11.メロディアス音楽院
メロディアス音楽院に入学して、一週間程が過ぎた。
今季の入学生の総数は212人で、例年より少し少ないらしい。
30人がクラスの基本定員で、一番入学者が多い時で300人。
10クラスにわかれるのだが、今季は7クラスしかない。
クラスは1-Aから順に、B、C、Dといった分け方だ。
因みに、俺のクラスはルゥと一緒に1-Gで、クラス人数は32人だ。
他のクラスよりも2人多い。
まぁこのクラス分けは、合宿や楽院行事等がメインの分け方であり、実技の授業等になってくると少し変わってくる。
それもそのはず、みんなそれぞれ専攻魔器があるので座学以外で同じ授業になる事はあまりない。
入学したばかりの今でこそ座学の授業はそれなりに取られているが、それも2年生になるまでの事だ。
それまでは、大凡半々ぐらいの割合で座学と実技の授業があるが、それ以降は実技がメインになってくる。
全く無くなるという事は無いが、まぁ音楽院という専門的な学校なので当たり前といえば当たり前なのだが。
ここで少し、授業で習った魔器について話しておこう。
まず、ルゥの専攻している弦型。
弦型魔器の一番と呼ばれるヴァイオリンによく似た魔器だ。
これが派生して、二番、三番、四番と大きさ等が少し違う魔器がある。
次に、管型魔器。
これには属性という物があり、金属性、木属性の二つがある。
それぞれ一番から四番まで存在し、音、形、大きさがそれぞれ異なる。
そして、打型魔器。
これはまぁ太鼓、前世ではティンパニーと呼ばれていたような物だ。
派生魔器は現在開発中らしい。
そして、特型魔器。
これはもう見たそのまんま、ピアノだ。
これは大きさ的に外での運用はほぼ不可能な特殊な魔器なのだが、専攻魔器とは別にこれを練習する生徒も多い。
最古の魔器の次に生まれたとされ、魔曲作家はこれを用いて作曲するらしい。
最後に、唱者。
今季の唱者は、俺を含めて7人しかいない。
しか、と言っていいかは微妙な所で、学年によっては二人や三人、平均で五人程と極めて少ない。
例年よりは少し多いのだが、皆が皆、唱者になれるとは限らず、どれだけ多く唱者希望の者が入学してきたとしても、二人が卒業出来ればいい方というかなりの狭き門だ。
この話を聞くと、少し身構えてしまうが、頑張る他ない。
まぁ、それはさて置き、今現在。
休み時間という事で、教室で俺とルゥは向かい合って椅子に座っているのだが……。
「ねぇ、ルゥ」
「んー?なに?お姉ちゃん」
「何故私達は避けられてるの?」
「え、そう?」
俺の言葉にルゥは教室をグルリと見回す。
どうやら此方の様子を伺っていた様で、慌てて顔を反らす生徒が数人見て取れた。
入学式から一週間が立った今現在。
俺達は、遠巻きに見られる存在になっていた。
避けられている、とまではひょっとしたら行かないのかもしれないが、近づいてくる子も少ない。
それでいて視線は常に感じるし、たまに話しかけてくる子も余り親しみやすいとは言えない態度だ。
どんな態度かと言うと、なんだか遠慮がち?というか、女の子はまだマシなのだが、男の子のほうがなんだか、硬いと言うか、常に緊張しているというか。
「きっとお姉ちゃんが可愛いから緊張してるんじゃない?」
「はぁ?何を馬鹿な……」
「自覚が無いのはいい事なのかな……」
「ん?」
「何でもない。……多分噂のせいじゃない?」
「噂って?」
「ホントにしらないの?」
その言葉に俺は首を傾げる。
噂等という以前に、その噂話を聞ける友達が居ないんだよ!
「うーん、……女神って知ってるよね?」
「双子の女神の事?」
「うん、そう」
「それなら確か、音楽の始祖って呼ばれてるやつでしょ?大昔に音楽をこの大陸に広めたっていう……」
「そうそう、それ。歌の女神メロディアスと魔器の女神ミルディアス」
音楽の始祖、双子の女神と呼ばれる神話だ。
この世界、というか、このクレッツェンドの大陸に広く伝わる昔話で、音楽を齎したという女神。
「それがどうかしたの?」
「私達二人が、それの生まれ変わりなんだってさ」
「……はぁ、え?」
「そういう噂?」
「えー、そんな噂が広がってるの?なんで?」
「んー、メインはお姉ちゃんだよ。試験で精霊なんて顕現させるから」
「精霊……、あの歌好きの小人?」
「歌好きの小人って……、まぁそれだよ」
「……それで?」
「それで、僕とお姉ちゃんのよく似た容姿とかから連想して?双子の女神と」
「ルゥ男の子じゃん!女神じゃないじゃん!」
なるほど。
と納得していいのか解らないが、この国では双子の女神は国の象徴で信仰の対象だ。
遠巻きにされているのも少しは納得できる。
しかし、入学時から友達を作ろうと意気込んでいた俺の気持ちは見事に空振りしている。
落ち着くまでの辛抱だと言い聞かせて、溜息を吐くしかない俺であった。