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音楽響く異世界で  作者: 熊田猫助
第一楽章「幼少期」
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3.再会

母の双子の妹であるタリア叔母さんと、その息子であるルゥーイ君が我が家へと到着して生じた混乱から暫く。

ようやく落ち着いた俺と家族たちは、取り合えず立ち話を切り上げ、タリア叔母さんと両親はリビングでお茶を飲みながらまた近況報告やタリア叔母さんの夫であるライアン・シューゲルトの話などで盛り上がっている。

因みに、俺の両親とタリア叔母さんにその夫は全員小さい頃からの幼馴染であるらしい。


取り合えずそれは置いといて、俺と先程の混乱の元であるルゥーイ君はと言うと、二人で取り合えず遊んでおいでと言われ、現在俺の部屋へとやってきている。


部屋までの移動の間、後ろをついてくるルゥーイ君は何故か俺に熱視線を送ってきていたが気付かない振りをした。


そして部屋へと到着した今現在、俺はベットに腰掛け、ルゥーイ君は目の前の椅子に腰かけて部屋をキョロキョロと見回している。


さて、遊ぶものも何も、ゲームなんてあるはずもないし、本等も無い。

どうしたものだろうと考えていた所で、ルゥーイ君が口を開いた。


「ねぇ、えっと、リーナちゃんと僕って何処かで会った事あるかな?」

「え?いやー、うーん、どうだろう?さっきタリア叔母さんが四年ぶりって言ってたから赤ちゃんの時には会ってるのかも?」

「ふぅーん……、どうかなぁ、僕赤ちゃんの時の事覚えてるけど会った記憶はないなぁ」

「へ?へぇ……」


そう言いながらまたルゥーイ君は俺の目をジッと見つめてくるので、俺は返事を返しながらまたツィッと目をそらす。


それにしても、そんなに自信マンマンに赤ン坊の時の事を覚えていると言い張れる物だろうか。

まぁ俺も転生者という特権から、赤ン坊の時から自我があったので覚えているのだが。


「……なんだか、それ」

「え?」

「じっと目を見ると目を反らすの。僕の知ってる人に似てる」

「え?そ、そうなの?」


一体何だと言うのか。

未だに見つめてくるし。

気まずい。

話題を変えるか?


「そ、そういえば、ルゥーイ君のお父さんって有名な奏者だよね?」

「え?うん、そうだよー。リーナちゃんのお父さんも有名だけどね」

「えぇ?そうなの?」

「知らなかったの?」

「うん、まったく。上手いとは思ってたけど……」


どうやらあの親馬鹿である我がお父様は結構有名らしい。

因みに奏者とは、この世界で楽器、魔器を奏でる者の事をそう呼ぶらしい。

まぁまだ詳しくは知らないのだけどね。


「ルゥーイ君も奏者になるの?」

「うーん、どうかな。なれるか解らないけど、楽器を弾くのは楽しいよ。リーナちゃんは弾かないの?」

「ん?うーん、私は楽器はあまり得意じゃないかなぁ」

「楽器……」

「え?」

「ううん、こっちの世界って楽器の事、『魔器』って、呼ぶよね」

「え?う、うん。そうだね……」


何だろうこれ。

この子は何が言いたいんだ?

それにこっちの世界って言った?

