表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
音楽響く異世界で  作者: 熊田猫助
第一楽章「幼少期」
13/13

12.噂と出会い

入学式が終わって、一月が経ち、新入生達も新しい生活に慣れ始め、チラホラと仲がいいグループが出来始めている様だ。


そんな新入生達の中で浮いている存在がいた。


入学試験で破格と言っていい程の才能を見せつけて合格したという二人。


しかも二人とも有名な音楽一族の出だと言うのだから尚更噂が広がるのは早かった。


まぁそれも原因の一つではあるのだが全てとは言い難い。

それは、数年前から試験官として参加しているトーマス・スチュアートの存在も噂を広めるのに一役買っていたという事だ。

何ともお喋り好きな彼は、受け持つ授業で事あるごとにその二人の名前を出すのだ。


余程その試験の内容に感動を覚えたらしい事はその語り口で理解出来るのだが、その口の軽さとお喋り好きな所は少し問題だろう。

それでいて教員の中でも上位の実力を持っているというのが、案外始末に困る所だった。


まぁそんな彼の性癖、というか、残念な所は採用されてから一年と持たずに知れ渡っているので今更問題視されている訳でもない。


まぁそれはさて置き。


そんな遠巻きに注目を集めている二人。


一人は、リーナ・ベリウス。

彼女は、トーマス曰く、全てを魅了する歌声を持ち、女神の眷属である精霊を顕現するほどの魔力を秘め、その姿は天使の様に愛らしい、との事。

唱者についてはその才能を持った者が圧倒的に少ない事もあり、ある程度の魔力を歌として響かせる事が出来るだけでも貴重な部類に入る。

ただ、そのある程度の魔力で使い物になるのかというと、それはNOと言わざるを得ない。

この世界で、音と魔力は密接に関係していて、魔器という媒体を使うと扱える魔力の量が桁違いに跳ね上がるのだ。

これがどういう事かというと、簡単に言って、歌と魔器の奏でる音楽では均等が取れないという事だ。

要するに、音楽に対して歌の音量が小さすぎるのだ。

対して、リーナ・ベリウスの話に移るが、彼女はその魔力が桁違いに大きいという訳ではない。

年齢的な物を考えれば、常人よりは遥かに高い素養を持っている事は間違いが無い。

しかし彼女は、その魔力をどういう訳か空気中に留める事が出来ていた。

そしてその魔力は、停滞するだけではなく、精霊にまで昇華する事が可能だというのだ。

魔力の塊である精霊と、リーナ・ベリウスの二人が混声で歌う時。

元はリーナの魔力である精霊を介して、その魔力の広がりは無尽蔵とまでは行かないが、規格外に広がる可能性を秘めていた。



そしてもう一人は、ルゥーイ・シューゲルト。

彼、ないし彼女と呼ばれる事もあるが、その技量は既に年齢という壁をゆうに超えており、魔器と魔曲、両方に置いてその理解度が高く、その容姿はリーナと双子だと言っても信じられる程に良く似ている。男の子であるはずなのだが、その真実を聞かされても女の子にしか見えない。

魔曲とは、楽譜通りに演奏出来て初めて効果を発揮する。

その為、常に正確に、譜面通り、完璧に弾くことが、魔曲を魔曲たらしめる最低条件だ。

それが出来て初めて、魔器を演奏する腕、魔力の流れを操る事が生きてくる。

その二つを、7歳という年齢である程度までではあるが、体現しているルゥーイは破格の存在と言える。


そんな二人を評して、噂が噂を呼び、実際の実力を少しづつではあるが、授業で見る事によって広がっていったのが、双子の女神の生まれ変わりなのではないかという物だった。


そんな噂が広がり、当の本人であるリーナ・ベリウスの友達を作るという計画がご破算になった事など、周りで遠巻きに憧れの眼差し等を向ける生徒達には知る由も無かったのだった。


そんな中。

数少ない体を動かす体育の様な授業をしている時に事は起こった。


注目の的であるリーナとルゥーイの二人は、傍目から見てもかなり仲が良く、常に二人で行動していたのだが、今回は少し勝手が違っていた。

二人のうちの一人、ルゥーイが学院からの呼び出しでこの授業に出ていなかったのだ。


二人一組で行われる準備体操。

何時もは早々にリーナとルゥーイの二人で組んでしまうのだが、今回ばかりはそうもいかず、リーナが一人残されていた。

そしてもう一人、あぶれた女の子が存在していた。


彼女もまた、幼馴染と言える男の子と仲が良く、こういった二人組を作る時は常に彼と一緒に行動していたのだが、今回はその男の子が熱を出して休んでいたのだった。


その状況に、リーナは特に気にした様子も無くキョロキョロと辺りを見回していたのだが。

彼女の存在に気づき、近づいてきていた。

そんな状況に少しの騒めき、基、嫉妬や羨望の様な眼差しに刺される彼女は内心気が気ではなかった。

傍目に見てもオロオロと落ち着きが無い。

そんな状態の彼女を知ってか知らずか、ゆっくりと近づいて来たリーナは少し伏し目がちになった後意を決した様に口を開いた。


「あのー、君も余ってる、よね?良かったら組んでくれる?」

「ひゃ、ひゃいっ!」


酷く動揺したのが伝わってくる程の上ずった返事が飛び出した。

リーナも少し驚いたのか、目を丸く見開いている。

クスクスと周りの一部から漏れる嘲笑の笑いに彼女の顔が赤く染まる。

呆れられたかという思いと羞恥心に襲われる中、そっと彼女は顔を上げ、リーナの方を見上げる。

するとリーナは彼女に対して少し微笑んだ後、周りをグルリと一瞥し、笑いが起こっている場所を睨む。

鶴の一声と表現するのもあれだが、それだけで笑いはピタリと止んだ。

恐る恐る顔を上げる彼女に、リーナは同性でも見惚れる程の眩しい笑顔を彼女に向けた。


「私はリーナ。知ってるかな。よろしくね?」

「は、はい。よろしくお願いします。私は、ミナリア・ラグエル、です」


自己紹介をお互いにした後、自然にリーナは手を差し出し、ミナリアの手を握る。

リーナ本人は軽く握手をしたつもりで無意識に取った行動だったのだが、突然に手を握られ、また笑顔を向ける彼女に、ミナリアの顔は見る間に赤く染まり俯いてしまう。


これがどんな出会いだったのか。


リーナにとっては、今世で初めての友達。


しかし、世界的に見れば、これは運命とも呼べる出会いだったのかもしれない。


奏者と唱者とは切っても切れない関係。

対をなす存在。

舞う者、舞者。


その中でも異質な彼女は将来、リーナとルゥーイと共に、その名を世界に知らしめる事になる。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