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1 瀕死な俺が落ちた場所

ファンタジーを目指して、異世界挑戦です!

お楽しみいただければ嬉しいです。

 《シュン視点》


「見つかった!」

 

 咄嗟に逃げようとしたが、疲れ果てた身体は動かない。

 

 ずん!

 

 床に押し潰された。血に濡れた真っ赤な視界に金属の壁がくにゃりと歪み落ちてくるのが見える。

 密度を増す空気ごと圧縮される。空間がたわみ歪むのがわかった。

 必死で残っている全ての力を掻き集め、ジャンプした。

 

 ***

 

 背中を叩きつけられた。血反吐を吐く。そのまま意識が消えようとした時、強烈な殺意を知覚した。

 同時に肉を切り裂く音。焼ける匂い。叫び。咆哮。

 ここは戦場なのか? 戦争は終わったはずでは?

 

 ここが、俺の死に場所か。

 土の感触を感じながら、闇に落ちた。



 

 熱い。

 熱を感じて、意識が浮上する。

 左肩に手を当てられている。

 そこから熱が注がれ、全身に拡がっていく。

 砕けた骨と破裂した内臓が熱い。燃えるようだ。

 重力波の攻撃をもろに食らった。とっさに障壁を張ったとは言え、良く耐えたもの。

 

「ぐ……」

 

 熱と苦しさに呻いた。全身が激しく痛む。

 

「………………」

 

 声が聞こえたが、再び俺は意識を手放した。手放す直前、唇に何かが触れた気がした。温かくて優しい感触。だが、全ては夢だったのかもしれない。

 

 

 

 寝ている。布の上。さらに柔らかい毛布のような物が掛けられて。

 そこで、覚醒した。

 はっと身体を起こそうとして、苦痛にもがく。

 身体がばらばらになりそうな痛みに襲われた。


 確か、骨が砕けていたはず。内臓も損傷を受けていた。

 だが、痛みはあるが、骨は修復されているようだった。上半身裸で包帯を固定するように巻かれている。体内の内出血も治まっていた。

 治療を受けたのか? なぜ? どうして治療されたのだ?

 

 あたりに目を配る。狭い部屋の中。石の壁。石の床。薄暗く、他に何もない。

 牢獄か? 捕らえられたということなのだろうか?

 

 殺さないで捕らえて、何に使うつもりなのか? また、戦いの道具として利用されるのか?


 

 

 扉が開く気配に目を開ける。靴音を響かせて側に来た。

 俺は内心驚愕した。

 そこに立つ男は時代錯誤と言っていい服装だった。言うなれば、中世ヨーロッパ時代のような? 物語にしか出て来ないような衣装。

 肩に掛けられた光沢のある生地はひょっとして絹だろうか? 化繊を使用した部分はなく、固そうな厚手の青い詰襟の服に、鉄で補強された革の防具を着けている。

 腰には剣。

 今時、剣?

 目を疑ったが、意匠をあしらったそれは実用的なものに見える。

 

 均整のとれたがっしりとした体格の若い男で、背が高い。二メートルはあるだろう。

 顔を見上げた俺は、映画の撮影現場なのかと納得した。

 ちょっと見ないほどの整った顔をしている。金色の波打つ髪は背まで長く、首の後ろで一本にまとめられていた。氷のように澄んだ青い眼。

 立っているだけでも絵になる色男だ。きっと名高いスターなのだろう。あいにく、俺は映画もヴィデオも観たことがないが。娯楽とは無縁の境遇だったのだ。


 芝居なんかでもなかなか本格的に用意するものだなと感心した。一瞬、本物だと思ってしまった。



 

 どうやら、俺は撮影場に現れてしまったらしい。自分の正体を知られていないかもしれないと、わずかな希望を抱く。

 

「………………」

 

 男が話しかけてきた。耳慣れない言葉で理解できない。当惑する。インターコスモを話さない者がいるとは思わなかった。よほどの僻地にある世界なのだろうか?

 意思疎通のために、俺はテレパシーを使った。

 

『身体は大丈夫か? ひどい怪我をしていたが。変わった服を着ていたな。脱がせ方がわからなかったので、治療のため裂いてしまった。申し訳ない』

 

 テレパシーは相手の考えを全て捉えることができるが、俺は習慣的に自分に向けた言葉の意味や思考を掴むだけに限っている。そうしないと余計な情報が洪水のように押し寄せてくるばかりで苦痛で不快なのだ。

 

『助けてくれてありがとうございます』

 

 インターコスモで答えながら、慎重にテレパシーで意味を相手に届ける。うまく同調させれば、相手は直接頭の中で認識しているのではなく、言葉として耳で聞いたと錯覚するのだ。

 ここの言語がこれならば、早急に習得する必要があった。発せられる単語はテレパシーで意味を辿れるので、それほど困難な作業ではない。

 

『ドルガ――(巨体の体毛の長い凶暴な獣のイメージが浮かんだ)――に危うく殺されるところだった。間に合って良かった』

 

 では、殺気を感じたのはドルガという動物で、彼が助けてくれたということか。ずいぶん危険な場所で撮影しているのだな。

  映画俳優も楽ではないようだ。命がけで臨場感を出しているらしい。

 

『私は第二騎士隊隊長ロワクレス・セナ・ザフォード。お前の名前は? お前のような子供が、どうしてあんな危険な森に一人でいたのだ?』

 

 名前と一緒に、大量のイメージが流入してくる。だが、それを消化する前に、変なことを言われた気がして貴重な情報を右から左に受け流してしまった。


 子供? 俺が、子供? これでも十七歳だ。確かに、いつも年齢より若く見えるらしいが。


 俺の名前を訊いたのか? 認識番号はWZ(ダブリュゼータ)4。シングルナンバーだ。だが、この男に認識番号を告げたくなかった。俺は自分が人間だと忘れないために手放さなかった名前を告げた。

 

『俺はシュン春日カスガだ。日本出身なんだ。言いづらかったらシュンでいい。ただし、子供じゃない。これでも十七だ』

 

 相手は目を見張ったが、直後柔らかい笑みを浮かべてきた。心が温かくなるような美しい笑みだった。こんな微笑みを向けられたのは、俺は初めてだ。

 思わず見惚れていると、ロワクレスと名乗った男が、さらに思いがけないことを言った。

 

『シュン。可愛いな。私の事はロワと呼んでくれ』

 

 可愛い? 可愛いだって? 耳慣れない言葉に、俺は大混乱してしまった。

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