何故かまたジッとこっち見てるし……。


「楽器は苦手なんだね。じゃぁリーナちゃん、歌とかどう?」

「あ、歌!楽器は弾けないけど、歌は好きなんだよ」

「やっぱり!ねぇ!僕、弾ける曲があるんだ!僕が弾くから、リーナちゃん歌って!」

「え?いや、でも知ってる曲じゃないと……」

「きっと知ってると思うよ」

「え?」

「待ってて!!楽器取ってくるから!!」


そう言い残し、椅子からピョンッと勢いよく飛び降りたルゥーイ君は、一目散に部屋を出て行った。

一体何だというのか。

暫く呆然としていると、黒いケースを抱きかかえたルゥーイ君が勢いよく部屋へと帰ってきた。

そして徐に取り出すのは、弦型魔器の一番、ヴァイオリン。


声を出すでもなくその一部始終を俺は眺めていた。


そして、手慣れた手つきでチューニングを行い、俺へと視線を送ってくる。


その視線はこう語っている様だった。


そろそろやろうか。


デジャヴに襲われた。


そして、響き出す。


最初は静かに、指で弦をはじくように奏でられる前奏。


聴いた事があった。


前世ではピアノに合わせてよく歌った歌。


規律が厳しかった孤児院で唯一好きだった時間。

それが、この歌をみんなで歌っていた時間だった。


「アヴェマリア」


「アヴェマリア 慈悲深き乙女よ

 おお 聞き給え 乙女の祈り

 荒んだ者にも汝は耳を傾け

 絶望の底からも救い給う」



気付けば自然に歌っていた。

この世界にきて初めて鼻歌以外でちゃんと声に出して歌を歌った。


歌い始めにまず思ったのは、よかった、俺音痴じゃなかった。


俺はまた、前みたいに歌える。


そこから先はただただ楽しかった。


音楽を奏でられる喜びを唯々噛みしめて。



しかし、楽しい時間とはすぐに終わってしまう物で、気が付くと音楽は止み、場は静寂に包まれた。



「ほらね、知ってたでしょ?」

「なんで、この曲……。うわっ!」


なぜこの曲を知ってるのか尋ねようとした瞬間、ルゥーイ君は魔器をそっと置き、俺に抱き着いてきた。


「ちょちょちょっ!何!?何!?」

「やっぱり、歌聞いて確信した。癖がそのまんま……、リーナちゃんは、お兄ちゃんだ……」

「は?いや、まてまてまてまて、俺は……」

「俺って言った。女の子なのに」

「いや!これはその……、まて、とにかく!ルゥーイ君が俺の妹のはずがない!妹は死んだはずで……」

「お兄ちゃんも死んだ!」


そう言われればそうだった。

いや、でもすぐにはいそうですかって信じられるはずがないだろう?

だって、転生だけでもあり得ない程の事なのに、双子の兄妹が同じ世界に、しかも双子の姉妹の子供として生まれてくるなんて……。


「いや……、ウソだ。そんなはずない……。ダレだよ……、大体、俺が君のお兄さんだっていう確証だってないだろ」

「ある!歌を聴いた!あれはお兄ちゃんの歌だった!私は、お兄ちゃんの妹だよ……。信じてよ……」

「いや、いやいやいや。歌なんか証拠にならない。一先ず落ち着こう。ね?」

「イヤダ」


俺の混乱を余所に、自称妹だと言い張るルゥーイ君はまったく俺から離れようとしない。

なんだかさらに混乱してきた。

どうしたものか。


「わかった。」

「へ?何が?」

「そうだなぁ……。あ、あれは確かお兄ちゃんが小学校五年生の頃だったかな」

「……」

「隣のクラスの好きだった女の子……、カナちゃんだっけ。お兄ちゃんは放課後、その子の教室で……縦笛を」

「あばばばばばばっ!!ばかやろう!!あれは若気の至りというやつだろうが!!!そんな事をばらすやつが……、どこに……?」

「信じた?」

「……そんな馬鹿な。本当に?本当にお前なのか?」


俺以外知りえないと思っていた事を言いやがった。

俺の黒歴史を知っているという事は腹立たしいが、それを知りえた人物は一人しかいないはず。


そうなのか?信じていいのか?


「お兄ちゃん」

「あぁ……、あの時守れなくてごめん……」

「いいよ、またこうして会えたし。死んじゃったけど、生きてるでしょ」

「あぁ……」


涙が、溢れた。

二度と会えないと思ってた。

俺のたった一人の、家族だった。


この世界で、新しく血のつながった家族が出来たけど、どこか遠慮してしまう。

前世の記憶がブレーキを踏んでしまう。


勿論この世界の父と母を好きではない訳じゃない。



でもやっぱり、お前に会いたかった。



お互いにお互いの存在を、温もりを感じながら抱き合った。

今まで離れていた空白を埋める様に。


どれぐらいの時間が経ったのか定かではないが、どちらも涙が止まり、ようやく落ち着いてきた所でルゥーイ君事、妹が口を開いた。


「そういえばさ。お兄ちゃん……、ううん、これからはお姉ちゃんって呼ぼうかな」

「え?あぁ……、しょうがないか。俺今女の子だし……、俺は……、ルゥ?」

「うん、それでいいよ。そんな事よりも!ねぇ、お姉ちゃん」

「ん?」

「従姉弟同士ってさ、結婚出来たよね?ふふふ」

「え?いや。どうだろう……、聞いてみないと解らないけど、そうだっけ?それがどうかしたのか?」

「んー?いや、べっつにぃー。ふふふ」


なんだかよく解らないが、また妹と再会できた事は本当に良かった。


これからはまた兄妹一緒に、いや、姉弟か?


まぁどっちでもいいか!


とにかく、これからは素直に新しい人生を喜び、新たな人生を歩んでいけそうだと、まだ見ぬ未来へと思いを馳せるのだった。


「ところでお前、なんで男の子なのに、女の子の恰好を……?」

「ん?うーん……、お母さんの趣味?」

「へ、へぇ……」




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