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2 魔獣と魔法の世界

 《シュン視点》


 重力波攻撃を受けてぼろぼろに骨が砕け、内臓破裂を起こしていたはずの身体は、一日経って痛みが消えると共に全快していた。あり得ない。どんな治療を施したのだろう。

 

 昔仕様の軍服を着た兵士らしい者が食事を運んできてくれた。パンと葡萄酒という簡素なものだが、天然酵母の匂いがする。

 医者らしい者も様子を診に来た。その医者も長衣にゆるいズボンと言う服装で白衣ではない。トイレも前時代的な仕様だった。


 建物内の様子も行き会う者も、撮影隊の役者や関係者らしくない。だいたい、一日中、撮影の衣装を着ているものだろうか? 役に入れ込んでいると言っても、限度があるだろう。


 

 俺はだんだん不安になってきた。あの時、とっさにジャンプしたから、行き先も決められなかった。その上、重力波で空間さえ歪み、異常な状態だった。

 俺は、どこに居るのだろう?



 

 禁忌を破ってテレパシーの指針を伸ばしてみた。建物内部にいる者達の思考が無秩序に飛び込んでくる。

 頭痛を覚えながら、整理しようと試みる。

 

 ――西の砦。魔獣攻撃。城。防衛。

 

 酒だとか女だとか帰りたいとか痛いとかの個人感情を掻き分けながら、何とかこれだけ拾い集める。

 

 ――魔獣?

 

 すると、リーガン魔術師が。とか、ロワクレス隊長の魔力とかの単語が飛び込んできた。

 

 ――魔力?

 

 現実世界とは思えない単語に戸惑う。

 つまり、ここは西の砦で、魔獣がいて、魔術師や騎士隊が退治しているという事なのだろうか?

 

 ――あ、頭が痛い……。なんの冗談なんだ?

 

 そういえば、電化製品を見かけない。機械類の一切も見かけていない。ここが僻地で、まだ電力の供給がされていないだけなのか? 

 まさか、電気もない、なんてこと、ない、よな?

 

 ――照明はロウソクだった。

 

 日が落ちて暗くなってきたところへ、兵士の服を着た男がロウソク立てを持ってきた。

 肉と豆が入ったスープを出される。素朴な味だが、悪くない。人工添加物や化学調味料が一切使われていない食べ物は初めてだ。

 

 上着用にごわごわした固い天然素材のシャツをもらった。かなり大きい。袖を幾重にも折らないと手が出ない。これでも一番小さいサイズだと言われた。ここの連中はどれだけ大きいんだ? だから、子供と思われたのだろうか。



 幸い、ズボンは今までのままだった。

 そのズボンのポケットには携帯用凝縮口糧の食べかけのバーがまだあった。このスープと比べたら味も素っ気もない代物だ。よくもこんなものを食べていたものだと思う。それでも、これが最後の食料だったので大切に食べ繋いでいたのだ。


 再びバーをポケットに仕舞うと、ベルトのホルスターから手の平サイズのニードル銃を出す。これを取り上げられないとは驚きだ。武器だとわからなかったのかもしれない。

 

 重力波に晒された影響で破損がないか調べる。エネルギーはまだ80%残っていた。マガジンの予備は一個しかない。おそらく、入手は不可能だろう。これは大事に使わなければならない。

 


 

 銃をホルスターに納めた時、ぞくりと身体に緊張が走った。

 内外が慌ただしくなる。

 

『シュン!』

 

 ロワクレスの思考が突き刺さる勢いで飛び込んで来た。まだ無力に寝ていると思っているらしい。その俺を心配している。真っすぐな気持ちがダイレクトに伝わる。同時に、情報も。

 

 俺は条件反射的にジャンプしていた。


 ***

 

