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13 緊急会議

 《ロワクレス視点》


 シュンが口づけをしてきた! この衝撃はいかほどであろうか! その後にじわりと全身を満たしていく我が喜びは!


 あまりの嬉しさに愛しい想いが募り、シュンを力いっぱい抱きしめてしまった。シュンがぐったりとしてしまっていささか慌てたが。

 どうしてシュンを手放せよう? ずっといつまでも我が腕の中に留めておきたい。

 ブルナグムが変な顔をしていたが、気にはしない。奴はいつだっておかしな男だ。


 だが、そんな幸せな気持ちを突き落とすような恐ろしい現実が待っていた。


 セネルスの捕虜は必死に隠そうとしていたが、シュンの力の前では本を開いて見せるようなものだった。

 信じ難い!

 もちろん、シュンの言葉を疑う気はない。

 ヤイコブの表情は、シュンが暴いた通りだと裏付けるものだ。


 それでも!

 我がテスニアを落とすために魔獣召喚の魔法陣を展開させ、しかもその制御を失ったとは!


 セネルスの軍が全滅したのも、魔法陣に関わった魔術師が死んだのも、いわば自業自得。だが、その暴走した召喚の場は今も活動しているということ。



 すぐに緊急の会議を開く。各部隊隊長とその補佐官、リーガン魔術師とその部下の魔術師たち。ロド治療師にも参加してもらった。もちろん、私の横にはシュン。傍らから離せるはずがない。


 ブルナグムに訊問から知り得た事柄を報告させ、さらに私が補足した。特にシュンが確認したという青紫の蔓にも言及した。


 シュンが具体的なイメージを彼らに送ることができると小声で言ってきたが、私はそれを止めさせた。

 彼の心を読む力は人に知られない方が良い。人心に不安を与えるし、シュンを誤解させる可能性がある。ブルナグムにも口外するなときつく言い渡してある。

 ブルナグムはお調子者のように見えて、あれでなかなか口が堅く信頼できる男なのだ。でなければ、長年私の副官を勤めてはいない。


 詳細な話を聞いた彼らは一様に動揺した声を発した。彼らがざわざわと互いに囁き合い、驚きと恐れを口にするのを、私は黙って見ていた。

 その衝撃は大きかったとみえ、なかなか場は収まらなかった。

 私はただ黙して待つ。ブルナグムも静かに待っていた。


 長い時を待って、魔術師内で意見を交換していたリーガンが代表して口火を切った。茶色いひげに白いものも混じった高齢に差し掛かっている高位魔術師だ。


「昨夜の大群の襲来は、まさにその召喚の場から現れた魔獣どもであったでしょう。これまでの異常な数の出現もその召喚魔法陣のせいだったと思われます。そして、昨夜の類を見ない魔物の大群は、召喚の場が暴走した所為で呼び出されたものとみて間違いないでしょう」

「リーガン、そのような召喚魔法陣を敷くとなったら、どれほどの規模と魔力が必要になる?」


 私が発した問いに、リーガンは隣の魔術師と二、三言葉を交わして答えた。


「予想がつきません。そもそも、そのような召喚魔法陣は禁忌に属する術です。世界のバランスを変えるからです。しかし、炎を地面に描いて敷いた術ということなので、かなり大掛かりなものであったと。恒久的に設置して、魔獣を絶えず我がテスニアに送り込むつもりであったものなのか……。そのような魔法陣となれば、魔術師五十人は設置に必要でしょうな」

