロワを拒絶するとかじゃないぞ?」
私の顔を見て、シュンが急いで言い直してきた。私はそんなに情けない顔をしていたか?
「俺も、ロワを受け入れるのに、やぶさかじゃない。か、覚悟もしている。このまま入れてくれても、かまいやしないんだが……、だが、その、きっと、うまくいかないぞ?」
私の顔に大きな疑問符でもついていたか?
「ロワ、あんた、男とやったこと、あるか?」
「いや、ない」
「女とは?」
「騎士団に入った頃、先輩に嗜みだと言われて、その、娼館に……。一回だけ……」
「…………」
呆れられたのだろうか? もっと経験を積んでいれば良かった。だが、正直、楽しくなかったのだ。化粧の濃い女が嬌声を上げてすり寄ってくることに嫌悪しか感じなかった。
「男の身体は女とは違う。か、考えてみろ? 男のをあんたの身体に入れたらって? な、わかるだろ?」
私はシュンの股間に目を落とした。失礼だとは思ったが、立ち上がったそれは、随分可愛い……。
「今、小さいとか思ったろ? 絶対、思ったろ! か、身体の成りが違うんだ! しょうがないだろ! ってか、見るな! じろじろ見るな!」
シュンが真っ赤になって慌てて手で隠そうとするので、その手首を掴んで引きはがした。もっと見せて欲しい。
「な、なあ。男の身体にいきなり入れたら俺のサイズでだってけっこう辛いんだ。それが、あんたのは、その、でかいだろ? さすがの俺も怖気を振るうくらいだ。いや、でかいのが悪いって言ってるんじゃないぞ? ちょっとうらやましいくらいなんだぞ? ただ、たぶん、このままじゃ、入らない」
私は絶望を感じた。やっとシュンと一つになれると思ったのに。
「ああ、だから! そんな顔しないでくれ! やらないって言ってるわけじゃないんだ。ただ、その、準備が必要なんだ」
「準備? 準備があるのか?」
「ああ。何か、滑りをよくする潤滑用のオイルか何かないかな。それがあると助かるんだが」
私が燭を見たので、シュンは慌てたように声を上げた。
「燭の油はだめだぞ。皮膚に悪そうだ。腫れたり痒くなったり、きっとなる」
失礼な。私だってそのくらいのことは判る。こんな劣悪な油をシュンの体に使えるはずがないではないか。
こんなことなら、だれかその道の詳しい者に聞いておけばよかった。だが、私が近づくと、みんな目を逸らして逃げて行くのだ。とてもじゃないが、こういうデリケートな問題を聞けるような機会がなかった。
ふと、ローファートの顔が浮かんだが、とんでもないと打ち消す。あんな男にシュンの事など考えさせるだけでも業腹だ。
何だろう? だんだん色っぽい雰囲気が壊れていく。さっきまで、甘やかでとてもいい感じだったのに。
顔を片手で覆って嘆息した。
それもこれも、私が不勉強だったのがいけない。私は自分の不甲斐なさにがっくりと頭を垂れた。
***
《ブルナグム視点》
執務室に戻った俺は一人でにまにましていた。シュンが無事戻ってきて、本当に良かった。あのままずっと、ロワ隊長がまるで生きたまま棺桶に入っちまったような状態になっちまうのかと、本気で心配していたのだ。
シュンが現れてから、隊長は変わった。ちょっと――かなり不気味ではあるけれど、シュンさえいればそれも改善されていくだろう。氷鉄の騎士がやっと人間らしくなる。
今頃はシュン君と……、むふふと下世話な妄想を思い浮かべてしまい、慌てて手で払う。
今は、仕事だ、仕事! 隊長の為にも、仕事頑張らなきゃ! 雑念なんか浮かべてる暇なんか、ないんすから! ほんと!
書かなきゃならない書類って、なんでこんなに多いんだろう? やっぱり、アシュレイをもう一回、ゴードンから強奪してこよう。
世の不条理を嘆きつつ、俺が真面目に机の上に書類を広げた時、ばたんと扉が大きな音を立てて開いた。
「扉は静かに開けるっす!」
俺が脅すように睨むと、ローファートが銀色の髪を振り乱して駆けこんで来た。
「シュンが! シュン様が、帰ってきたって、ほんと? ほんとに、ほんと?」
「ほんとっすよ。ただ、火傷や傷がひどいらしくって、隊長が自室で治癒してるっす」
「そっかー。良かったあ!」
ローファートが嬉しそうに笑った。それが、本当に心からの歓びに見えて、俺は珍しいものを見た気がした。ローファート、あんた、人間変わってないっすか?
「これで、化学式を教えてもらえる! ああ! 硫酸に塩酸に! 実験が待ち遠しい! 素晴らしい僕の未来よ!」
一人で恍惚と天を仰いで浸っているローファートを見て、やっぱり人間ってそう変わるもんじゃなかったって、思い直したっす。
勝手に感激しているローファートを放って、書類への記入を再開する。俺は忙しいのだ。
すると、目の前に両手がどんと置かれた。
――ん? 手伝ってくれるんすか?
んなわけないか、と目を上げると、ローファートが何か含むようないやらしー笑みを浮かべてる。
「ってことは、ロワクレス隊長はシュン様と二人っきりで部屋にいるんだよね?」
――無視、無視。こんなのは無視に限るっす。
「ロワクレス隊長、大丈夫かなあ。僕、心配だなあ」
――心配? 何がっす?
「隊長って、きっと経験ないよねえ。あんな堅物で、だーれも寄せ付けないんだもんね」
「な、何が? 何がいいたいんすか?」
思わず訊いてしまった。
「ちゃんとできるかなあってね。まあ、シュン様が隊長を見限ってくれたら、僕がシュン様を遠慮なく……おっと、アブナイ、アブナイ。隊長に殺されちゃうからね。あ、これ、ロワクレス隊長に僕からの心遣いね。ちゃんと渡してね」
ローファートは黒いローブのポケットから無造作にガラスの小瓶を取り出すと、ことんと机に置いた。
「な、なんすか? これ?」
「ふっふっふ、夜のお供の『高級香油・媚薬入り』だよ。厳選された紅彩花から採った高品質の油に薫り高い薔薇の香をブレンドさせた一級品。これで、あなたも極上の夢のひとときをって奴さ。じゃ、隊長によろしくね」
あんぐり口を開けたままの俺に、扉に向かいながら指を立ててちっちっと振った。
「香油の瓶を常に忍ばせておくのは、男の嗜みだよ。た・し・な・み。ブルナグム副官殿も心得ておかなきゃ、もてないよ?」
そして、バタンと扉を閉めてローファートは去って行った。
あいつ、結局、何しに来たんすか?
これ、隊長に渡せって?
なんて言って、渡したらいいんすかあっ!
俺は頭を抱えて、机の上で光を弾いて鎮座する『高級香油・媚薬入り』の小瓶を眺めるばかりだった。