 ロワクレスの背後に出た時、彼は戦闘の真っ最中だった。

 鬱蒼とした森全体が闇の中で蠢いているかと思った。ロワクレスがドルガと言っていた魔物の大群で埋め尽くされていたのだ。


 雲ひとつない夜空に満天の星。二つの月が青い光を投げて闇を照らしていた。その月光に浮かび上がった姿は。

 マンモスのような長毛でカバのように巨躯。ゴリラのように長い手が4本あり、熊のようなパワーで襲ってくる。その横には頭が二本ある蛇のような獣ガラドも。


 それらが、砦を襲おうと大挙して押し寄せていた。砦の背後には町が連なる。砦は町を守る前線だった。

 砦の兵たち総出で魔獣と闘っていた。魔獣というだけあって強い。しかも回復力が半端なく早い。少々の痛手はたちまち塞がる。その上、蛇のような獣は口から火炎弾のような炎まで噴いている。

 下手な装甲車よりも圧倒的だった。俺はあり得ない光景にしばし呆然としてしまった。

 

 火炎弾を向けられた兵の目の前が輝いてそれを弾き返した。後ろを向くと、魔術師と呼ばれた男が必死の形相で杖を向けていた。

 魔獣から来る攻撃を、彼が防いでいるらしい。

 

 咆哮が上がり、肉が焼ける匂いが満ちた。ロワクレスの剣が赤く燃えている。闇の中にそれは炎を纏って鮮やかに輝いていた。そのロワクレスの剣が魔獣の身体を切り裂くたびに、じゅっと煙があがり、魔獣は焼けただれて切り裂かれる。

 ロワクレスは誰よりも前に出て、魔獣を倒していた。おそらく、この砦の中で一番強いのだろう。

 それでも、魔獣の数は圧倒的だった。



 

 気配に飛びのく。ドルガの大きな腕が俺のいた場所を掻きさらった。あの爪で裂かれたら、胴の大半をもっていかれただろう。

 

「シュン!」

 

 ロワクレスが叫んだ。俺はニードル銃を手の平に滑り込ませると同時に、ドルガの目にビームを撃ち込む。鋭いビームは目から頭蓋を撃ち抜いて後頭部に大きな穴をあけた。

 ドルガが両手を上げて硬直したところを、ロワクレスの剣がその首を落とす。

 

『なぜ、ここに! 危険だから、下がれ!』

 

 ロワクレスが俺を庇うように前に立つ。

 

『俺も闘う』

 

 びっくりして振り返るロワクレスの横に出ると、テレキネシスを発動させた。


 

 

 魔獣らの巨躯を10体、上空に持ち上げる。森の木よりさらに高く上げて、下にいる魔獣の上へ叩き落とした。落とされた魔獣も落ちた魔獣も潰れ、青い血を吹き上げて混沌となり区別もつかない。


 同様に砦に近づいていた魔獣を持ち上げ、森の中を進む魔獣の上に叩き落とす。

 茫然と見ていたロワクレスが、俺に言ってきた。

 

「魔獣を一か所に集められるか?」

『ああ、やってみる』

 

 方々に散らばった魔獣を、目にする片端から持ち上げては先ほど落とした魔獣の上へと積むように落としていく。

 もがき転がる物もいるが、たちまち魔獣の山が現れた。

 

 ロワクレスが何事か唱えながら意識を集中させる。上げた手の前に光る文字が円を描いて現れた。

 

「燃えろ!」

 

 夜の中に紅蓮の炎が現れた。魔獣の山が炎を上げて燃え上がる。

 俺は、ただ唖然として見ていた。


 ――こいつ、今、何やったんだ? パイロキネシス? 


 だが、魔物自身から発火したというより、はるかに規模が大きい。ロワクレスから炎が発せられたようにも見えた。

 

「一網打尽だな」

 

 ロワクレスが満足そうに頷いた。森を三分の一焼失させたが、魔獣は完全に駆逐した。炎から逃れることのできた魔獣は一体もなかったのである。

 

 傷を負った者たちを助けながら砦へ引き上げていく兵たちを見守るロワクレスを、俺は呆然として見上げるばかりだった。

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