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9 魔獣の森の向こう側

「うわああああ!」


 ジャンプから戻ったと同時に、激痛に叫びをあげた。

 バリアーか? 罠か?

 対テレポーター用バリヤーに引っかかったというのか?


 異世界だと思っていたが、違ったのだろうか? 

 俺は恐怖と焦燥に、一瞬我を忘れそうになった。



 バリバリバリと身体中に高電圧が走ったかのようだ。手足が拘束され動きがとれない。

 生理的な涙が溢れる目で、それでも周囲を見ようと努力する。

 幸いなことに、分子に分解されるまでには至っていない。


 視線の向こうに巨大な円を構成している炎が揺らいでいる。炎は地面から直接吹き上げているように見えた。そういう炎がぐるりと壁のように並んでいた。炎の間から、先ほどにも目にした青白い炎の光も見える。


 空中に固定されている拘束を何とか解こうと身を捩る。

 最初のショックが過ぎると、今自分を捉えているこれがかつて経験したバリヤーではないことが判ってきた。

 しかし、何かの力が作用していることは間違いない。おそらくは魔法の力なのだろう。


 テレキネシスを使おうとした時、足元の地面を割って青紫の毒々しい色をした植物の蔓のようなものが伸びてきた。

 はっとして視線を周囲に向けると、離れた場所に同じような青紫の塊があった。あの中に人間がいれば、ちょうどそのような形となるだろう代物。さらに向こうの方にも一つ。見慣れてみると、あちらこちらに転がっていることに気づく。


 蔓が足先に触れてきた。とっさにテレキネシスでそれを弾く。同時に、自分の身体をこの見えない檻から解放させようと発動させた。

 まるで超強力な粘着テープにべったりとくっついてしまった身を無理やり引きはがすかのようだった。皮膚が全部剥がれるかとさえ思った。


 べりっ、べりっ、べりっ。


 全力で拘束からもぎ離し、地面に転がった時には、力を使い果たして息が切れた。

 皮膚は剥がれてはいなかった。感覚の誤動作による錯覚だったのだろうか。


 ぼこっと地面が盛り上がり、青紫の蔓が伸びてくる。

 俺は身体を無理やり起こすと蔓から逃れ、先ほど見た蔓の塊へと走った。


「…………!」


 蔓が絡み合った間から、人間の姿を認めた。意識はとうにないらしい。生きているかどうかもわからない。皮膚が干からび、骨が突き出ていた。この蔓に生命を吸収されたのだろうか。


 しつこい蔓は少しでも留まっていると、すぐに地面を割って先端を伸ばしてくる。さらに走って、その向こうに見えた他の塊へと行った。


『助けて……』


 俺の脳へ思考が届いた。蔓に手を掛け引きはがそうとした。テレキネシスも使い犠牲者の頭部が見えるまでに除けて、俺はそこで愕然と手を止めた。

 蔓は口からも耳からも穴と言う穴から体内へと入り込んでいた。おそらく身体の内外全てに入り込んでいるのだ。


『もう助けることはできない。死にたいか?』


 俺は犠牲者に心で語りかけた。


『死にたい。殺してくれ』


 安息を求める悲痛な願いが返ってきた。

 俺は腰のホルスターからニードル銃を取り出すと、彼の眉間を撃ち抜いた。



 直後、ぞくりと背が悪寒に震える。

 炎が立ち並ぶ向こうから、黒いものが滲むように姿を現した。


 一つ。その背後から、もう一つ。


 俺を認識し目標にしてやってくる。

 炎の外へ出てきて、それがドルガと呼ばれる魔獣である事がわかった。

 星空をバックに月の光に照らしだれた奴らの姿は、開けた空き地で見ると改めて巨大だと思う。

 カバほどと思ったがそれより大きい。小柄なゾウぐらいはありそうだ。あんなのに暴れられたらたまったもんじゃない。

 

 それがこっちに走って来る。テレキネシスで先頭の奴を捕まえ、高い場所から落下の速度を加速して後続の奴に叩きつけた。ぐしゃっと嫌な音がして青い血が飛び散る。双方完全に潰れたから再生はまず無理だろう。


 テレパシーの指針を再度伸ばすと、先ほど捉えた苦痛に満ちた思念が消えていた。俺が来るのが遅かったのか。青紫に捕らわれていた者達だったのかもしれない。


 いったい、何が起こっているのか?

 異世界出身でここの仕組みを知らない俺には、見当がつかない。




 キャンプ地へ回って見ると、そこは破壊の跡も生々しい惨状が展開していた。ここに駐屯していた軍は壊滅したのかもしれない。

 襲撃したのは、森で迎撃した魔獣の大群だったのだろうか?

 蔦に囚われた者たちはなぜ、あんなことになったのだろうか?

 背後にある炎の円からは、未だに禍々しい何かが噴き出していた。



 事情を知る者はいないかと、生存者を探す。意識がないかもしれない。わずかな命の気配に神経を研ぎ澄ました。

 微かな感触を頼りに破壊された残骸の跡を丹念に探ると、少し離れた場所の資材置き場で感知する。

 崩れた木材や箱などの下敷きになっているらしい。たぶん、資材が崩れその中に巻き込まれたのだろう。だが、それが幸いして彼は命を拾ったようだ。


 テレキネシスで積み重なっている資材を取り除く。下から現れたのは、五十台ほどの年配の男で意識がなかった。

 頭に打撃による裂傷。左足が折れている。胸部にも圧迫症状があったが、内臓破裂はしていないようだった。


 俺は男の腕を掴むと、ロワクレスの砦へとジャンプした。

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