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音楽響く異世界で  作者: 熊田猫助
第一楽章「幼少期」
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1.転生した世界

ぼちぼちと進めていきたいと思います。

少しでも楽しんで頂ければ幸いです。


理解は及ばないが、転生という事実を悟った俺は平和に暮らしていた。


最初はどこか外国に転生したんだろうと思っていたが、月日がたつに連れてそれは間違いであった事に気付く。


まず現代では当たり前の様にあった筈の電気が無い。

この世界での明かりは未だ蝋燭が主流であった。


文明のレベルが、現代ではあり得ない水準なのだ。


しかし、この世界と前世で共通する物がある。

それが楽器であり、音楽だった。

クラシックな方に偏ってはいる様だが、俺もまだそこまでこの世界に詳しい訳ではないので追々知っていきたい事柄の一つである。


俺はまず言葉を理解しようと頑張った。

言う間でもなく、一からのスタートだったがこれはさほど苦労は無かった。

成長と共に段々と理解が出来る様になり、たどたどしさは残るが年相応には話せるようになった。


ある程度は子供らしく振る舞うように心掛けたが、これが案外難しく、怪しいところもあるかもしれないが、言葉のたどたどしさの助けもあってか気になる程ではないはずだ。

そして俺事、リーナ・ベリウスは何を隠そう女の子である。

前世で男であった俺は、転生して女の子になってしまったのだ。

まぁなってしまったものは仕方がないとして、あきらめるという選択肢以外存在しない訳だが。


中々慣れなかった環境ではあったが、それなりに幸せは感じている。

しかし、どうしてもぽっかりと胸に空いた様な穴を埋めるには至らなかった。


前世で死に別れた妹の事が頭から離れないのだ。


それを踏まえて客観的に自分を見てみると、酷く暗い子供の様な気がする。


時折心配そうに俺を見るこの世界での父と母に、少し申し訳ない気分になったが、どうしようもない気もする。


まぁいつまでも塞ぎ込んでいる事は出来ないと頭では解っているのだが……。


暫く物思いに耽っていた俺は、ふと自室の窓から外を見る。


目の前には結構な広さの庭が広がっている。

何を隠そう、俺の父親はどうやら結構偉い人らしく、ここ、チェロの町の領主様なのだ。


前世で孤児だった事を考えると、何不自由ない恵まれた環境。

何より両親がいるという事が素直にうれしかった。


まぁそれはさておき、俺は庭を眺めつつ、そろそろかなと頭の片隅で考える。


いつも決まった時間に水をやり、いつも決まった時間に水やり終える我が家で働くメイドさん。

彼女が屋敷へと入っていくのが目に入った。


それを見た後、俺は自分の体には少し大きすぎる椅子から飛ぶようにして降りる。


座った状態で完全に足が浮いているので、言葉の通り、ピョンッと飛び降りた俺は、ペタペタと狭い歩幅で駆けていく。

目指すは父の書斎だ。


この時間に父が書斎にいない事を俺は知っている。

しかし、目的は父ではない。


まぁ最終的には父へと行きつくのだが、まずは書斎に向かう必要があるのだ。


俺ははやる気持ちを抑えながら小さい歩幅でペタペタと書斎を目指す。


暫くして父の書斎へとたどり着いた俺は背伸びをしてドアノブを回し、ドアを開ける事に成功する。

もう何度となく行っている事なので最早手慣れた物であると自負しているが、傍から見ると少し危なっかしいらしい。

まぁそれは置いといて、俺は部屋へと入り、父の書斎の隅にある高級そうなソファの上に置かれた例の物を抱き抱える様にして持ち上げる。

上質な木を削って作られたその黒塗りのケースはそれほど大きくは無いが、今の俺の体では取っ手部分を持って運ぶには大きすぎる。


重さも少しきついが、取っ手を持って運ぼうとすると引きずってしまうのだ。

だから文字通り、大事そうに両手で抱き抱える様に持つのがベスト。


俺はそれを抱き抱えて部屋の外へと出た。

そして目的の場所へと向かう。


そして数分の時間を要してようやく目的地が見えてくる、先ほど眺めていた庭に置かれたベンチだ。


そこに腰掛ける一人の男性。


何やらソワソワとしていて、足が小刻みに貧乏ゆすりを繰り返している。

