表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

新世紀の殉教者

早く家に帰りたい。早く眠りたい

作者: keisei1

 爆撃機が墜落していく


 最早それが敵のものなのか 味方のものなのか それすらも今やどうでもいい


 僕は右腕を引きちぎられ 断崖に横たわり 出血している


 僕の右腕を奪ったのは密林戦で 僕を凌いだ米兵だったが


 その彼ももう死んでしまって この世にはいない


 今思い返すのは 僕が故郷に残した彼女からの手紙


 疎開先では大変だけど 上手くやってるらしい


 疎開仲間がよく口にしているようだ


 「早く家に帰りたい」と 


 それは偶然にも 僕の戦友の今際の言葉と同じだったよ


 彼もよく言っていた 「早く家に帰りたい 早く眠りたい」と



 要塞が炎上している


 それが敵のものであったのか 味方のものであったのか それすらも今やどうでもいい


 僕は右足をもがれ 川べりに横たわり 口から吐血している


 僕の右足を奪ったのは 米兵が仕掛けた地雷だったが


 その彼も この要塞戦で命を落としたのは確かなようだ


 息も切れ切れになって今も思い返すのは 故郷に残した幼い従妹のこと


 彼女は疎開先では 随分虐げられているようだ


 彼女は疎開仲間とよく言葉を交わしているらしい


 「早く家に帰りたい」と


 それは幸か不幸か 僕の戦友の死に際の言葉と同じだったよ


 彼もよく言っていた 「早く家に帰りたい 早く眠りたい」と



 今日もたくさんの犠牲者が出た


 僕は一兵卒として その惨状を目に焼き付けるだけだった


 多くの仲間を失って 死の恐怖に晒されて

 

 それでもなお僕が何か口にすることが許されるならば


 それはこの一言だけだろう


 「早く家に帰りたい 早く眠りたい」


  

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