「暴走した魔法陣を制御に向かったその五十人の姿はなかった。シュンが見た青紫の蔓に囚われていた者が、その魔術師たちであったとしたら……?」 


 思わず言葉を飲み込んだ私の後をリーガンが引き取って続けた。


「強い魔力を持つ魔術師五十人分の魔力で強大となった召喚の場が、あの大群を吐き出した。そういうことでしょうな」

「で、では、今は? 今は魔術師も死に、新たな魔力の供給もない今なら、新たな召喚は行われないと?」


 部隊長の一人が咳き込むように声を出す。リーガンが首を横に振りながら暗い声で答えた。


「昨日のような大規模な群れは現れないかもしれない。だが、召喚の魔法陣はおそらく開いたままなのだろう。これからも、魔獣は随時出現して襲ってくると考えてよいかと」

「そ、そんな……」

「セネルスめ。なんてことを仕出かしてくれたんだ!」


 ざわざわと会議の場がざわめき出した。


「ロワ。一つ懸念がある」


 それまで沈黙を保っていたシュンが口を開いた。ざわめいていた場がぴたりと静まる。


「召喚の場を仕掛けに行った軍から連絡が来なくなれば、軍本部から様子を探らせるために後続の軍を派遣するものだ。まして、場所は最前線。それなりの規模を揃えてくる可能性がある。魔法がかかわっていれば、魔力の高い魔術師も来るだろう。彼らを青紫の蔓が捉えれば、そうなれば、新たな魔力の供給が行われる」

「それは、召喚の場がさらに強大に成長するということか」


 私は愕然とした。


「その前に、その魔法陣を壊さなければ、たいへんなことになるっす! ぐずぐずしている暇はない!」


 ブルナグムが我慢しきれなくなったように太い声を荒げた。場にそぐわない軽い口調がやたらと重く感じる。


「シュン、現場へ出た時、拘束されたと言っていたな?」


 傍らの愛しい少年に確認を取った。


「ああ。罠であるかのように捕まった。拘束したり侵入を阻む障壁のようなものを構築する魔法があるのか?」

「それは、おそらく結界でしょう。魔法陣を守るために張り巡らせてあるのかもしれません」


 リーガンが答える。


「その結界は破れるのか? 俺は一度捕まっている。テレポーテーションではその先に抜けることができなかった。たぶん二度目も捕まるだろう」


 その時の苦痛を思い出したようにシュンの身体が震えた。私はその背に腕を回す。どんな苦痛もその身に与えたくないというのに。

 膝に抱き上げたくなったが、ブルナグムの視線を見て腕を離した。私だって騎士隊の隊長だ。場を弁えてはいる。

 執務室はいいのかと? 執務室は私専用の私室のようなもの。問題ない。


「結界はそれの持つ魔力より強い魔力や衝撃で当たれば破ることができます。ただ、くだんの結界は召喚魔法陣に付随して作られているようなので、それ以上の魔力となると……。かなりの力が必要と思われます。正直、ここにいる我々魔術師の力を合わせても、ロワ隊長の力をもってしても、破ることは難しいかと……」


「結界さえも破れないとなったら、我々には手も足も出ないではないか!」


 部隊長が椅子を蹴立てて叫んだ。その目は焦燥と絶望に濡れている。第三部隊のエルトだ。すぐ熱くなるが気持ちのいい男だ。

 エルトの叫びは、ここに居る全員の気持ちだった。我々では手の打ちようがない。


「王都へ詳しい旨を報告する。早急に応援の軍と高位の魔術師の派遣を願おう。場合によっては、我が陛下からセネルス国へ働きかけていただくことも必要になるかもしれん。協力の要請であれ、要望であれ、或いは弾劾するにしろ、もっと情報と確かな証拠が必要になる。願わくば、召喚の場がもうこれ以上巨大にならないでもらいたいものだ」


「街への脅威を少しでも減らすために、魔獣が侵入してこないように対策を取りたいっすね。王都からの応援を待っていては、間に合いません。できる範囲だけでもやっておきたいっす」

「ブル。任せる。リーガンたちとよく相談してやってもらいたい」

「了解っす」


「私は一度その現場をこの目で見て来よう。シュン。私を連れて行けるか?」

「近くへは行けない。危険すぎる」

「それでいい。無茶はしない」

「では、ロワ。手を」


 私は立ち上がったシュンの手を握った。


「え? 今から行くんっすか?」

「隊長!」

「ロワ隊長!」


 ブルナグムやみんなの声が聞こえたが、空気が吸い込まれるような音を聞いた瞬間には彼らの姿が消えていた。

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