その男性に、俺は少し遠くから声をかける。


「とうさま!!持ってきました!」


俺のその声にハッとした彼は直ぐに立ち上がり、猛ダッシュで俺の傍へと寄ってくる。

そして俺の体は浮遊感に包まれ、軽々と抱き上げられた。



「おぉ!私の可愛いリーナ!!心配してたんだよ!よくぞ無事で!!」

「えっと……、あ、はい」


毎度のことながら大げさな人だ。


黒く短めの髪を撫でつけたオールバックに、顎に少しの髭を蓄えた男性。

身内の贔屓目かどうか判断はしかねるが、結構男前な部類に入るのではなかろうか。

何を隠そう、この人こそがここチェロの町の領主であり、俺の父、ジョン・ベリウスその人である。


そして彼は俺を抱き上げたまま、わははっと笑いながらひとしきり回った後、そっとベンチへと俺を下した。

少し、いや、かなり恥ずかしさが込み上げるが、俺は今五歳の子供なのだ。

父の子煩悩、甘んじて受けよう。


そして俺は抱き抱えていたケースを父へと渡し、そして父はその中からある物を取り出す。


それは前世で知らない人は殆どいなかったであろう有名な楽器によく似た物。


ヴァイオリンと瓜二つの魔器と呼ばれる楽器。

正確には、弦型魔器の一番と呼ばれる物らしい。


最古にして最高の魔器として名高いそれの音色は、俺のお気に入りになっていた。


父は魔器と、それを演奏する為の弓を取り出した後、俺に向かって仰々しくお辞儀をする。


「さて、お姫様。本日はどのような音楽を奏でましょうか」

「きのうのと同じのがいいです」

「畏まりました。それでは……」



そんなやり取りを経て始まる音楽。


美しい音色がどこまでも響き渡り、俺の体を包み込んでいく。


あぁ、この瞬間、この時だけは、今響いている音楽の事以外が頭から消え去っていく。


生前はあまり聴くことが無かったクラシック調の音楽だが、これならば歌がつけられそうだ。

そんな事を考えながら父の奏でる音楽へと夢中になっていく。


そしてふとした違和感に気付いた。


自分も少しメロディを覚えていた事で、鼻歌を口ずさんでいたのだが、それに合わさる様にして別の者の声が聞こえてきたのだ。

暫くは空耳かと思い、構わず続けていたが、どうも空耳では無い様だ。

キョロキョロと辺りを見回し、ふと自分が座るベンチの隣を見る。

そこにソレはいた。


とがった耳にとんがり帽子。

小人の様なそれは父の奏でる音楽に同調して鼻歌を口ずさんでいた。

リズムに乗る様に揺れる小さな体。


暫く呆然とソレを眺めていた所で、音楽が終わりを告げた。

次の瞬間、ソレと目が合い、小人の様な姿をしたソレは慌てた様に消えていった。

それはもう、跡形もなく。


キツネにでもつままれたかのような気分になり、目を白黒させていた所で、父から声をかけられた。


「ふぅ、ん?リーナ?どうかしたのかい?」

「え?あ、いいえ、何でもないです」

「そうかい?ならいいけど……、で!どうだった?パパの演奏は!」


小人が見えた等と言えるはずもなく、何事もなかった様に振る舞う俺に少し違和感を覚えながらも、父は俺にいつも通り感想を訪ねてくる。

そして、俺はいつも通りの答えを返す。


「すごく、かっこよかったです」

「でへへ、そうかい?そうだろう?」


うん。

凄くだらしない笑顔である。

男前が台無しだ。

もう少しキリッとして貰いたいが、何も言うまい。


そして、手際よくいつもの練習を終えた父は魔器を片付けながらこんな事を言い出した。


「あ、そうだ!リーナ、姉弟が欲しくないかい?」

「は?あ……ええと」


凄く反応に困る事を言い出したぞこの人。

なんだろう。

弟か妹が欲しいと答えると、頑張っちゃうとでも言うつもりなのだろうか。

これはどう答えるべきなのか……。

暫く思案していると、父は言葉を続けた。


「実はね、母さんの双子の妹とその息子さんが家で一緒に暮らす事になってね。リーナとその子は歳も同じだし、いい遊び相手になるんじゃないかとね。」

「あ、なるほど。それはたのしみですね!」


なんだ、実の姉弟という訳では無かったのか。

その事に少し安堵の溜息をつく。


それにしても、キョウダイか。

その言葉に少し憂鬱な気分が蘇る俺であった。



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