早く家に帰りたい。早く眠りたい
爆撃機が墜落していく
最早それが敵のものなのか 味方のものなのか それすらも今やどうでもいい
僕は右腕を引きちぎられ 断崖に横たわり 出血している
僕の右腕を奪ったのは密林戦で 僕を凌いだ米兵だったが
その彼ももう死んでしまって この世にはいない
今思い返すのは 僕が故郷に残した彼女からの手紙
疎開先では大変だけど 上手くやってるらしい
疎開仲間がよく口にしているようだ
「早く家に帰りたい」と
それは偶然にも 僕の戦友の今際の言葉と同じだったよ
彼もよく言っていた 「早く家に帰りたい 早く眠りたい」と
要塞が炎上している
それが敵のものであったのか 味方のものであったのか それすらも今やどうでもいい
僕は右足をもがれ 川べりに横たわり 口から吐血している
僕の右足を奪ったのは 米兵が仕掛けた地雷だったが
その彼も この要塞戦で命を落としたのは確かなようだ
息も切れ切れになって今も思い返すのは 故郷に残した幼い従妹のこと
彼女は疎開先では 随分虐げられているようだ
彼女は疎開仲間とよく言葉を交わしているらしい
「早く家に帰りたい」と
それは幸か不幸か 僕の戦友の死に際の言葉と同じだったよ
彼もよく言っていた 「早く家に帰りたい 早く眠りたい」と
今日もたくさんの犠牲者が出た
僕は一兵卒として その惨状を目に焼き付けるだけだった
多くの仲間を失って 死の恐怖に晒されて
それでもなお僕が何か口にすることが許されるならば
それはこの一言だけだろう
「早く家に帰りたい 早く眠りたい」