30 無窮と永遠の間で
シュン視点とロワクレス視点が交互に変わります。
読みにくいとは思いますが、頭の中で平行に並んでいると思って下さると嬉しいです。
《シュン視点》
――ここはどこだ? 俺は、いつからここにいるんだ?
何もない。何も見えない。何も感知できない。
立っているのか、寝ているのか。浮いているのか。
足や手があるのかさえも、目も耳も機能しているのかさえも。
俺の身体がまだ、存在しているのかさえも。
全てが判らないままに。
ただ、俺という意識だけがあった。
予備マガジンの大きなエネルギーの解放で高分子アジ化物質が爆発して飛散、大量の小麦粉が粉塵爆発を引き起こし、青い炎を上げる魔法陣にばらまいた二十本のダイナマイトも誘発されて爆発。
これだけの爆発が続けば、どれほど強固に構成された魔法陣といえど、持ちこたえることはできないはず。地面ごと粉砕されているはず。
そして、俺は。
テレキネシスを使ってブラックホールのように俺を捉えていた力場からもぎ離し、テレポートした。
やはり間に合わなかったのだろうか?
爆発のあおりを受けた痛みや苦痛さえも感じない。そもそも五感がないのだ。
――なぜ、俺はここに在るのか?
不完全なテレポーテーションが、時空の狭間に落としたのか?
素粒子に分解されたまま。
これは俺のネガ粒子なのか?
――それなら、なぜ、意識があるのだろう?
どれほど時間がたっているのか、それとも、全く経過していないのか。
そもそも、時間が存在しているのかさえ、不明な。
――俺はどこへ行こうとしていた?
ぼんやりとしてくる。
思考がまとまらない。
きっと、このまま意識も消え、俺という存在も消えるのだ。
でも!
何か大事なものがあったはず。
忘れてはならない、大事なものが。
『……シュン』
声が聞こえた。
心がこのままふわりと無に溶けようとしていたのに。
『シュン』
意識が無理やり引き戻される。
『シュン!』
俺の名前か?
誰が呼んでいるんだ?
『シュン! どこに居る? 帰って来い! シュン!』
この声は。
知っている。
俺は、この声を知っている。
「ロワクレス!」
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「シュン?」
今、声が聞こえた気がした。
「シュン! シュン! 聞こえるか? 私が判るか?」
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「ロワ? どこだ? ロワ!」
聴覚が戻った。
喉が音を乗せた。
虚無の中に波動が生まれる。
波動は圧力となり、俺は押し流され始めた。
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「ここだ! シュン! 私はここにいる!」
シュンの気配を感じた。姿はないのに、それでも、確かにシュンの気配がする。
まるで薄い布の向こうに隠れているかのような。
そんなもどかしさに、私は焦りを感じた。
ひらりと布がめくれれば、そこにシュンがいるのに。
「来い! シュン! 私のもとへ!」
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ロワクレスが呼んでいる。
帰りたい! 彼のところへ!
走って行こう!――足の存在が生まれた。
俺を摑まえて!――腕が伸びる。手がひらく。
ロワ!
俺の手を!
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――そこだ! そこにいるんだな!
シュンが、私のすぐ横にいる!
腕を伸ばした。
何もない空に、だが、私の手はシュンの手を捉えた。
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――ロワ! そこだね? そこに! ロワ!
何もないはずの虚空がうねる。ねじれる。細い細い亀裂が走る。
ロワの手が見えた。
重い剣を軽々と扱う節くれだった、男らしい大きな手が。
俺はロワの手を握った。
***
《ロワクレス視点》
唐突に。
次の瞬間、私はシュンを胸に抱いていた。
シュンが私にしがみ付く。
「シュン!」
私はシュンを強く抱きしめたまま、その場に座り込んでしまった。