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音楽響く異世界で  作者: 熊田猫助
第一楽章「幼少期」
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6.ほっと一息&新たな街へ

突然だが、俺がこの世界に転生して音楽が盛んな事の他に、もう一つ喜んだ事がある。


それは、お風呂があった事、だ!


まぁそれはそれは喜ばしい事だったのだが……。


今現在。

俺の憩いの場と言っても過言では無かったお風呂は、今では少し状況が変わっていた。


俺は肩口よりさらに深く、鼻のすぐ下当たりまでお湯に浸かり、溜息を吐く。


ブクブクッとお湯の中で吐かれた空気は泡となって消えていく。


そんな俺の様子を横目にチラリと見て、あからさまな溜息をつくのは、前世で俺の妹であり、現在は従姉弟であるルゥ。

ルゥは湯船の外で木でできた椅子に座り、体を洗っている。


そう。

何故かルゥがこの家へとやってきてから暫くして、仲が良い俺達の様子を見てかどうかは知らないが、お風呂に入る時はほぼ二人一緒なのだった。


「なんでいつもルゥと一緒にお風呂に入ってるんだ」

「お姉ちゃん……、それもう何度目?叔母さんもお母さんも一緒に入れっていうんだから仕方ないでしょ。お湯冷めるの早いし、そう何度もお湯注ぎ足せないんだから別にいいでしょ。蛇口ひねったらお湯が出る訳じゃないんだよ」

「それは、そうだけどさぁ……」

「一緒に入るのがそんなに嫌なの?」

「そういう、わけでも、ないんだけどさぁ……」

「もう!いいから横に寄って!私も入るから!」


体を洗い終わったルゥはお湯を被り、そう言って湯船へと入ってくる。

俺はいそいそと隅っこへと寄り、隣へと入って来たルゥがジィっと目を見てくるので、俺は例の如くツィッと目を反らした。


俺が可笑しいのか?

まぁそりゃぁ、兄妹だし?

小さい頃には一緒に風呂に入った事はあった様な気がするけれど、というか、今も小さいんだけど。

異性と言う感覚がルゥには無いのだろうか。

……。


……よく考えれば無いな。


俺は現在転生して女の子になっている事から、前世で女だったルゥには言ってみれば見慣れた物なんだろう。

対して俺は前世は男で、ルゥは現在転生して男の子だ。


異性ではあるが、異性ではない様な不思議な状況だ。


何だか何故こんなに悩んでいたのか解らなくなってきた。

まぁ、いいか。

そういう結論に達した俺は、問題を棚に上げて隅に追いやる事にした。


「ところでお姉ちゃん」

「うん?」

「試験の曲、何にするか決めたの?」


唐突に訪ねてきたルゥに、俺はウーンと唸りながら考える。

未だ候補は数曲あるのだが、そろそろ決めなければ余裕が無くなるかもしれない。


「ルゥはどうするんだ?」

「私はもう決めたよ。シューゲルトの弦型協奏曲(コンチェルト)『魔響』にする」

「あぁ~、いいねー。あの歌がつけられそうなやつ。バラードかなー」

「えぇー、アレを歌曲にするのは難しいと思うけど……」

「そうかな?ルゥがそう言うならそうかもなぁ。あ、そうだ、俺はルーヴェンの第7番にしようかな!『喜びの光』だっけ?」

「いいね!讃美歌みたいで好きだなぁあれ。唱者の試験も伴奏ないからアカペラなのかなぁ、私に弾かせてほしいけど」

「そうだなぁ……、俺もルゥに弾いてほしいけど。まぁ試験ぐらい仕方ないさ。受かったら嫌って程一緒に出来るし」

「うん、そうだね」



そんな話をしていると、心配した母マリアの声がお風呂場へと響いてきた。


「二人ともー!のぼせてないのー?だいじょうぶー?」

「だいじょうぶです!」

「ごめんなさい!もうでますから!」


どうやら随分と長風呂になっていたらしい。

確かにそろそろ出ないと頭がボーッとしている気がする。


試験の曲も決めた事で、明日からは実技の練習にも身が入りそうだ。


試験まで後数か月という所で、また気合を入れなおす俺であった。



そして瞬く間に月日は流れる。


座学に実技と、毎日忙しなく過ごし、ある程度の区切りをつける事も出来た。


後は試験を残すのみ!


そして試験の3日前の早朝に俺達は両親とタリア叔母さんに連れられ、魔楽都市ベレーベントへと向かう。


俺達が暮らすチェロの街から一日をかけての道のりだった。


魔楽都市ベレーベント。


そこは、聖楽国クレッツェンドが誇る音楽都市として栄えており、メロディアス音楽院に、魔器の製造や、魔曲の研究などを行う国家の中心都市である。


ここはクレッツエンドのほぼど真ん中に位置しており、各所から様々な物や人が集まってくる。


外界と隔絶する高く設けられた外壁から、大きな門を通って街の中に入ると、円状に広がる家屋達。

綺麗に整備された石畳の道。


ここで暮らすのは、円状に配置された街の中央に位置する一際高く大きな建物、メロディアス音楽院に通う生徒達と教員達が三割以上をしめている。

もう三割がこの街に店を構える者達で、残りが旅商人、旅行者、冒険者、貿易商等、多種多様だ。


多くの人と、多くの物が行き交う、名実ともに、聖楽国クレッツェンドの中心都市。


活気溢れる街を眺めながら、俺達は宿泊先の宿屋へと向かう。


今回の試験で無事合格すれば、俺とルゥは親元を離れ、メロディアス音楽院に併設されている学生寮で暮らす事になる。


合格するかどうかは取り合えず棚に上げ、見た事もない街並みに心奪われ、これから始まるかもしれない新しい生活に思いを馳せるのだった。



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